高崎社長は、朝食後のコーヒー片手に新聞をめくっていると、「下請法改正!」との記事が目に留まりました。
「でも、うちは資本金が1000万円以下だから関係ないはず…」と読み進めていると、どうやら…。
高崎社長:連日の猛暑には参ってしまいます。毎朝の習慣のコーヒーを飲み終えるだけで汗がじわじわと出てきます。ところで、今日の朝刊で、下請法が改正されたという記事を読みました。下請法の適用を気にしなければならない会社かどうかは、資本金の額によるから、その基準の額に満たない当社は、下請法に注意する必要はないと思っていました。
賛多弁護士:私は既に暑さに耐えかねて、日課のコーヒーを断念し、冷たい麦茶を始めてしまいました。
いつまでもこれまでと同じように、という訳にはいきませんね。社長のご認識は、そのとおりです。これまでの下請法では、下請法の適用を受ける会社は、資本金の額によって判断されてきました。御社の運送業を前提とすると、具体的には、資本金が3億円を超える会社から資本金が3億円以下の会社へ委託をする場合や、資本金が1000万円超3億円以下の会社から資本金1000万円以下の会社へ委託する場合には、親事業者に義務や禁止行為が課されることとなっていました。
ただ、このように専ら資本金の額だけで、適用範囲が決定されることとすると、下請法の適用を逃れるために資本金を減少させようとする親事業者がいたり、下請事業者に資本金の増加を求めたりする事例があり、問題視されてきました。
そんな経緯があって、令和7年5月14日に下請法が改正され、資本金基準を残したうえで、これに加えて従業員数基準が追加されました。
高崎社長:当社の資本金は、1000万円以下ですので、下請事業者には該当することはあっても、親事業者になる可能性があろうとは、考えていませんでした。従業員数基準は、何人が基準となるのでしょうか…?
賛多弁護士:従業員数基準には、従業員300人超の法人事業者が従業員300人以下の法人事業者等に委託する場合に下請法適用対象になるという「300人基準」と、従業員100人超の法人事業者が従業員100人以下の法人事業者等に委託する場合に下請法適用対象になるという「100人基準」があります。そして、従来の資本金基準における3億円基準が適用される場面と新設される特定運送委託については300人基準が適用されます。したがって、御社は300人基準に注意すべきでしょう。
高崎社長:そうでしたか。当社の従業員はまだ300人にはなっていないので、親事業者としての義務には気を付ける必要はないようですね。
賛多弁護士:ただ今回の改正は、来年令和8年1月1日に施行される予定ですので、その時点で御社の従業員が300人を超える見込みであれば、いまから準備をされた方がいいと思います。
高崎社長:確かに、当社は300人までもう少しですし、現に荷主からの配送を下請けに出しているので、そろそろ対策を考えても良い頃かもしれません。具体的にどんな点に注意すればいいですか?
賛多弁護士:まずは、委託先企業の従業員数を確認することでしょうが、おそらく御社の委託先企業の従業員数は300名以下でしょうから、下請法の適用を受けることを前提に準備をするべきだと思います。
その内容は、大きく分けると、
①義務として、書面の交付義務や下請け代金の期日を定める義務等が挙げられ、
②禁止事項として、下請代金の支払遅延や減額の禁止等が挙げられます。
親事業者の義務の詳細については、これまでに詳しく説明しているものがありますので、そちらを参照してください(たとえば第121回)。
高崎社長:なるほど。ところで、当社は、下請けに配送委託をしているわけですが、我が社だって、メーカーや卸売業者から直接配送を請け負うことがあります。下請法の保護は受けられないのでしょうか。
賛多弁護士:従前、メーカーといった発荷主から元請けの運送事業者への委託は、下請法では保護されず、あくまでも独占禁止法上で対応されているだけでした。しかし、現実には、元請も荷役や荷待ちを無償で行わせられているなどの問題が生じており、これらに対応する必要があるとされていました。
そこで、今回の改正にあわせて、下請法の適用対象となる取引に、(運送の再委託だけでなく)運送委託それ自体も含まれることになったのです。したがって、親事業者や下請事業者の定義に該当する当事者間においては、下請法の適用を受けることになります。
高崎社長:でもこれまでも独占禁止法で対応されていたとすれば、あまり大きな違いはないようですね。
賛多弁護士:確かに、独占禁止法の「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)と下請法は、代金の支払い遅延や代金の減額等の禁止など、類似の行為が禁止されていました。もっともその範囲は全く同一ではなく、発注書の交付や役務提供から60日以内の支払いが求められるなど下請法独自の規制もあり、その取扱いにも違いがあります。
高崎社長:なるほど。今回の改正の概要がなんとなくわかってきました。我が社でも準備を進めようと思います。
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本文中のケースと異なり、取引の内容次第では、資本金が5000万円を超える会社から資本金が5000万円以下の会社へ委託をする場合や、資本金が1000万円超5000万円以下の会社から資本金1000万円以下の会社へ委託する場合にも、下請法の規制が及ぶ、資本金「5000万円基準」が存在し、その場合、従業員数基準は「100人基準」が適用されますので注意が必要です。
以上、“改正下請法”の解説をしてまいりましたが、そもそも「親事業者」や「下請け」という言葉には、上下関係を感じさせ適切ではないとの指摘があり、今回の改正で用語の置き換えも行われました。具体的には、親事業者を「委託事業者」、下請事業者を「中小受託事業者」、下請代金を「製造委託等代金」とするとされています。
ところで“下請法(「下請代金支払遅延等防止法」)”は、「中小受託取引適正化法」と名称が変更されました。公取委によれば、通称は「取適法」となるようです。いったいどう読むのでしょうか(「トリテキ法」?なんだかゴロが…)。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 塚越 幹夫


















