其の七-2
バランスシートは並べて見るべし(月次編)
第57号では、過去10年間程度、バランスシートをならべてみますと、過去にどのようなことがあったのか、よくわかるという話をしました。
再度、確認です。
バランスシートを見る場合の前提として、残高にはそれほど変化はないことが普通であることを知っておくべきです。変化があっても、一定になっています。これは、月末の試算表にも言えることです。
本来、残高はあまり変化しないのに、変化していれば、経営的に重要な何かが起こったことがわかります。
月次のバランスシート残高の推移表を作成してみますと分かることはたくさんあります。
売掛金が増加または減少していれば、何かしら、変化があったことが分かります。
それに違和感を覚えるか、そうでないかの問題です。
つまり、月次バランスシート残高推移表を見ることで会社の予兆等がわかってきます。だから、バランスシートを「見る」ためにも、月次バランスシート残高推移表を作る必要があります。
まず、過去24カ月分の残高を記載してじっくりとみることにしましょう。大切なことが一つあります。それはその推移表に損益計算書の項目を記載しないことです。
なぜかといいますと、やはり、日頃の習慣から、損益に目が行ってしまい、バランスシートをあまり見なくなるためです。
さて、ここから主要な勘定科目ごとに残高推移表の見方を考えてみましょう。ポイントは資金関係から見ることです。
【現金預金】
現金預金の月末残高は、月中に大きな変動があっても、ほとんど一定しています。逆に一定していない場合は、資金的に不安定である証拠です。
増加していても手放しで喜ぶ前に、その原因を探さなければいけません。借入の増加なのか。仮にそうであれば、使う必要のないお金を借りているため現金預金の残高が増加したのか。
借入の増加がないにも関わらず現金預金が増加しているのであれば、売掛金の減少を確認してみます。売上の増減が目立っていないにも関わらず、減少していれば。回収が進んだことになりますので、これは経営的に好ましいことです。
そうでなければ、次に、貸付金の減少や固定資産の減少、つまり、他の資産の減少に着目します。
中小企業の場合、貸付金は厄介な存在です。社長への貸付金は、連結バランスシートを作成しますと、相殺されますので問題ないと考えます。
社長以外の第三者に貸し付けた場合はどうでしょうか。結局、調達した資金を事業に使っていないことになります。また、大抵、この手の貸付金は返済されません。それが貸付金の減少。つまり返済があったということは、社長や会社の周りで誰かと何かがあったことを物語っています。
固定資産は、会社の経営に長期的に使用する資産であり、重要なものです。それが減少するということは、何か大きなことが起きたことになります。
現金預金が増加し、固定資産が減少している場合は、固定資産の売却も考えられます。しかし、同じ事業を継続していれば、売却した固定資産の代替固定資産は必要なはずです。ですから、固定資産の減少は不自然になります。
単純に、老朽化した固定資産を破棄しただけなのか。もしそうであり、事業を継続しているのであれば、固定資産の減少は少額か、もしくは逆に増加しているはずです。最近では、年々、設備も安価になっているといっても廃棄した固定資産の帳簿価額よりも多額なはずです。
ということは、事業転換をしたのかもしれません。事業転換は、経営上、最大の出来事です。
現金預金の増加の原因は資産だけではありません。次に負債の増加を見ます。買掛金が増加していれば、何かの原因で取引先に支払っていないことが考えられます。もしかしたら、裁判沙汰になっているかもしれません。
このように、現金預金の増加一つをとっても、様々なことが想定できるものです。
現金預金は増加以上に減少は深刻になってきます。減少傾向にあれば、たとえば、売掛金の増加がないか、あれば、間違いなく、倒産するはずです。
現金預金が年々減少し、売掛金が年々増加し、貸付金や仮払金そして投資があれば、間違いなく倒産します。
お金がないばかりか、お金の使い方が悪いためです。
ちなみに、これら現金預金の増減の原因は、キャッシュフロー計算書(間接法)を作成することで簡単に判明するので、中小企業でもキャッシュフロー計算書の作成をおすすめします。
