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第46話 中国はなぜ「上海自由貿易区」の設立を急ぐか?

中国経済の最新動向

 上海地域の一部株式銘柄は急騰している。8月23日~30日の一週間に、上港集団77%、錦江投資77%、上海物貿67%、陸家嘴67%と、それぞれ上昇している。その背景には、22日に日本の内閣に相当する国務院は「中国(上海)自由貿易実験区全体方案」を採択し、自由貿易区の設立を正式に決定したことがある。自由貿易区を設立すれば、上海地域の関連銘柄は大きな恩恵を受ける思惑が働いたからである。
 
 採択された方案によれば、上海自由貿易実験区は、同市の外高橋保税区、外高橋保税物流パーク、洋山港保税区および浦東空港総合保税区など4つのエリアが含まれ、総面積は28.8平方キロにのぼる。関係者によれば、年内に「中国(上海)自由貿易区」が正式に始動する見通しである。
 
 国際ルールに基づく「上海自由貿易区」構想は、上海市政府が2013年1月に打ち出されたものである。同年3月末、首相に就任したばかりの李克強氏は上海市を視察した際、韓正・上海市書記に「既存の上海市総合保税区を基盤し、自由貿易実験区の設立を検討せよ」と指示したという。李首相の指示に基づき、上海市政府は5月下旬に、自由貿易区実験方案をまとめ、中央政府に提出した。
 
 方案には、輸入商品のゼロ関税の実施、金利の市場化、資本項目における人民元の自由兌換、サービス業の開放拡大、資金流動の自由化、優遇税制など幅広い内容が含まれる。言うまでもなく、この方案はヒト、モノ、カネの全面開放を模索する大胆な改革・開放案である。
 
 実際、この方案は激しい抵抗に遭遇した。中国証券業監督委員会は商品先物取引関連の内容に対し、反対の意見を表明し、銀行業監督委員会も金融サービス業の早期開放に異論を唱えた。このほか、財政省と国家税務総局もリース業の輸出税金還付に異議を表明した。
 
 だが、李克強首相は反対意見を押し切って、強硬突破の強い姿勢を見せている。7月3日、国務院は「中国(上海)自由貿易実験区全体方案」を採択し、8月22日に上海自由貿易実験区の設立を閣議で正式に決定した。
 
 それでは、なぜ中国政府は上海自由貿易区の設立を急ぐのか?その背景には一体何があったか?
 
 まずは中国をめぐる厳しい国際環境である。WTOの新しいラウンド交渉は妥結の見通しが立たず、機能低下が目立つ。一方、二国間または多国間のFTA(自由貿易協定)締結の動きは活発化している。特に、米欧FTA交渉とTPP(環太平洋地域自由貿易協定)交渉が注目される。世界最大規模のこの2つの自由貿易交渉の行方は今後、世界貿易のルール作りや国際的なモノ、ヒト、カネの流れを左右する可能性が高いと見られる。残念ながら、中国はこの2大交渉からいずれも外されており、厳しい局面に直面している。上海自由貿易区の設立は、この孤立状態を打破し、将来的にはEUとのFTA交渉及びTPP交渉参加に環境を整えるという狙いがあるのは明らかである。
 
 第二に、対外開放を先行させ、国内改革を促進することは、鄧小平時代以降の中国改革・開放の特徴である。経済特区の設置、外資の積極的誘致、市場経済の導入、WTO加盟など一連の対外開放の重大措置は、いずれも先進国をモデルとした国内改革の原動力となってきた。だが、ここ10年、日米欧の景気低迷が続く中、中国の高成長が目立ち、対外開放の意欲が弱まっている。そのため、国内改革も停滞している。人口ボーナスが消えつつある現在、新たな経済成長の原動力は何か?李克強首相の言葉を借りれば、それは「改革ボーナス」であり、閉そく感と停滞局面を打破する構造改革である。その突破口は正に上海自由貿易実験区である。「外圧」を活かして国内改革を断行することだ。
 
 第三に、2020年まで上海を国際金融センター、国際貿易センター、国際物流センターという3つのセンターとして構築することは、中国政府の既定目標である。しかし、緊迫感もスピード感もないままでは、この雄大な目標は机上の計画のまま終わってしまう恐れがある。上海自由貿易実験区の設立を「3つの国際センター」に構築する起爆剤にしたいという思惑がある。
 
 第四に、「自由貿易実験区」の名前を付けているのは、あくまでも限られた空間で実験を行うためである。失敗なら撤廃すれば良い。マイナス影響は限定的なものにとどまる。しかし、成功すれば全国に広げて行き、そのプラス影響はWTO加盟に匹敵するものになろう。
 
 「中国(上海)自由貿易実験区」は早ければ今年9月に、遅くても年内に正式に発足する見通しである。自由貿易実験区の設立は中国のみならず、日本企業にとっても、ビジネスチャンスに直結する一大イベントである。日本企業は、この中国経済の最新動向に対し、特に要注目である。

 

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