私は数年前から、「親米睦中」を日本の外交戦略の基軸にすべきだと唱え続けている。「親米睦中」というバランスを取れた戦略は、米中2大国に挟まれる日本にとって最も国益にかなうものだと考えるからだ。
ところが、民主党政権誕生後、経験不足があって、鳩山内閣では普天間米軍基地移転問題で迷走を続け、「親米」が大きく揺らいでいた。
菅内閣では、尖閣諸島(中国名は釣魚島)海域で中国漁船と日本の海上保安庁巡視船の衝突事件を巡って、中国と激しく対立し、日中関係は大いに悪化し、「睦中」が大きく揺らいでいる。
しかし日米関係の動揺も日中関係の悪化も、結果的にいずれも日本の国益に合致しない。結局、軌道修正が行われ、「親米睦中」の原点に戻らざるを得ない。
いま日本では、政治、安全保障がアメリカに依存し経済が中国に依存する、という「ねじれ現象」が起きている。この頭と身体の「ねじれ現象」が続く限り、日本にとって、「親米睦中」戦略が最善の選択と私は思う。
「親米」の重要性について、日本国内ではコンセンサスがほぼ形成されているが、「睦中」についてはなお異論が多い。その中、「中国はあしき隣人」「中国との戦略的互恵関係は外交的な美辞麗句だ」と断じる政治家の極端な発言が特に目立つ。
われわれは、日本の最大の輸出先は既にアメリカではなく中国である現実を直視しなければならない。
ここ10年、日本の輸出構造は激変が起きている。
財務省の貿易統計によれば、アメリカ向けの輸出金額が日本の総輸出に占めるシェアは2002年に28.5%と最大だったが、2009年に16.1%に後退し2位に転落した。
一方、中国のシェアは9.6%から18.9%へとアメリカを逆転し、首位に躍進した。香港向けのシェア5.5%を加算すれば、24.4%でアメリカ向け輸出の1.5倍の規模となる。
日本経済は外需依存型経済であり、この数字を見れば、いま日本経済はどれほど中国市場に依存し、どれほど中国の高度成長から恩恵を受けるかがわかる。
日中関係が悪化すれば、両国の経済に大きなダメージを与えることは間違いない。ただし、日中双方の相手国への輸出依存度から見れば、日本側のダメージが中国側より遥かに大きい。
日本の対中国輸出依存度は中国の対日本輸出依存度の3倍に相当するからだ。筆者の調査によれば、2002年日中両国の対中国への輸出依存度は日本が15.7%、中国が14.9%でほぼ同じ水準だった。
2009年になると、日本が24.4%に拡大、中国が8.1%に縮小。単純に計算すれば、日中関係が悪化した場合、日本側の損失は中国側の3倍になる。
こうした中国依存を深める日本経済の現状を懸念し、中国への過剰依存を是正しようとする動きが出ている。その努力は評価するが、現実的には難しいと言わざるを得ない。
現在、アメリカも欧州も金融危機から完全に脱却できず、景気低迷が続くなか、欧米先進国向けの輸出の急増は期待されない。一方、新興国は確かに有望な市場だが、現時点では市場規模が限られている。
例えば、BRICs新興4ヵ国向けの輸出は日本の総輸出の26.8%を占めるが、中国(24.4%)を除くと、ブラジル、ロシア、インド3ヵ国合計は僅か2.4%に過ぎない。
要するに、中国に代わる巨大市場は現時点では世の中に存在しない。
中国市場を抜きにして、日本の景気動向も産業発展も語れないのは自明の理である。だからこそ、「親米」と同様に「睦中」も極めて重要だと私は唱え続けている。
言うまでもなく、中国も経済大国にふさわしい国際責任を果たさなければならない。
なお次回のコラムのテーマは「中国に『日本製品不買運動』が起きるか?」である。