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経済・株式・資産

第125話 アリババ「独身の日」セールがもたらす4つの革命

中国経済の最新動向

◆「独身の日」、国民1人当たり消費は1万5,000円超

 中国では11月11日を光棍節(独身の日)と呼んでいる。数字の「1」を独身者と見立て、この日を記念日として、中国ネット通販最大手のアリババは10年前に「独身の日」セールを開始し、今年は第11回目だった。

 

 アリババの発表によれば、今年11月11日午前0時から「独身の日」セールがスタートし、僅か1分36秒で取引金額は100億元(約1,550億円)を突破し、最終的にセールが終了した24時間の注文件数は12.92億件、取引総額は2,684億元(約384億米ドル)、日本円でおよそ4兆1700億円と過去最高を更新した。過去最高だった昨年の2135億元から26%増えた(次頁図1を参照)。この金額は日本ネット通販最大手楽天の年間売上1兆1,015億円(2018)を遥かに上回り、アメリカの二大セールと呼ばれる「ブラックフライデー」と「サンクスギビング」(感謝祭)における米オンラインリテーラー100社の売上79億ドル(2017年)の5倍弱に相当する。「独身の日」セールは今、世界最大規模の消費者向けセールイベントとなっている。アップルやユニクロなど20万以上のブランドが参加し、参加する企業数も過去最多となった。

 

 一方、中国ネット通販2位の京東(JINGDONG)もこの日の取引金額は前年比28%増の2044億元にのぼる。このほか、小売各社もネット通販に注力し、売上は大幅増となっている。中央銀行の中国人民銀行が12日夜に発表したデータによれば、11日に銀行電子取引システムが取り扱った取引件数は前年比35.4%増の17.79億件、取引総額は162.6%増の1兆4820億元(約23兆円)に達したという。言い換えれば、「独身の日」に国民1人当たりネット注文1.3件、消費金額は1000元(15,500円)を突破した。米中貿易戦争の影響で景気減速が懸念される中、結果的には中国の購買力の強さを示した形になった

 

◆アリババ「独身の日」セールがもたらす4つの革命

 アリババが牽引した光棍節セールは、中国に4つの革命をもたらし、その影響が大きい。

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 出所)アリババの発表により筆者が作成。

 

 まず1つ目は、店舗消費からネット消費に転換する消費革命である。老若男女問わず、中国国民はネットでの買い物の楽しみを実感するようになり、「独身の日」セールを1つの娯楽として享受する国民消費祭となっている。2018年、中国ネット通販総額は7兆198億元(約10兆9000億円)に上り、全国小売総額の18.4%を占め、今年は20%突破する見通しだ。

 2つ目は物流革命。ネット消費の流行によって、配達物は2012年から急増している。今年の「独身の日」にアリババ1社だけで宅配件数が12.92億件に達し、全国では28億件にのぼる。膨大な数の配達物件を一日も早く消費者の手元に届けるには、整備された物流インフラが不可欠となり、物流革命が起きた。急速に整備された物流インフラは、消費者に利便性をもたらしている。

 3番目は決済革命。ネット通販の決済手段として、スマホ決済に象徴される電子決済だ。今年の「独身の日」セールでは、アリババの取引総額は4兆1700億円にのぼるが、いずれも電子決済、特にスマホ決済だ。今年1月現在、アリババの電子決済サービス支付宝(アリペイ)の利用者数は既に10億人を突破し、キャッシュレス社会の実現に大きく貢献している。

 4番目は技術革命だ。今年の「独身の日」セールに、アリババのピーク時の取引件数は世界新記録の1秒に54万4000件だった。膨大な瞬間取引を成立させる決済サービスを支えているのは、言うまでもなくフィンテックという金融技術である。事実、今年アリババ「独身の日」セールの取引は、すべて「阿里雲」という同社独自開発のクラウド・コンビューティングで行われたのである。

 

◆米国による「中国企業排除」に備え、アリババは香港上場へ

 もし華為技術(ファーウェイ)が製造業分野における中国民間企業の代表格と言えば、サービス業分野の代表格はアリババほかならない。この2社は中国民間企業の「双雄」(二人の覇者)と言われる。

 この「双雄」は今、快進撃を続けている。ファーウェイの発表によれば、2019年1-9月同社の売上は前年同期比24.4%増の6,108億元(約9兆3500億円)、純利益は21.6%増の535億元(約8,185億円)だった。一方、アリババ集団2019年7~9月期の売上は前年同期比40%増の1190億元(約1兆8445億円)、一時的所得を除く実質純利益も40%増の327億元(約5068億円)にのぼる。また2019年会計年度の見通しは、売上3768億4400万元(約5兆8350億円)、純利益802億3400万元(約1兆2400億円)としている。好業績のため、アリババの株価は年初来35%も上昇している。

 ちなみに日本では2018年度純利益が1兆円を超える企業はトヨタ自動車、本田技研、ソフトバンクグループ3社だけだった。

 このアリババグループは今月15日、香港取引所に株式を上場すると発表した。ロイター通信によれば、上場は26日を予定し、最大134億ドル(約1.4兆円)の調達を見込まれる。実現すれば、香港では2010年以来の最大IPOとなる。

 現在、アリババグループはニューヨーク証券取引所に上場しており、11月15日現在の時価総額は4842億ドルでトヨタ自動車の倍にあたる。アメリカのトランプ政権は、今年5月以降、中国企業制裁措置を次々と発表し、米市場から中国企業を排除する動きが活発化している。その排除リスクに備えるために、アリババグループは香港上場を決断したという。

一方、図2に示す通り、現在、アリババの筆頭株主はソフトバンクグループ(25.8%)であり、香港上場を実現すれば、業績悪化に直面するSBGにとっては、財務面の改善が期待されそうだ。 (了)

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