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ナンバー2の心得(7) 補佐役の対応次第で危機は回避できる

指導者たる者かくあるべし

 日大アメリカンフットボール部員の悪質タックル問題は、前回指摘したように大学側の危機管理能力欠如で、さらに泥沼にはまった。

 世論は、いち早く謝罪会見し、悪質タックルが監督、コーチの指示であったことを暴露した“加害選手”への同情に傾き、遅れて会見した監督、コーチへのバッシング一色となっている。長引く騒ぎは、大学のイメージを著しく傷つけている。

 組織の不祥事への対応は、迅速に包み隠さず事実関係を明らかにし、謝罪と処分を断行すべきなのだ。対応を誤ると組織は崩壊する。

 素早い対応で危機の芽を摘んだ恰好の事例がある。

 2008年1月、内閣情報調査室の男性職員がロシア大使館員から現金を受け取り、情報を提供している疑いで警視庁から極秘に任意聴取を受けた。

 前年9月に発足したばかり福田康夫内閣は防諜の強化に乗り出していた矢先で、足元での機密漏洩は、政権の足元をすくいかねない。

 事件はまだ公表されていない。しかし官房長官・町村信孝は素早く動いた。自ら座長を務める内閣対策委員会を招集し事実確認と対応を開始する。

 証拠はあるのか、自供をしているのかを調査し、自供を確認すると直ちに職員を懲戒免職とし、直属の上司を厳重訓戒とした。町村はためらわず、自ら給与1か月分の10%を返納、職責に従って関係者を処分した。

 この作業を一日で終えると、町村は翌日の会見で公表した。

 「国家公務員倫理法違反事案がありました。当人は懲戒免職、および、私を含めて給与返納など、関係者の処分を昨日付で行いました。当人がロシア側に提供した資料に国家機密に関わるものはありませんでした。何かご質問は?」

 機密漏洩がないとあれば、「収賄が問われるぐらいで大したことにならないだろう」と事後発表ですますところだ。しかし、どこかのメディアが嗅ぎつければ、スクープとして大騒ぎになる。政局の火種を探す野党の追及にも火がつく。町村は見事、メディア、野党の機先を制した。

 今回の騒ぎでは、当事者たちが「大したことはない」と危機を軽く考え、事実を伏せてやり過ごせると見ているとしか見えない。

 遅ればせの会見も、「もう質問をやめてください」と広報の司会者が喧嘩腰になるぐらいなら、やらないほうがましだ。会見者も保身を図る立場の監督、コーチを出したのでは、事実関係が明らかになるわけがない。

 早い時期に、疑惑と距離を置く大学組織トップが出て、謝罪と徹底調査を約束していれば、これほどの大騒ぎにはならなかったはずだ。

 それを助言し、取り仕切る“官房長官”の不在こそが、日大組織の最大の不幸である。(この項、次回に続く)

 

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『「危機管理・記者会見の」のノウハウ』佐々淳行著 文春文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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