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第123回 長湯温泉(大分県) 恥ずかしいけれど湯は最高! 炭酸の露天風呂

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■温泉街のシンボル「ガニ湯」

 温泉王国である日本には、バラエティーに富んださまざまな湯船が存在する。だが、今回紹介する露天風呂ほど入浴に勇気が要る温泉はあまりない。

 大分県の名湯、長湯温泉といえば、山と田園地帯に囲まれたのどかな温泉地。周辺の別府、由布院、黒川などの有名温泉地の陰に隠れがちだが、豊富に湧き出す源泉の実力は折り紙付きだ。日本有数の炭酸泉が湧き出すことでも知られる。

 十数軒の宿で構成される温泉街は、湯めぐりをするのが楽しい。数軒の日帰り温泉施設や共同浴場のほか、日帰り入浴ができる宿も多い。源泉がそれぞれ異なり、施設も鄙び系からデザイナーズ系までバラエティーに富んでいる。

 なかでも強烈な存在感を放つのが、温泉街を流れる芹川のほとりに湧く「ガニ湯」。長湯温泉発祥の地といわれる名物露天風呂だ。カニの甲羅の形に似ている湯船には、今も黄土色の濁り湯がかけ流しにされている。24時間、無料で入浴できる。

■入浴には勇気が必要!?

 まるで川の中に湯船が浮かんでいるかのようなロケーションで、雨などで川が増水した日は、川の水が湯船に入ってくることもあるとか。しかも、まわりを遮るものは何もない。通行人や宿から丸見えである。観光スポットでもあるので、見物客も多い。つまり、入浴するには、そこそこの勇気と思い切りが必要になるのだ。

 さまざまな温泉に入り慣れている筆者でも、ガニ湯に入るには多少のためらいがある。いくら温泉入浴のためとはいえ、温泉街の真ん中で素っ裸になるのだから……。平日の午前中、人が少ない時間を見計らって、湯船から10メートルほど先の橋の下にある簡易脱衣所で裸になった。小走りで湯船に近づき、ちゃぽんと浸かる。

ほっと一息。ひとたび湯船につかってしまえば怖いものはない。濁り湯なので羞恥心よりも、温泉の気持ちよさが勝る。入浴中に数組の観光客が通ったが、ほとんど気にならない。むしろ観光客のほうが驚いている様子だった。

 体感で38℃くらいのぬるめの湯が、ボコッボコッと音を立てながら注がれている。見た目はインパクトの強い濁り湯だが、意外とさっぱりとした入浴感。少し舐めてみると炭酸の味がする。長い時間ゆっくりつかるのに適した泉温と泉質である。

 湯船から手の届きそうな距離に川が流れているので、まるで川の中に入浴している気分になる。夏は蛍を見ながらの入浴も楽しめるというから、星空の下でつかるガニ湯はまた格別だろう。

■江戸時代にルーツをもつ「御前湯」

 ガニ湯は入浴前に勇気が要るが、入浴後にも勇気が要る。思う存分、湯浴みを楽しみ、橋の下の脱衣所で体を拭いていると、橋の上から2人組の若い女性の声が聞こえてきた。「あっ、あんなところに温泉がある!」「本当だ! 行ってみようよ」。ガニ湯に近づくには、裸の筆者がいる脱衣所を通らなければならない。もしも裸のままご対面してしまったら、かなり気まずい。

 タオルで十分に体を拭く間もなく、大慌てで服を着る。30秒くらいだったと思う。女性2人組が橋の下に降りてきたときには、間一髪、着替えを終えていた。入浴にハラハラとする緊張感が伴うのも、ガニ湯の魅力のひとつと言えなくもない。

 なお、ガニ湯はタオル巻きや水着(女性)での入浴も可能である。それでもロケーションに抵抗がある人には、徒歩数分の距離にある「長湯温泉療養文化館 御前湯」がおすすめ。3階建てのドイツ風建築が目印の日帰り温泉施設だ。江戸時代、この地を治めていた岡藩主の入浴のために藩営温泉(御前湯)がつくられたのが始まりだという。

 男女別の大浴場には、新鮮な濁り湯がかけ流しにされている。飲泉用の設備もあり、長湯の源泉のすばらしさを堪能できる。

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