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第122回 満願寺温泉(熊本県) 後世に残したい温泉の原風景

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■「混浴」の現実

 「混浴」という言葉は、男性にとって魅惑的な響きがあるようだ。下世話な話が好きな人からは、「温泉をたくさん回っているなら、混浴でたくさんおいしい思いをしたでしょう?」と聞かれることもある。

 たしかに数百もの混浴温泉を訪ねてきたので、女性と一緒になることもあった。しかし、おいしい思いをした記憶はない。

 混浴の湯船で出会う女性の9割は、母親の年齢よりも上のおばあさんだ。肌が触れそうになるくらい小さな湯船でおばあさんと混浴したこともあるが、母親と一緒に入浴しているようで気恥かしいばかり。

 ときどき若い女性を見かけることもあるが、ほとんどはカップル。彼氏に睨まれるのもイヤなので、そちらには視線を送らないようにする。逆に、気を遣うので落ち着かない。というわけで、混浴でおいしい思いをした経験はほとんどない。これが筆者の経験してきた混浴の現実である。

■湯船の横で「洗濯」

 混浴といえば、30代のときに入った熊本の「満願寺温泉」を思い出す。志津川沿いに数軒の宿と民家が並ぶ満願寺温泉は、のどかな山間の温泉地。1274年の元寇の際に北条時定が国土安泰を祈願して建立した満願寺を中心に発展してきた。

 満願寺温泉の名物は、川岸に湧く露天風呂(川湯)。川に突き出るようにコンクリ製の湯船が並ぶ。川の水位とほぼ同じ高さに湯船があるので、川の中に浮いているような感覚だ。



 橋を渡って露天風呂へ行くと、地元のおばあさんが温泉を使って靴を洗っていた。実は、地元の人が湯船の一部を「生活湯」として活用しているのだ。野菜を洗ったり、洗濯をしたりしながら、井戸端会議をしている光景を目にすることができる。電気が発明される以前は、温泉は貴重な天然資源だったはず。こうして温泉を洗濯や炊事に使う光景は、全国の温泉地で見られただろう。満願寺温泉は、日本の原風景がいまだに残っているのだ。

 おばあさんに「お邪魔してもいいですか?」と断ってから服を脱ぐ。衣服を置く棚はあるが、脱衣所はない。対岸の道路や橋の上からは丸見えである。湯船が男女で分かれているわけでもないので、混浴初心者にはかなりハードルが高い。

 洗濯をするおばあさんの横で、少しぬるめの透明湯に浸かる。底から新鮮な温泉が直接湧き出す「足元湧出泉」だ。色や匂いなどに特徴はないけれど、やさしい肌触りと透明度はピカイチ。何時間も浸かっていられそうな居心地抜群の湯だ。

 川は湯船から手をのばせば届くところを流れる。小魚の群れがぴょんぴょんと跳ねる。ぼんやりと水面を眺めていると、ピンクのビニールボールがぷかぷかと上流から流れてきた。やがて小学生くらいの女の子が露天風呂まで降りてきて、竹の棒でボールを回収しはじめた。ボールで遊んでいるうちに川に落としてしまったようだ。

ボールを無事回収し、今度は靴を洗うおばあさんとのおしゃべりがはじまった。見ず知らずの男が裸で入浴しているというのに、おかまいなしである。こんなにほのぼのとした温泉を他に知らない。

■気まずい混浴体験

 1時間近く経っただろうか。おばあさんと女の子も去り、1人で湯を楽しんでいると、対岸の道路からバイクに乗った30代と思われる女性が、こちらを見ているのに気づいた。どうやら一人旅の途中のようだ。

 この露天風呂は観光名所でもあるので見学しているだけだろうと思ったら、数分後、橋を渡り、露天風呂まで歩いてきた。「まさか」と思っていたら、タオルで体を隠しながら湯船に入ってきたのである。
 
最も離れた湯船に浸かっているとはいえ、同世代の女性と2人きりで混浴している。心臓がバクバクと音を立てはじめ、さっきまでののどかな湯浴みが一変してしまった。

 「知らんぷりをしていたほうがいいのか」「いや、自然に話しかけたほうがスマートではないか」「いやいや、変なやつだと思われたらどうしよう」。そんなことをぐるぐると考えはじめたら、どうしたらいいかわからなくなり、筆者のほうから逃げるようにして湯船をあとにした。

 おばあさんとの混浴も気まずいが、若い女性との混浴もそれ以上に気まずいものである。混浴を楽しむのは、なかなかむずかしい。

 

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