会社から取締役への貸付金が決算書上にあると、企業融資において良い印象はもたれません。銀行から融資を受けた金が個人へ還流していてじっさいの資金使途がわからなくなるからと、回収可能性に疑問が持たれるからです。基本的に銀行融資における資金使途は事業資金に限られているのです。
では、役員からの借入金はどうかというと、メリットとデメリットが考えられます。役員借入金は実質的には資本金とみなされることがあり、また銀行などの有利子負債と違い、無利息でも問題ないとされています。ただ、その役員が死亡した場合には相続財産となるといった問題点があるとされていますが、もっと別の角度から考えると、役員借入金の存在じたいが銀行融資で調達した資金をブラックボックス化させることができてしまうのです。
たとえば、銀行融資をうけて、その一部で役員借入を返済すれば、事実上の資金の個人への還流になり、役員貸付金と同じ意味をもつことになります。
そのため、銀行側でも銀行融資後の役員借入金の増減をみてはいますが、年1回提出される決算書の貸借対照表上でしか確認できないのと、めだちすぎるほどの減少がなければ問題にされないので、事実上の融資判断では考慮されていないのが実情です。
以前「近代セールス」という雑誌に掲載されたある会社の事例ですが、その当時、私は融資する側の当事者だったのですが、大きく必要運転資金以上に運転資金を借りている会社で、財務内容は悪くはなかったものの融資金がどう使われているかについて疑問をもっていました。
あるとき決算上で大きな金額の匿名組合売買益をみつけ、確認したところ「含み益があるので売った」という回答を得たわけです。ところがその会社はいつも資金が余っている状態で、新たな資金需要も考えられず、また、匿名組合資産を売る理由も脆弱であったため問い詰めていくと、数億円もの資金が別の会社に流出していたことがわかったのです。
一般的には会社が他社に資金を貸すときには貸付金勘定が計上されるのですが、その会社の場合、貸付金は計上されておらず、数億円もの不審な資産勘定も計上されていませんでした。
では、どうやって数億円もの資金を他社に流出させたのか?というと「役員借入金」が使われていたのです。資金を他社に流出させるときは役員借入金を返済し、その資金を貸すというやりかたです。年間数十億円もの売上があり、かなりの社員もいた会社だったのに同族企業であり、公私混同がみられました。上場企業であれば株主からの批判もあるでしょうが、典型的な同族企業であったがためにおこったことです。こういった資金の他社への流出が判明すると金融機関は新規融資に慎重になります。このケースでも最終的に貸付先の会社が倒産し、連鎖して同社も倒産しました。
それゆえに役員貸付金はもちろんのこと、役員借入金の返済についても財務バランスを考えながらおこなわないとたいへんなことになる可能性があります。