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採用・法律

第152回 インセンティブ報酬の設計

中小企業の新たな法律リスク

顧問弁護士である賛多弁護士は、SaaSビジネスを営む柴田社長からインセンティブ報酬の設計に関する相談を受けています。

* * *

柴田社長:先日は大変お世話になりました。お陰様で資金調達をすることができました。

 

賛多弁護士:開発も順調だと伺っていますが、いかがでしょうか?

 

柴田社長:はい、調達した資金を利用して製品開発を進めており、MVP(Minimum Viable Product)を市場に投入して、反応を見ながらPMF(Product Market Fit)の達成に向けて鋭意努力していて、採用も強化しているところです。

 

賛多弁護士: シードラウンドを抜けて成長を加速させるために人材確保は非常に重要な課題ですよね。

 

柴田社長:そうですね、そこで本日は採用強化策の一環としてインセンティブ報酬についてお話をお聞きしたくてご相談に参りました。創業初期メンバーにも報いたいという思いや特に頑張ってくれている社員に付与したいという思いもありますし、CXO人材といった事業にコミットしてくれる優秀な中核人材の確保も目的としたいです。

 

賛多弁護士:承知いたしました。主に未上場企業におけるインセンティブ報酬で利用されているのは新株予約権を利用したストックオプションですね。新株予約権とは、将来においてあらかじめ決められた価格で株式を取得することができる権利のことで、新株予約権の状態では株式のような議決権はないです。上場企業では、株式を報酬として役職員に交付するものとして、例えばリストリクデット・ストックと呼ばれる仕組みを利用することもありますが、未上場時に株式を付与してしまうと、議決権行使が不安定になったり、個人株主が増えることによる管理コストが増えたりしてしまうので、利用することは通常ないですね。Cap Table(いわゆる資本政策)との兼ね合いでインセンティブ報酬として議決権ベースで年間どれくらい放出するのかも考える必要があります。

 

柴田社長:そうなんですね。多くの人に利益を共有したいとは思っていますが、ストックオプションを発行しすぎても良くないんですね。

 

賛多弁護士:上場を目指すのであれば、インセンティブ報酬としても年々どの程度放出することができるかはしっかり検討すべきです。また、ストックオプションにも主にいくつか種類があり、無償ストックオプションと有償ストックオプションがあり、無償ストックオプションも税制上の優遇のある税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションとありますね。税制適格ストックオプションについては、ストックオプションが権利行使されて株式に変わる際に課税はされず、この株式を譲渡した際に譲渡課税だけされるというメリットがあります。税制適格とするには一定の要件を充足する必要がありますが、多くの役職員に付与するものとして未上場企業で主に利用されています。他方で、一定の要件を充足する必要があり、創業者といった大口株主やその特別関係者には付与できませんし、年間で行使することができる金額も一定の範囲内である必要があります。

 

柴田社長:よく耳にするものですよね。今回は気にしていなかったですが、大口株主には付与できないとなると、私のような創業者には利用できないんですね。

 

賛多弁護士:そうですね、そうなります。税制適格ストックオプションについては、令和6年度税制改正において要件が緩和されており、例えば、権利行使期間が延長されより長期に亘って税制適格要件が維持されることとなったとともに、社外高度人材の範囲が拡大して付与対象者が広がっています。また、設立年数の若いスタートアップにおいては、年間で行使することができる金額が増額されており、付与された人がより経済的なメリットを享受しやすくなるようにも改正されています。また、事務面でも、証券会社等による株式の保管委託をせずとも、株式を発行した会社自身により株式を管理することも可能となったため、未上場企業自身にとっても、より使いやすいものとなりました。

 

柴田社長:やはり税制適格ストックオプションをメインに使っていくことになりますね。税制非適格ストックオプションと有償ストックオプションにはデメリットがあるということだと思いますが、これらはどういった場面で利用されるのでしょうか。

 

賛多弁護士:税制非適格ストックオプションですと、権利行使されて株式に変わった際に給与所得課税されてしまい、株式を売却して現金としての利益を得ていないにもかかわらず、譲渡所得課税に比して高い税率で課税されてしまうというのが大きなデメリットですね。他方で、税制適格ストックオプションと違って、細かい要件は設けられておらず、税制適格では対象外となる人にも付与でき、付与時に金銭的な負担も発生せず、年間で行使することができる金額も上限がないというのがメリットですね。有償ストックオプションですと、新株予約権を取得する際に金銭の払込が必要で金銭的な負担が発生してしまうというのが大きなデメリットですね。他方で、税制適格ストックオプションと同様に、細かい要件は設けられていませんし、税制面でも、株式譲渡時の譲渡所得課税のみとなっており、この点については税制非適格ストックオプションに比べてメリットがあろうかと思います。これらについては、税制適格ストックオプションを利用できない場面で利用するのが一般的かと思います。

 

柴田社長:色々組み合わせて利用することも可能ですね。

 

賛多弁護士:近年では、ストックオプションの付与に合わせてクリフベスティングの条件を設定することも多く、一定期間会社に在籍しないと新株予約権の権利が確定しなかったり、一定期間経過に伴って一定割合について新株予約権の権利行使が可能となったりするように設計することも一般的になってきています。企業にとっては、潜在的に株式を放出することにもなり企業経営にも影響が出てきますし、可能な限り採用失敗による被害を防止する必要があり、権利行使を認めるにあたっては一定の条件を設定しておくべきです。

 

柴田社長:どうすればインセンティブが働くようになるのか、会社に長くコミットしてもらえるのかも検討する必要があるということですね。

 

* * *

2025年2月、経済産業省から『スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス―人材獲得のためのストックオプション活用術―』(インセンティブ報酬ガイダンス)(参照URL:https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock_option/so_guidance.pdf)が公開されました。

政府によるスタートアップ5か年計画の推進と相俟って、インセンティブ報酬ガイダンスの公開のみならず、ストックオプション税制の改正やストックオプション・プールに関する制度の創設といったインセンティブ報酬に関する改正が近年相次いでおり、これらを活用した成長戦略の構築はスタートアップにおいて重要な課題となっております。

いずれの手段を用いるにせよ、法令に則った形で制度設計をする必要がありますので、専門家にご相談いただき、必要な手続を予めご確認されておくことをお勧めいたします。

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 鵜飼 剛充

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