今回は嘱託再雇用か定年延長か、高年齢者の雇用と賃金を正面から捉えた本田技研工業の取り組みを報道された内容からそのまま紹介してみたいと思います。
今後、少子高齢化で労働人口が先細りすると予想される中、労働条件を大幅に見直すことでより働きやすい会社への転換を目指すとし、本田技研工業(以降はホンダ)は国内の従業員の定年を60歳から65歳にまで延長する方針を明らかにしました。併せて、子育てや介護をする社員向けの制度も拡充するとし、労使の協議を経て2016年度中の正式導入を目指すとのことです。
ホンダにも、2010年度から60歳の定年退職後も希望すれば65歳まで働き続けられる再雇用制度はありました。ただし給料は現役時代の約半分にまで下がり、負担の重い海外駐在をさせないと労使間で定めるなど、活躍の場が限定されていたそうです。
この定年を65歳まで延長する新制度下では、給料は現役時代の約8割を保証。技術伝承の観点から経験豊富で元気な人材には海外駐在の道を開き、新興国の現場への派遣を可能にするとのことです。
ホンダが定年延長に取り組む背景として、社員の平均年齢が44.8歳と高く、年齢構成が40代後半から50代前半が厚いといった事情もありました。この1990年前後に入社したバブル世代が60歳を迎える2025年には、厚生年金の報酬比例部分の支給開始が65歳に引き上げられてしまい、そのために起きてしまう無年金期間を埋めるために、一定の配慮が必要だとの判断があったとのことです。
ホンダは、定年延長の導入と合わせて、時間外業務を削減努力し、国内出張日当の廃止も実施する方針であり、総人件費は現行と同水準に抑えた上で、社員の働きぶりや仕事力に応じた処遇にウェイトを置くことで、社員の働き方にも変化を促すそうです。
またシニア社員の活用だけでなく、子育てや介護に関連する制度の拡充も進め、在宅勤務制度を新設し、小学4年生までの子どもを持つ社員や要介護者が家族にいる社員が利用できるようにします。加えて家族手当の見直しにも着手し、これまでは、1人目の扶養家族に対して1万6,000円、2人目以降は1人当たり4,800円支給としていましたが、これを段階的に廃止し、育児・介護手当を新たに導入。扶養する18歳までの子どもや要介護者に1人当たり2万円を人数に上限を定めず支給するとのことです。
「高齢者雇用はこれまでは福祉的な側面が強かったが、バブル世代の定年を10年後に控え、大企業も人材戦略としての高齢者雇用に舵を切らざるをえなくなる。多様な立場の人に実力を発揮してもらうことで会社も発展していきたい」と人事担当は事情を説明し、今回の定年延長は「人材活用」に主眼が置かれていることを強調していました。