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第20回 渋温泉(長野県) 浴衣での湯めぐりが楽しい「外湯文化」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

 ■外湯を中心に発展してきた温泉街
 木造の趣ある旅館が立ち並ぶ石畳の温泉街を、浴衣姿の入浴客がカランコロンと下駄を鳴らして歩く……。これぞ日本の温泉の原風景といえるだろう。
 
 だが、こうした風景が見られる温泉街は少なくなった。温泉街が開発によって市街地化してしまったり、旅館の大型化が進んで客を館内に囲いこんだりしたことが原因だ。このような温泉地は、周囲を散策していても情緒がないので、温泉街全体が活気を失っているように見える。
 
 日本の温泉にはもともと「外湯文化」がある。外湯とはおもに共同浴場のことを指す。旅館の中にある「内湯」の対義語である。
 
 温泉を掘削する技術が乏しかった時代、温泉の湯量は限られていたので、泉源の近くに共同浴場を建てて地元の人が利用していた。やがて共同浴場のまわりに旅館が立ち並ぶようになり、宿泊客は「外湯」に通うようになる。そして外湯に通う客を目当てにした商売(飲食店や土産物屋など)が生まれ、温泉街が形成されていった……。多くの温泉地は、このように外湯を中心に発展してきたのだ。
 
 ところが時代が進むと、温泉の掘削技術が向上し湯量が増えたことによって各旅館が内湯をもてるようになった。結果、外湯の存在感が薄れ、温泉街を浴衣で歩くような風景は珍しくなっていったのだ。
 
 ■宿泊客が入浴できる9つの共同浴場
 そんな現代においても、外湯が存在感を放つ温泉地がある。その代表が渋温泉だ。奈良時代からの歴史をもつといわれる渋温泉は、石畳の情緒ある温泉街の風景が魅力の出で湯。
 
 9つの外湯(共同浴場)があり、宿泊客は浴場のカギを借りて、自由に湯めぐりを楽しめる。9つの湯をすべてまわって温泉街の高台にある「高薬師」に参詣すれば、苦(九)労が流され、満願成就するといわれている。
 
 その際、旅館で販売している「巡浴祈願手拭い」という手ぬぐいに、各共同浴場に設置されている朱印を押すことができるので、スタンプラリー感覚で湯めぐりを楽しむ浴衣姿の観光客も少なくない。
 
「あそこの温泉に行ってみよう、いや、こっちに行こう」という入浴客のやりとりが、そこかしこで行われているので、自然と温泉街が賑やかになる。
 
 それぞれの外湯は、地元の人が家の風呂代わりに使用するこぢんまりとしたもので、湯船がポツンとあるのみ。だが、それぞれ源泉が異なり、微妙に泉質が違っているので、その差を比べながら湯めぐりをするのも楽しい。
 
 一番湯と呼ばれる「初湯」から順番にめぐり、九番湯の「渋大湯」で締めるのもよし。もちろん、自分好みの共同浴場に腰を据えてじっくり楽しむのもよし。外湯めぐりのスタイルは人それぞれだ。
 
 ■個性の異なる多彩な泉質
 あえておすすめの外湯を挙げるなら、結願湯とも呼ばれる「渋大湯」だろう。温泉街の中心に位置する渋大湯は、9つの外湯の中でいちばん立派な建物。総木造の浴室内には、熱湯とぬる湯に分かれた湯船が並び、緑色をおびた褐色の濁り湯がかけ流しにされている。
 
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 ほかの外湯は透明や白濁の湯で、このような色をしているのは大湯だけ。数十メートルしか離れていないのに、これほど特徴の異なる温泉が湧き出しているのだからおもしろい。
 
 入浴客との交流も外湯めぐりの醍醐味のひとつ。手ぬぐいを持って湯めぐりしている人と「いくつ入りましたか?」をきっかけに話が弾んだり、地元の人と「どこから来たの?」と聞かれて郷土の話に花が咲いたりする。単に体の汚れを落とす場ではなく、社交場としての役割も果たしているのだ。
 
 外湯(共同浴場)の文化が続いている温泉街は今も活気がある。群馬県「草津温泉」、長野県「野沢温泉」、兵庫県「城崎温泉」なども外湯めぐりが楽しい温泉地だ。
 
 浴衣姿で外湯をめぐりながら土産物屋、飲食店などが並ぶ石畳の通りをそぞろ歩く。こうした非日常体験も温泉の楽しみ方のひとつである。

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