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中国史に学ぶ(8) 鹿を馬と言いくるめる踏み絵

指導者たる者かくあるべし

 秦の始皇帝に仕えた李斯(りし)は、カリスマトップの権威を傘に着て、強引に政策を進めたのがあだとなり、始皇帝の死後に捕縛され殺された。その李斯を計略にはめて権力を握った宦官の趙高(ちょうこう)は、どうしようもない権力亡者だったから、秦の宮廷は大混乱に陥る。

 趙高は、男性のシンボルを切り落とした宦官として宮中の大奥に入り権力中枢に食い込む。だが貧民の出であり強力なバックはなかった。

 そこで、始皇帝の死に際し、丞相であった李斯を抱き込んで、自らの息のかかった皇帝の子、胡亥(こがい)を第二代の帝位につける。そうしておいて、「謀反を企てている」として、李斯を切り捨て、卑しい地位の宦官ながら取って代わって丞相に上りつめた。

 とはいえ、政治の現実については、からきし無能であった。

 始皇帝の死後、各地で農民の反乱が相次いだが、趙高は、胡亥に「盗賊まがいの輩に何ができましょうぞ」と、事態を軽く見る報告を繰り返し、有効な手を打たなかった。

 権力は手に入れたものの、「大臣たちは自分を見限るのではないか」と疑心暗鬼に陥る。ここで権力を手離せばよかったのだが、趙高はかえって、我が身への権力の集中を目指してこんな愚計を試みる。

 皇帝胡亥に、鹿を献上し「馬でございます」と言った。皇帝は、「丞相狂ったか、これは鹿であろう」とたしなめて周囲に問う。

 うつむいて黙り込む側近たち。「馬です」と迎合する者もいる。「いや、鹿です」と答えようものなら、罪をでっち上げて捕らえ、殺した。だれも趙高の失政をとがめなくなった。

 権力欲が強いだけで無能な男をトップに持つ組織ほど悲惨なことはない。

 無為に過ごすうちに、反乱の火の手は拡大する。「皇帝の批判が私に向かうのではないか」と恐れた趙高は、胡亥を殺し、王族の嬰(えい)を皇帝に立てて、しゃにむに権力にしがみつく。

 しかし、嬰は、殺された胡亥の甥であった。

 即位するや、恨み骨髄である趙高の一族を誅殺した。

 混乱の収拾は、劉邦と項羽の内戦を経て、劉邦が漢帝国を打ち立てるまで続くのである。

 無茶な踏み絵に対する側近たちの迎合と沈黙。身の回りにありはしまいか。

 某国の終盤国会の混乱を見ながら、ふとこの逸話が頭をよぎるのは、筆者ばかりではあるまい。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『世界文学大系5b 史記列伝編』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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