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- 第194回 『会社と屏風(びょうぶ)は、広げすぎると倒れてしまう』
その昔、カネボウの多角化戦略は「ペンタゴン経営」と呼ばれ、
かつて多角化の成功例として脚光を浴びていたことがあった。
日本最高の企業といわれていたカネボウの名は、
今は、カネボウ化粧品にその名残をとどめるばかりとなっている。
カネボウの経営が行き詰った背景に、
肥大したペンタゴン経営があったのは皮肉なことだ。
新事業の開発も、多角化戦略も、重要な経営手法であることは間違いない。
しかし、会社と屏風(びょうぶ)は広げすぎると倒れてしまう。
行き過ぎた多角化は、往々にして本体を危うくする。
結果を求めて、あれもこれもと手を拡げるのは、
結局は何も得られないまま、かえって事態を悪化させるものだ。
とはいえ、テクノロジーに進歩で、
既に時代遅れとなっている商品やサービスもある。
本業をかたくなに守るだけでは、勝ち残るどころか、
企業として生き残ることすらできないのが現状だ。
写真フィルムのトップメーカーでよく知られた富士フイルムは、
化粧品、バイオの分野に進出し成功している。
東レの炭素素材も多角化から生まれ、今や同社の屋台骨となるまでに成長している。
「多角化=間違った経営」とは限らない。
では、正しい多角化とはどんなものだろうか。
ここでもやはり「ザ・正解」というものはない。
しかし、参考となる事例はある。
それは、私が日本法人の社長を務めたことのあるアメリカのヘルスケア企業、
「ジョンソン・エンド・ジョンソンの多角化戦略」だ。
同社は世界的な大企業だが、たくさんの中堅企業の集合体である。
多角化は、それぞれの利益責任のある中堅企業に分散されて行われる。
そのため、無秩序な投資も無制約の経営計画もあり得ない。
もうひとつは、「我が信条(Our Credo)」と称する企業理念だ。
同社はヘルスケアで世界に貢献することを方針としている。
したがって、どんなに儲けが見込まれても不動産業に進出することはない。
会社の「理念や哲学を逸脱した多角化」が、成功することはあり得ないのである。