手元キャッシュを最大化する経営ということで複数の会社を支配下におくことを書いてきたが、それが節税目的だけのものであるならリスクもかなりある。
少なくともそれぞれの会社にはそれぞれの正当な存在意義がなければならない。税負担を軽減するためだけの会社ではだめなのだ。
以前、名古屋の人材派遣会社が本来は社員の給与とすべき経費を外注費という名目で計上し消費税法違反に問われたことがあったが、給与と外注(請負)ではその識別基準がわりとはっきりしている。(注意1)
もしも、その基準を無視して節税のために外注として支払いを行うと、一時的に、源泉徴収がその分は支払わなくてすむことになり、支払った消費税が差引きされるため消費税の負担が軽減される(簡易課税を選択していない場合の話(注意2))が、外注と認められなかった場合は後で消費税法違反の脱税とされてしまう。複数の会社、外注の扱いもこうした基準を考慮した上でないと意味がなくなるどころか、重い罰をうけることとなる。
だが、経営者が異なり、株主構成も、本社住所も、取引銀行も異なる複数の会社を支配下に置けば、片方が倒産したとしてももう片方は平然と生き延びれる。テクニック的にいろいろな制約もあるが、融資も名寄せされず、片方が倒産してももう片方の会社は何の不利益も受けない。短期貸付金という勘定科目はいただけないが、商取引をつうじて資金繰りが苦しくなったもう片方の会社を救済することもできるのだ。
以前、救済した事業で、本体の会社が資金繰り破たんして倒産したが、実質支配下においていた会社が他に数社あったがために生き残ることができ、銀行取引も正常に行われていた会社がある。
銀行の債務者名寄せは実質同じ経営の会社がある場合、その会社ごとの与信をみるのではなく、経営権が及ぶと見られる全会社の与信を総合して銀行は管理することを意味する。これは一企業グループへの貸し出しを増やしすぎないための方法で、複数の会社で役員が同じ。株主が同じ。資本関係があるなどで判断する。もちろん本社登記の場所が同じで経営権も同じと考えられるときなどは柔軟に対応して判断される。銀行の債務者名寄せがされない複数の会社を実質支配下に置くことで、財務内容をベターなかたちにできることもあり、銀行融資も有利に展開できることが多い。
複数会社を効果的に運用している事例はかなりある。ただ、それらも税負担軽減のためだけであるならかなりのリスクをおうことになるので注意したほうがいい。