会社が倒産する直接の原因はさまざまですが、会社にとってサイレントキラーになる最大のものは社会保険料の滞納、消費税の滞納といってもいいと思います。今まで多くの倒産企業をみてきましたが、じっさい、そのほとんどでそれらが滞納していました。
銀行借入の返済ができなくなれば、経営者は急いで取引銀行に行き、経営改善計画書、資金繰り表、他行明細(他の取引銀行の融資取引状況を書いたもの)を提出したうえでリスケをしてもらうことが可能です。じっさい金融庁のデータでは条件変更の実行率は9割を超えています(注1)。
銀行としてはリスケ期間中に経営改善して、やがて通常返済してもらえるなら、貸倒れにならなくてすむわけですから、リスケをできない根拠がない限りは債務者のために協力してくれるものです。そこにはその会社を再生させて、みずからも収益を確保しようという経済合理性があります。
ところが、社会保険料や税金の滞納には 経済合理性という考え方はなく、「期限内に納付している他の事業主との公平性を確保するため」という原則のもとで、その絶大な情報収集能力にもとづいた厳しい取り立てがおこなわれます。もちろん、条件があえばその制約のもとで分割納付や猶予は認めてくれますが、最終的には滞納した分は全額納付することになります。
たとえば、 民事再生をした場合、金融機関が一部債務を免除してくれることがありますが、社会保険料や税金では免除という考え方はないのです。
そのため社会保険料や税金を滞納した場合、銀行融資で対応できないときは、すぐ分割納付の話を しに行くのは当たり前ですが、同時に今後に発生する社会保険料や税金を減らす努力が必要になります。さらに言えば、会社経営をするなら最初からこれらの負担を減らした経営を考えておく必要があるのです。
売上・利益の減少を続けた会社経営者が危機感をいだき、助けを求めてきたことがありました。決算書、資金繰り表をみると、似た業種に比べて人件費の割合が高く、正社員が多い、さらに役員報酬が高額すぎるというケースでした。わるいことにゼロゼロ融資で延命していたものの預金も減少傾向にあり、他の融資のリスケの期限も重なり、経営改善計画をだそうにも損金にできる役員報酬の変更の期限はすぎていたため、高額すぎる(定期同額報酬の)役員報酬の減額(注2)もすぐにはできず、それを経営改善にもりこんだところでその効果が表れるのが1年先になるということがわかったわけです。
経理や財務を理解していない役員ばかりだったのでしかたないのですが、必要以上に雇用した正社員についても、その業務の外注化ができれば社会保険料が激減し、消費税負担も大きく減るのに、後の祭りとなってしまったわけです。
現状から変化がなければ1年もたたないうちにゼロゼロ融資で借りた資金も底をつくだろうし、その先は倒産になるだろうと推測できたのですが、その説明も十分には理解してもらえませんでした。
その後どうなったかはわかりませんが、役員が経理、財務に対する意識をもっているだけでも違った結果になっていたものと考えます。
外注に依存できるのに、必要以上に社員を雇用すれば社会保険料は増加し、かつ人件費という消費税仕入税額控除できないものも増加します。 最小限の社員で会社経営をしていけばサイレントキラーといわれる社会保険料や消費税の負担増で倒産するなどということも避けられるのです。
(注1)金融機関における貸付条件の変更等の状況について 参照:金融庁HP
(注2)役員報酬の変更 参照:国税庁HP
定期的に支給される役員報酬では、「定期同額給与」の条件を満たしていれば、損金算入が認められます。事業年度開始から3ヶ月以内の変更と株主総会議事録の作成と保管が条件です。