な行動と思われがちだが、実際は短期的に対中赤字構造を是正し、中期的に中
国技術の米国超えを防ぎ、長期的にGDPの米中逆転を阻止するという氏の深
謀遠慮の結果と言えよう。たとえ双方の歩み寄りによって、短期的に貿易戦争
が回避されたとしても、中長期的には米中技術覇権の争いや経済覇権の争奪は
不可避と見ていい。今回の摩擦は米中「経済戦争」の序章に過ぎない。
今年4月3日、トランプ政権は中国の知的財産侵害を理由に産業機械など1300品目、総額500億ドルに上る中国製品に25%の関税をかける方針を発表した。それに対し、中国政府は即座に報復措置を取り、翌日の4日に米国産大豆、飛行機、自動車など500億ドルに上る106品目に25%の追加関税を準備すると発表。これによって、世界1位の米国と2位中国の間に「貿易戦争」が一触即発の状態となり、世界経済及び国際金融市場に深刻な懸念を及ぼしている。
それではなぜトランプ政権は中国に「貿易戦争」を仕掛けるか? その深層底流には何があったのか?行方はどうなるか? 本文は客観的に分析を進めたい。
対中貿易赤字是正が表向きの理由
トランプ氏が敢えて中国に「貿易戦争」を仕掛けたのは、彼の短絡かつ軽率な行動ではなく、むしろ深謀遠慮の結果と言えよう。筆者は、トランプ政権の思惑は短期的に対中貿易赤字の是正、中期的に中国技術の米国超えの防止、長期的にGDPの米中逆転の阻止にあると思う。
まずトランプ政権の短期的な思惑である対中貿易赤字の是正について説明する。2001年WTO加盟以降、中国の対米輸出も対米貿易黒字も急増している。中国側の貿易統計によれば、2002-17年、中国の米国向け輸出と貿易黒字はいずれも6倍増となり、15年間の対米貿易黒字累計額は2兆7268億㌦にのぼる。同時期中国の外貨保有高は2864億米ドルから3兆1399億ドルへと2兆8535億ドルも増えたが、実は増加分の96%が対米貿易黒字による貢献である(次頁表1参照)。
特に2017年、貿易赤字の是正を掲げるトランプ政権が発足したこの年、中国の対米貿易黒字が減少ではなく、前年に比べて250億ドルも増え、史上最高の2758億ドルに上る。一方、米国側の統計によれば、2017年の対中貿易赤字は記録を更新し、前年比8.1%増の3752億ドルと赤字全体の半分近くを占める。
対中貿易赤字の増加は、トランプ氏の我慢の臨界点を超え、一気に不満を爆発させた形で、中国に対し1000億ドルの貿易赤字削減が要求された。さらに11月に米国の中間選挙を控え、トランプ政権は中国に対し強硬姿勢を取らざるを得ぬ国内事情がある。これは米中貿易戦争の近因と見られる。
本質は技術覇権の争奪にあり
現在、米中摩擦は一見すれば「貿易戦争」の様相を示しているが、本質的には技術分野における米中間の主導権争いであり、経済覇権の争奪と見ていい。
トランプ政権の本当の思惑は、4月3日に発表した産業機械など1300品目、総額500億ドルに上る中国製品制裁リストを見れば一目瞭然となる。
米国側の対中制裁の主な対象品目は次の10分野に集中している。
上記主な制裁品目は、中国政府が発表した国家戦略「中国製造2025」で掲げる下記10大重点産業分野と完全に一致している。言い換えれば、トランプ政権は中国政府がいま人的・財的資源を重点的に投入する10大産業分野を狙い撃ちしている。米国通商代表部(USTR)もその狙いを隠さず、「『中国製造2025』に基づいて特定した」と表明した。今回の米中摩擦は実に、第四次産業革命に対する米中間の主導権争いの色彩は濃厚であることが明白だ。
実際、中国政府は「中国製造2025」で次の三段階目標を掲げている。第一段階は2025年まで製造業大国から製造業強国への転換を実現させ、製造業のデジタル化、ネットワーク化、スマート化を著しく進展させる。
第二段階は2035年まで世界製造業強国(イメージとしてG7―筆者注)の中等レベルに到達し、イノベーション能力と国際競争力を高め、工業化を完成させる。
第三段階は建国100周年に当たる2049年まで世界製造業強国の先頭を走り、主要分野ではイノベーション能力と国際競争力の優位性を確立し、世界をリードする技術と産業システムを成し遂げる。
仮に上記青写真を文字通りに実現すれば、中国は2049年まで米国を超越し、完全に技術覇権を手に入れるだろう。技術分野の米中逆転を絶対に許さない米国にとっては、覇権の転落は到底容認できない。米国の悪夢とも言えるこのシナリオを回避するために、アメリカは先手を打たなければならない。これは今回のトランプ政権が仕掛けた米中「貿易戦争」の本質的な部分だと思う。(続く)