カチタスという会社は完璧と言えるほど時代のニーズにマッチしたビジネスモデルを構築している会社である。同社のビジネスは地方圏において中古の一戸建て住宅を仕入れて、リフォームし、ほぼ新築価格の半値で販売するといういたってシンプルなものである。ところがそのシンプルなビジネスにおいて、同社はグループで、日本における中古戸建ての販売において、2位企業のなんと14.6倍の販売件数を成し遂げるほど、圧倒的かつ独占的なシェアを誇っているのである。
中古住宅流通を後押しする時代背景として、まず地方圏において増え続ける空き家問題がある。これは地域の景観や防犯の面から近年極めて大きな問題となっている。そのため、政府は中古住宅・リフォーム流通市場を拡大させ、不動産ストックの活用社会を目指す意向を持っている。その中古住宅流通市場の後押しのために、2018年度に税制改正を行った。通常、不動産取引には取得税がかかるが、リフォームを行う事業者が中古住宅を仕入れる場合には、軽減税率が適用されるようになった。
また、中古住宅のリフォーム販売はESG及びSDGsの観点からも極めて優位性の高いものである。中古住宅のリフォーム販売とスクラップ&ビルドの新築を一戸当たりで比較した場合、木材使用量自体が新築の23㎥に対して、同社はわずか3㎥にすぎない。これをCO2排出量で比較しても新築の283㎏に対して、同社はわずかに76㎏となっている。
そもそも我が国は諸先進国と比較して、住宅流通全体の戸数に対する中古流通の割合が極端に低い。米国の81.0%(2018年)、英国の85.9%(2018年)、フランスの69.8%(2018年)に対して、日本はわずか14.5%(2018年)に過ぎない。ただし、日本でも首都圏のマンションのみのデータをとると54.2%(2021年)となっており、いかに地方かつ戸建ての中古流通ウエイトが低いかが想像できよう。
昨今では、11月6日付の日経紙一面トップ記事にもあるように、金利に上昇圧力がかかる中で、我が国においては住宅ローン残高がやがて大きな問題になるのではないかと言われ始めている。住宅ローン残高は日本同様、米国でも増えているのであるが、日米の大きな違いは住宅自体の資産価値の推移であるというもの。米国ではローン残高は増えているが、それと同等に住宅資産価値も上昇している。これは仮に金利上昇や失職などによって住宅ローンが払えなくなっても、住宅を売って精算できることを意味している。しかし、我が国の場合には、住宅の資産価値が下がっているため、住宅ローンを払えなくなり、住宅を手放して精算すると借金だけが残る状況を示していることになる。この背景としては、土地価格は別にして、中古住宅の流通市場が未整備なため、住宅自体の資産価値が年々減少する点にあり、日本でも中古住宅の流通市場の活性化が早急に必要と言われている。
これまで日本においては住宅取得の第一選択として新築があり、多くの国民はそれに対して特に疑いもなく考えてきた。しかし、そもそも住宅ストック自体が余り始めており、所得も容易には増えない状況では、急速にリフォーム中古住宅へのニーズが盛り上がるのではないかと考えられる。これは、ネットが市場に定着したことで、物品のリサイクルが手軽に行えるようになって、心理抵抗が薄れてきたことで、住宅でも同じような考えが受け入れられるのではなかろうか。特に昨今はインフレにも後押しされ、ネットだけではなくリアルの世界でもリサイクルショップが極めて活況を呈している。まさに、過去の成長期におけるストックが日の目を見るようになり、一方でインフレ対策の節約志向から、売る方も買う方もリサイクルが生活の一部として定着し活況を呈しているものと考えられる。そのようなことも背景として、超長期にわたって、同社にはフォローの風が吹き続けるのではないかと考えられる。
有賀の眼
まさに、時代の風をフルに受けて高成長を続ける同社であるが、そんな高成長かつ高収益ビジネスがなぜ追随する企業もなく、同社のまさに独壇場のような状況になっているのであろうか。
同社が考える同社の最大の強みは、これまで手掛けた累計6万戸超の実績において蓄積したノウハウの重みであると述べている。まさに、中古住宅の状況は千差万別であり、個々の物件をいかに正しく価値を査定するかは、やってみなければわからない経験の蓄積がものをいう世界である。築古戸建て特有の3大リスクであるシロアリ、雨漏り、権利関係の各リスクを初め、さまざまな過去の失敗事例を蓄積し、発生したリスクは毎週開催のTV朝会を通じて全国の店舗と共有するなどのリスクマネジメントを実施している。
実は同じ中古住宅ビジネスでも、前述したように首都圏のマンションでは総流通量の50%強の中古流通があり、競争も激しい。これは流通自体が頻繁で、しかもマンションゆえ、リフォームの手間も少なく済むためである。そのようなビジネスは手軽に行える分、競争は激しい。一方、地方の戸建ては、同社のように全国に支店を張り巡らせ、個々の営業マンが個々の物件の仕入れから、リフォーム、販売まで一気通貫で行える仕組みを作って初めて成し遂げられるものである。それゆえ、簡単には同業他社が真似できないビジネスモデルとなっているのである。
そういった意味で、時代の追い風を受けているとは言うものの、同社はそんな中古住宅リフォーム販売で、営業利益率が10%を上回るビジネスを作り上げた稀有な存在と言えよう。それゆえ、実はかのハーバードビジネススクール(HBS)のMBAコースにおいて、”Business at the Base of the Pyramid”のケーススタディとして取り上げられ、同社社長の新井氏が現地にて初回講義にゲストスピーカーとして登壇しているのである。まさに、あのHBSさえ一目置くほどの存在である。
まさに、時代の追い風に加え、世界でも認められるビジネスモデルで、長期にわたって躍進が続きそうな同社から目が離せない。