ちなみにキャッシュフロー計算書には、直接法と間接法の二種類あります。直接法は資金繰り表とほぼ同じなので、やはり、間接法の作成をお勧めします。
【借入金】
長期借入金の場合、通常、返済金額は一定であるため、一定金額だけ減少するはずです。そうでなければ、何らかの理由で新規の借り入れをしたことになります。
そこで、固定資産の増加を見てみます。新規借り入れ分に見合った固定資産の増加があれば、資金使途は明確になりますが、そうでなければ、借入資金の行方が気になります。
また、固定資産の増加は、経営に大きな影響を与える内容です。何かがあったのだと思います。
短期借入金の残高はどうでしょうか。
返済と借入を繰り返している場合は、残高は変わらなくなります。また、名目は短期借入でも実質的に長期借入になっている場合も、変化はなくなります。
やはり、短期借入は、減少していかなければならないものですが、資金繰りもあり、そうは簡単にはいきません。
あまりにも残高の増減が激しい場合は、お金に忙しい証拠なので、いつ、何どき、資金ショートが来るかわからない会社ということになります。
【資本金】
資本金の増減は、会社の根幹にかかわることです。資本金の増加の場合と減少の場合とでは、会社の事情はまったく変わってきます。
まず、資本金の増加、つまり増資の場合は、会社に勢いがあると考えてもいい場合が多いものです。
もちろん、出資者が誰かは重大問題です。社長であれば問題ありませんが、その原資は気になるところです。
純粋に社長個人のお金の場合と、第三者から借りたお金を会社に出資した場合とでは大きく異なってきます。
第三者から借りた場合、形式的には100%オーナーですが、その背後に、第三者の影響が見え隠れすることになります。
ですから、社長以外が出資者の場合と同様、経営に影響を及ぼす人物が社長以外にもいることになります。
同族会社かどうかという税務の問題以上に、社長の出資比率の変化は、オーナー会社が多い中小企業にとっては重要なことです。
社長からの借入金を資本金にした場合もあるでしょう。社長が、バランスシートの状態をよく見せたいため、負債を資本に振り替えて自己資本比率をアップする場合におこないます。ですから、単純に、社長が貸したお金は返ってこないといった場合だけではありません。
お金を借りるために、取引をするために、自己資本を充実させるために、社長からの借入金を資本金に振替えます。
形式的にはよく見えますが、実態は何も変化はありません。
また、連結バランスシートを作成した場合は、資本金と社長の会社への投資、社長と会社との貸し借りは相殺されますので、なにも変わらないことになります。
減資は増資以上に注視すべきです。どのような場合に減資をするのでしょうか。
資本金が大きすぎる場合、減資を考える場合があります。
資本金が1億円以上になりますと、税務上の中小企業ではなくなり、特典が少なくなるからという理由で、減資をすることもあります。東京は、外形標準課税が資本金1億円以上の会社に課せられます。
株主関係を整理したい場合もあります。名義だけの株主もいるはずです。今は、一人会社といって、株主一人でも会社を設立できますが、以前は、発起人が七名程度必要でした。
社長一人では会社の設立ができなかったのです。そのため、名前だけ借りて、発起人になってもらい、会社を設立したものです。
しかし、この名義だけの株主が突然、牙を向けてくることがあります。自分が出資したわけではないのに、会社の業績が良くなり、株式の財産権、たとえば配当を要求してくることがあります。
このような名義だけの株主を早期に排除しておきませんと、事業承継を行う際、面倒になってきます。もちろん、名義を貸した人は、すでに忘れているかもしれません。その場合には、株主名簿を作成し、社長だけにしておくこともいいでしょう。
しかし、会社の業績が良くなり、また、マスコミにも取り上げられた場合、不思議と、名義株主は過去に名義を貸したことを思い出すものです。
その危険があれば、名義株主に話をして、額面分を支払って清算した方がいいこともあります。
理由を減資にしておくことです。ちなみに、減資にはお金を返す有償減資と、返さない無償減資がありますので、問題なければ無償でもいいと思います。
損失を補てんしたい場合は、通常、無償になりますので、このような名義株主を排除するためにも、損失補てんを活用すべきです。