顧問弁護士である賛多弁護士は、SaaSビジネスを営む柴田社長から資金調達に関する相談を受けています。
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柴田社長:先日は大変お世話になりました。先日は資金調達方法についてご教示いただきましたが、他にもどのような資金調達方法があるのかご教示いただきたいです。
賛多弁護士:先日は、株式による資金調達のうち、金融商品取引法上の「募集」に該当する行為として、新たに発行される株式の取得の申込みの勧誘等一定の行為を50名以上の者に対して行う場合についてお話させていただきましたね(第106回参照)。
柴田社長:はい、そうです。無暗に投資家に声がけをして一定のラインを超えてしまうと、金融商品取引法上の「募集」に該当し、1億円以上の資金調達では有価証券届出書の提出義務とその後の有価証券報告書の提出義務が、1000万円超1億円未満の資金調達では有価証券通知書の提出義務が発生することをご教示いただきました。
賛多弁護士:しっかり覚えてくださっているようですね。
柴田社長:株式投資型クラウドファンディングは大々的に資金調達をしていますが、あれは「募集」に該当しているのでしょうか?
賛多弁護士:はい、株式投資型クラウドファンディングは「募集」に該当する資金調達でして、資金調達額を1億円未満とすることで有価証券通知書の提出のみで実施しているものとなります。
柴田社長:有価証券通知書を提出するのって大変なのですか?
賛多弁護士:いえ、そこまで大変ではないですよ。管轄の財務局に提出する書類で様式が定まっているのですが、IPOの時によく目にする有価証券届出書のような100ページを超えるような膨大な量の書類を提出するものではなく、長くても5~10ページ程度で止まるような書類になっています。
柴田社長:「募集」には該当してしまいますが、それほど負担は発生しないということですね。
賛多弁護士:1億円未満で広く投資家に声がけをする手段としては、負担はそれほど大きくないかなと思います。ただ、広く投資家に訴求するにあたっては、株式投資型クラウドファンディングを取り扱っている金融商品取引業者の審査を受けたり、ウェブ上で資金調達を呼びかける募集ページを作成したりしないといけないですし、資金調達が成功した場合には株主数が一気に増えることになるため、適切な株主管理を実施したり、株主へのIRを実施したりしないといけなくなりますね。
柴田社長:それ以外にはどのような資金調達方法があるのでしょうか?
賛多弁護士:金融商品取引法上の「募集」に該当しない資金調達を「私募」というのですが、私募として金融商品取引法上の開示規制に服さない資金調達方法は、大きく分けて①適格機関投資家私募、②特定投資家私募、③少人数私募の3つの類型があります。①適格機関投資家私募と②特定投資家私募は、プロ投資家やそれに近しい一定の投資家のみを対象に行う資金調達方法で、投資勧誘の対象となる投資家の属性に着目した「私募」であり、③少人数私募は、投資勧誘の対象となる投資家の人数に着目した「私募」となっています。
柴田社長:細かい規制がたくさんあるのですね。手軽に実施できるものはどれになりますか?
賛多弁護士:③少人数私募ですね。先日、新たに発行される株式の取得の申込みの勧誘等一定の行為を50名以上の者に対して行う場合が大まかに「募集」に該当することとなるとお話させていただきましたが、細かい要件は別にして大まかに言うと、一定の期間内に49名以下の者に対してこれを行う場合には、③少人数私募に該当して「私募」として金融商品取引法上の開示規制には服さないこととなっています。
柴田社長:正に少人数に声がけするだけなら規制を緩和しますということですね。
賛多弁護士:はい、そのとおりです。ただ、注意しないといけない点が何点かありますが、一番気を付けないといけないのは、ある株式を用いて少人数私募を行う場合、株式の発行される日以前3か月以内に、この少人数私募で用いた株式と同じ株式やこれに類似した一定の株式が発行されていると、両方の資金調達時に勧誘した投資家の人数が通算されることとなってしまい、通算されることにより勧誘人数が50名以上となってしまうと③少人数私募ではなく「募集」になってしまう点です。少人数私募を繰り返し行うことで「募集」の潜脱行為となってしまうことを防止するため、一定の期間内に一定人数への勧誘しかできないようにしています。
柴田社長:勧誘した人数をしっかりカウントしないといけないのですね。
賛多弁護士:はい、そうです。いつ、どの投資家に出資のお願いをしたのか、ある株式を発行するにあたって合計で何人勧誘したのかを自分で纏めて管理しておく必要があります。
柴田社長:資金調達をするのって難しいのですね。
賛多弁護士:そうですね。金融商品取引法の規制だけでなく、実際に株式を発行する手続として会社法の手続も遵守しないといけないので、検討・対応しないといけないことは多いと思います。
柴田:これを機に勉強したいと思いますので、色々とご教示ください!
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実務上の負担に鑑み金融商品取引法上の開示規制に服さないような方法で資金調達を実施するか、開示規制に服したとして負担の少ない方法で資金調達を実施するのが一般的です。
実務では主に少人数私募が用いられており、資金調達を実施する各社においては、勧誘人数の適切な管理を実施しております。実務上特に注意すべき勧誘人数の通算について本稿では触れましたが、これ以外にも少人数私募を実施するための要件がいくつかありますので、専門家にご相談いただき、規制の内容、必要な手続を予めご確認されておくことをお勧めいたします。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 鵜飼 剛充