日本自動車メーカーは史上最高益更新が相次ぎ、好調ぶりが際立つ。しかし一方、世界最大の中国市場では販売不振が続き、対中戦略の見直しが迫られている。
空前の好業績と裏腹に中国市場で苦戦
2024年3月期日本自動車メーカー大手の決算発表が出そろった。各社は34年ぶりの円安水準を追い風に、空前の好業績を謳歌している。
トヨタは売上45兆0953億円、営業利益5兆3529億円、両方とも日本企業としては前人未踏の水準だ。
ホンダは2024年3月期の売上・利益はともに過去最高を更新した。日産、マツダ、スズキ、SUBARU、三菱自動車なども増収増益だ。
しかし、国内好業績と裏腹に中国市場では日本自動車メーカー各社が深刻な販売不振に陥っている。2023年、日本の自動車メーカー4社の中国新車販売は394万3435台で前年比7.7%減となり、3年連続で前年実績を下回った。うち、首位のトヨタは▼1.7%、ホンダ▼10.1%、日産▼16.1%、スバル▼29.7%と、揃ってマイナスに転落してしまった。
今年に入っても日系メーカーの中国販売不振が止まらない。トヨタは4ヵ月連続で販売台数が前年割れとなっている。ホンダは3月と4月、2カ月連続で2割以上に落ちている。日産も苦戦を強いられている(表1を参照)。
業績悪化のため、ここ数年、中国市場における日系自動車メーカーのシェアは急速に低下している。表2に示すように、中国市場に占める日系メーカーのシェアのピークは2020年の23.1%だった。その後、毎年低下し、今年1~4月に12.2%となり、ピーク時の約半分となった。
実際、日系メーカーのみならず、ドイツ系、米国系、韓国系メーカーも同じく市場シェアが大幅に低下している。その背景に中国電気自動車の躍進がある。
危機感を強める日本自動車メーカー
今、中国自動車分野で起きている変化のスピードは想定を遥かに上回っている。電気自動車(EV)を中心とする新エネルギー車の台頭が特徴だ。
2023年、中国の新車販売は人類史上初めて3000万台を突破し、3009万台に達した。うち、EVをはじめNEV(新エネルギー車)が前年比で37.9%増の949万台に上り、市場シェアが31.5%を占める(図1を参照)。24年のNEV販売は1150万台になる見通しだ。現在、世界電気自動車の6割が中国で生産される。
中国電気自動車メーカーの代表格はBYDだ。23年BYDのEV販売台数は157万台で、米テスラの180万台に及ばないが、EVとHEVを加算すればNEV(新エネ車)が302万台で世界ダントツ1位だ。
日本の自動車メーカーはEVで出遅れている。23年の世界販売台数は日産が14万台、トヨタが10.4万台、ホンダが1.9万台。テスラとBYDに大きく水をあけられる。
EVでの出遅れで、日系メーカー各社は中国市場で苦戦を強いられる。天津トヨタは昨年11月にガソリン車の生産ラインを一部停止した。広州トヨタは昨年11月に900人を削減したのに続き、今年5月にさらに1000人規模の追加削減を発表した。
ホンダは、中国で現地メーカー2社との合弁で主にハイブリッド車を生産しているが、販売の落ち込みを受けてこのうち1社との合弁会社広州ホンダについて、工場での生産業務を行う正社員を対象に希望退職の募集という形で人員削減を行う。これまでに全体の14%程度にあたるおよそ1700人が応募したという。
日産は中国における自動車の生産能力を最大で年間50万台規模、年間生産能力のおよそ3割を減らす検討に入ったと日本経済新聞が報道した。三菱自動車が業績悪化のため、昨年にやむを得ず中国撤退を決めた。
中国市場での苦戦に対し、日本自動車メーカー各社は危機感を強めている。日産自動車の内田社長は中国勢との競争について、次のように述べている。「中国勢はわれわれの予想よりもずっとずっと速く動いている」(ロイター2023年9月26日記事)。ホンダ三部敏宏社長も「我々が想定する以上に中国メーカーが先を行っている。特にソフトウェアの領域はさらに進化している」(NHK2023年5月26日放送)と危機感をあらわにした。
世界首位のトヨタも同様に危機感を強めている。同社副社長宮崎洋一氏は今年2月6日、オンラインで報道陣の質問に答えた際、中国市場の状況について、次のように述べた。「HVは中国でも伸びている一方、EVの構成比は、想定を下回っている。『乗り心地』よりも『居心地』を重要視する中国顧客の要望に寄り添えていなかった。現地メーカーの伸びも著しく、値引き競争が激しい。巻き込まれずに、どうビジネスを続けていくかも考えなければいけない」と。
巻き返しのカギは「ソフトウェア」と「スピード」
現在、日本自動車メーカー各社はEVでの出遅れを挽回し、世界最大市場中国での巻き返しを図っている。そのカギは「ソフトウェア」と「スピード」である。そこで日系各社は対中戦略の見直しを進めている。
日産自動車は「競争力を高め、より深く現地化を進めていく」(内田社長)ために、5月25日に中国検索エンジン大手の百度(バイドゥ)と提携の覚書を締結した。百度の強みの1つは車両への人工知能(AI)だ。日産は百度のAI技術を活用し、現地の顧客ニーズに対応していく狙いだ。
トヨタ自動車も5月25日、中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)と戦略提携すると発表した。トヨタが中国で販売する電気自動車(EV)で、テンセントが人工知能(AI)やクラウド、ビッグデータなど3分野で協力する。テンセントは10億人以上が利用するSNSを抱えるネット大手で、自動車分野を成長領域と位置付けて強化している。トヨタはEVのIT機能で先行する中国勢に対抗すために、次世代車の要となる車載サービスで中国企業と連携し、開発速度を引き上げようと図る。
実際、中国のIT企業と提携し、世界最大の自動車市場で活路を求めるのは日本メーカーだけではない。韓国現代自動車と傘下の起亜が、中国における自動運転・車載ソフトウエアシステムのマッピング・人工知能(AI)技術に関して中国の百度と協業する計画を明らかにした。また、ドイツのメルセデス・ベンツグループは、騰訊控股の人気モバイル・レースゲームがプレーできるエンターテインメント・システムを搭載した車両を販売すると発表した。
日本自動車メーカーの中国戦略見直しは奏功できるかどうか?巻き返しは可能かどうか? 今、世界に注目される。(了)