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第2回 心理的安全性が生む経営成果:意思決定スピードと市場対応力を高める方法

ピョートル・フェリクス・グジバチの『経営戦略の新常識』

 企業の成長スピードは、「社員が自由に発言できるかどうか」で決まります。

 ある企業では、現場がリスクを察知していたにも関わらず、経営層に報告されなかったため、最終的に1,000万円以上の損失を出しました。そればかりか、不正行為や社員の不適切な行動がSNS投稿や報道から明るみになり、企業の信用が一瞬にして失墜することも、現代では珍しくありません。 もし「意見を言いにくい」組織なら、すでに同じ問題が発生している可能性があります。

 新規市場参入の遅れで競合に先を越された。リスクを把握していたのに経営層に届かず損害を被った。そんな経験はありませんか?

 その要因は「心理的安全性」の不足。迅速で的確な経営判断を左右する戦略要素です。初めて知ったという方は、まずは拙書『心理的安全性 最強の教科書』をぜひご覧ください。

この記事のポイント

1.心理的安全性は、経営の意思決定のスピードと質を上げる「競争力の源泉」

2.意思決定の遅れやリスク回避の文化は、企業成長の最大の阻害要因 

3.市場対応力の向上には「建設的な対立」と「率直なフィードバック」を恐れない

 

低い心理的安全性がもたらす「隠れた損失」

 心理的安全性の欠如した組織には、「隠れた損失」が次の4つの形で現れます。

意思決定の遅れ市場機会の損失
 「上司の判断を待つ文化」が根付いた組織では、重要な意思決定が先送りされがちです。例えば、新規市場参入の決断が遅れ、競合に先を越されるケースは典型例でしょう。スピードが求められる時代に、慎重すぎる判断はむしろリスクです。

リスク回避の文化イノベーションの停滞
 「どうせ変わらない」「今のままでいい」という姿勢が蔓延すると、社員は提案しなくなります。革新的なアイデアを却下し続けると、競争力を失う。挑戦しないことこそ、最大のリスクと言えます。

不安による責任回避事業リスクの増大
 「指摘すると責められる」「失敗は評価に響く」と考える社員が問題を隠し、大きなトラブルへ発展した例もあるのではないでしょうか。顧客のクレームを初動で共有できず、長年の取引先を失うこともあります。

経営層への「忖度」戦略の精度低下
 「上司の意向に沿うことが最優先」という文化では、市場動向を見誤り、事業戦略は空回りします。現場がリスクを把握していたのに新規市場へ進出し、大損失を招いた例も少なくありません。

 これらに心当たりがあるなら、心理的安全性の改善が急務です。

 

「本当に成果を出す組織」が持つ心理的安全性の5つの指標

 では組織の心理的安全性はどう測るのか? 以下に5つ紹介します。

指標1. 社員は「失敗を恐れずに挑戦する」ことができるか?
 Googleの調査では、リスクを取れるチームほど成果が高いと明らかになっています。挑戦しないことが最大のリスクと認識できる文化が、成長を左右します。

指標2. 現場の問題は、すぐに上層部に報告され、迅速に解決されるか?
 顧客クレーム、業務の非効率、新たな市場機会――これらが経営層に共有されない組織は競争力を失います。「話しても変わらない」と思われているなら、黄色信号です。

指標3. 意思決定の場で、異なる意見が対等に扱われているか?
 「社長の意見が絶対」という組織では、視野が狭まり戦略の精度が落ちます。「意見を言っても無駄」と感じる社員が増えれば、組織の競争力は確実に低下します。

指標4. 経営層が「耳障りな意見」を歓迎する文化があるか?
 イエスマンが増えると、組織の判断力は鈍ります。厳しい意見をくれる社員が評価される環境こそ、持続的成長の鍵です。反対意見を歓迎する文化があるか、確認しましょう。

指標5. リーダーは「自分のミス」を率直に認め、改善の姿勢を見せているか?
 リーダーが「完璧であるべき」と振る舞うと、周囲は本音を言えません。今、自ら他者に学び、修正する姿勢を持つリーダー像が求められています。

 自社に不足している要素があるなら、次のステップに進んでください。

 

経営者のための実践ステップ:心理的安全性を収益につなげる方法

 5つの行動で、改善はすぐに始められます。

心理的安全性の定義を「戦略」として再設計する
 「心理的安全性=社員が自由に発言できる環境」と考えるだけでは不十分です。目指すべきは「市場変化に即応できる組織をつくること」。そのために、発言が事業成長に直結する仕組みを構築しましょう。

経営会議で「最も耳の痛い意見」を求める
 意思決定の精度を上げるには、「反対意見を積極的に引き出す」必要があります。例えば、毎回の経営会議で「この戦略の最大のリスクは何か?」を問い、全員に発言させる仕組みを取り入れてみてください。

「正しい意思決定を早く行う」プロセスを整備する
 失敗を許容する以上に、間違いを早期に修正する仕組みが重要です。意思決定の前後に「仮説検証」と「撤退判断」のプロセスを明確化すると、組織のスピードが加速します。

「挑戦しないことの方がリスク」という文化を醸成する
 「失敗よりも、何もしないことの方が問題」という価値観を経営層が発信してください。成功事例だけでなく「挑戦したが失敗したケース」を共有する文化作りも有効です。

経営層自身が「率直なフィードバック」を受ける習慣を作る
 部下が本音を言わない組織は、確実に失速します。定期的な匿名アンケートの機会や、「経営層の意思決定で疑問に思う点は?」とオープンに尋ねる場を設け、判断の精度を高めていきましょう。

 

よくある誤解と注意点

 最後に、心理的安全性を取り入れようとしている企業が陥りやすい3つの誤解と、その正しい考え方を整理しておきます。

誤解1:「心理的安全性が高い=居心地が良い会社」
 ✅ 正解:「厳しい議論ができる組織が、最も成果を出す」

 目指すべきは、馴れ合いではありません。真に心理的安全性が高い組織は、遠慮なく意見を交わし、「建設的な対立」を歓迎する文化を持っています。

誤解2:「リーダーが優しければ、心理的安全性はある」
 ✅ 正解:「優しさではなく、率直な意見が言える環境が重要」

 フレンドリーさは心理的安全性と直結しません。経営層が耳の痛い意見を受け入れ、率直なフィードバックを奨励する姿勢こそが鍵。指摘が当たり前となる文化を作りましょう。

誤解3:「社員が発言しやすいならOK
 ✅ 正解:「戦略的に正しい判断ができることが最終目的」

 発言のしやすさだけでは不十分です。大切なのは、その意見が経営判断に活かされ、市場対応力を向上させているかどうか。

 

【まとめ】心理的安全性は市場を勝ち抜く戦略

心理的安全性は「発言を増やすこと」ではなく「意思決定の質を上げること」にあります。経営者が耳の痛い意見を歓迎し、それを戦略的に活用できるかどうか。それが、市場で勝ち残る企業の条件です。

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