キャッシュレスと会社経営 ―その2―
これから社会がキャッシュレスになっていく時代、会社としてどう対応するべきかが問われていきます。
御社の金庫には、今いくら現金がありますか?
●習慣だけで現金精算を続けていませんか?
これだけ世の中がキャッシュレスになっても、中小企業の経理では小口の経費を精算するために金庫を置いています。
社員が毎日のように、立て替え経費の領収書や交通費の明細書を経理に持って来ます。
経理担当者は、出金伝票を書いて小口金庫から現金を出して精算します。
金庫の現金が少なくなると、銀行から現金を引き出してきます。
こうして経理では、何年も続くやり方になんの疑いもなく、入出金の明細と、毎日の金庫の残高を現金出納帳に記録して管理しているのです。
社員がキャッシュレスで支払った経費も、経理では相変わらず現金を使って精算する方式が続けられています。
そして定期的に、金庫の中の紙幣とコインを種類ごとに数えて、金種表に記録して、実在の有り高と現金出納帳の残高が一致していることを検証します。
金庫の現金と帳簿の残高が合っていないときは、現金を数え直し、帳簿の記入漏れや計算ミスを点検し、何時間もかけて、不一致の原因を究明しなければなりません。
御社では、小口金庫の管理に誰が何時間かけていますか?
●社内で現金を扱うと時間とコストがかかる
社内で小口現金の管理をすると手間暇がかかります。
入出金の都度、伝票と帳簿に記録して、毎日の残高を検証する仕事が発生します。
文字どおり「金庫番(出納係)」がいるのです。
立替経費の精算事務は必要な仕事です。ですが、時間をかけると、その分だけ余計にコストもかかります。
具体的に計算してみましょう。
出納係が小口現金で経費精算を1回処理すると、約10分間かかりるとします。
出納係の人件費が時給1,800円だとすると、1回の作業コストは300円(1800円÷1/6)です。
つまり、社員が立て替えた経費に、毎回300円の追加コストが発生しているということになります。
例えば、営業社員が外回りをして帰って来て、交通費1,000円の精算を経理がしたとします。会社は実質1,300円(交通費1,000円+経理事務費300円)の経費を負担したことになるのです。
御社は毎月の経費精算で、合計いくらの事務コストを上乗せしていますか?
●現金だと事務的ミスが日常的に発生する
現金は、勘定が合わなくなることがよくあります。
釣り銭を数え間違えたり、帳簿の記載を忘れたり、計算ミスをすることが日常的に発生するからです。
人間がすることに、必ずミスはつきものです。
ケアレスミスや確認不備は、どこの会社でも起きています。
ミスを防ぐために、作業後にチェックし、その後に管理者が再度検証します。
チェックを増やせば、ミスは減りますが、それに応じてチェック作業の時間が増え、管理事務コストが増加していきます。
金庫の管理に、これ以上経費をかけるわけにはいきません。
先月の現金過不足の金額は、いくらでしたか?
●現金は不正の温床になる
事務的なミスのレベルなら許せますが、経理社員による横領や着服事件は昔からなくなりません。
最初は「すぐに返すつもり」のちょっとした出来心で、ほんの少額から始まります。
誰も不正に気づかないと、だんだんと横領する金額が多額になっていきます。
発覚したときには数百万円から数千万円の事件になっています。
信頼していた経理社員に現金を約3千万円横領され、ショックのあまり脳卒中で倒れた社長を知っています。
管理している張本人にごまかされたら、ほかの社員は疑いすら持ちません。
一人の経理社員に現金を任せておくと、不正があっても気づくのが遅れます。
被害金額が大きくなるので、注意が必要です。
そのため、現金の不正を防止するには、複数の社員による管理が必須になります。
しかし、中小企業に経理事務を増員する余裕はないでしょう。
御社の現金出納係は同じ仕事を何年担当していますか?
●現金は狙われやすい
また、最近は物騒な事件も多発しています。
夜間や休日に、会社の金庫を狙った盗難事件がニュースになっています。
経理社員が銀行から現金を引き出して、会社に戻る途中を襲われる事件も発生しています。
現金は足がつきにくいので、狙われやすいのです。
運良く犯人が捕まったとしても、現金が戻ってくることはありません。
そうなると、頑丈な金庫が必要になります。
盗難被害に遭わないレベルの金庫は、それなりに高額です。
それは、管理する資産の価値に対して妥当な金額でしょうか。
御社は、現金という資産の管理にいくら費用をかけますか?
●小口現金を廃止してキャッシュレス化する
このように現金の管理には、時間もコストもかかり、なおかつ、リスクもあります。
そこで、まずは小口の経費精算用の金庫を廃止します。
現金がなくなれば、経費精算はすべて銀行振込になります。
もっとも簡単なやり方を紹介しておきます。
社員の立替経費精算を月に1回にして、翌月の給料と一緒に振り込みにします。
こうすれば、出納係(金庫番)の仕事がなくなります。
給料と一緒に振り込めば、振込手数料もかかりません。
会社から、小口金庫をなくしてキャッシュレスにすると、経理社員の作業時間が削減されて、その分の事務コストも節約できるのです。
社会がキャッシュレス化しても、会社の内部に現金が残っていては、事務効率が悪く、いつまでたっても仕事の生産性の向上は期待できません。
事務コストがかかり、ミスや不正のリスクがある「現金」をなくすと、社内から儲からない仕事がなくなります。
会社のキャッシュレス化は、社長が決めれば今日からでも始められます。
御社は、いつから社内をキャッシュレス化しますか?
8月のコラムは2回にわたってキャッシュレス化を取り上げました。
実はこのキャッシュレス化をしておかないと、テレワークや在宅勤務がうまくできません。
来月は、テレワークと在宅勤務について、中小企業の現状と課題を考えていきます。