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採用・法律

第167回 会社を辞めますのホントの意味

中小企業の新たな法律リスク

高崎社長:最近は、転職が当たり前の時代になりましたよね。若手社員からも「将来を考えていて」という声を頻繁に聞くようになった気がします。

 

賛多弁護士:そうですね。人材がどんどん流動的になり、退職自体も珍しい話ではなくなってきたと思います。その反面、従業員の退職に際し、誤った対応をすると、後に紛争化してしまうケースがままみられます。

 

高崎社長:実は先日も、「会社を辞めたい」と言われたばかりでして。その瞬間、頭の中では手続きや引継ぎのことばかり考えてしまったのですが、そもそも、あの一言をどう受け止めるべきなのか、改めて整理させてください。

 

1 「辞めたい」は法的に何を意味するのか

高崎社長:まず根本的なところですが、従業員が「辞めたい」と申し出たり、退職届を提出してきた場合、会社としては、それ以後、その従業員が退職したものとして取り扱うことになるのでしょうか。

 

賛多弁護士:その疑問は、非常に重要なポイントです。結論から言うと、その一言だけで直ちに退職が確定するとは限りません。従業員の「辞めたい」という意思表示は、法的には、「辞職」と「合意解約の申込み」の二つに分けて考えられます。

このいずれか当たると考えるかで、①(従業員が)撤回できるかどうか、②退職が成立するタイミングが大きく変わります。

この点を曖昧にしたまま話を進めてしまうと、トラブルに発展しやすくなります。

 

高崎社長:それでは、まず「辞職」について、詳しく教えてください。

 

賛多弁護士:「辞職」とは、労働者が一方的な意思表示によって労働契約を解約することを指します。これに対する会社の承諾は不要で、労働者からのかかる意思表示が会社に到達した時点で、その効力が生じます。

そして辞職の重要なポイントは、一度有効な辞職の意思表示が会社に到達すると、従業員はこれを撤回できないという点です。

もっとも、「辞職」の意思を表明したとしても、即日退職できるわけではありません。期間の定めのない労働契約、いわゆる正社員の場合は、民法の規定により、申し入れから2週間後に退職の効果が発生します。会社が認めなくても、2週間が経過すれば労働契約は終了します。

一方で、契約社員など期間の定めのある労働契約では、原則として契約期間の途中で一方的に辞職することはできませんが、「やむを得ない事由」(例えば家族の急な引っ越しが決まったケースなど)がある場合に限って、例外的に契約期間内であっても解約が認められます。

 

高崎社長:なるほど。そうすると、「辞職」は、私が抱いていた退職のイメージと一致するのですが、もう一方の「合意解約」との違いが気になります。

 

賛多弁護士:「合意解約」とは、労働者と会社が合意して、将来に向けて労働契約を終了させるものです。退職願を提出し、会社が承認する、という流れが典型ですね。

合意解約は、「辞職」と異なって、法律的には契約と同じ構造を持っています。つまり、従業員による解約の「申込み」と、会社の「承諾」がそろって初めて成立します。

辞職との最大の違いは、会社が承諾する前であれば、労働者は原則として申込みを撤回できる点です。また、退職日についても2週間という縛りはなく、当事者間の合意によって即日退職とすることも可能です。

 

高崎社長:なんだかよくわからなくなってきてしまいました。「辞職」も「合意解約」もいずれも、私がイメージする退職方法であるのに、そこまで法的な効果に違いが生じてしまうのですね。そうすると一番悩ましいのは、書面が「退職願」だったり、口頭で「辞めます」と言われたりした場合、それが辞職なのか、合意解約の申込みなのか、とても私には判断できないように思います。

 

賛多弁護士:そのご懸念は極めて自然です。正直に申せば、我々弁護士も頭を悩ませるところです。

 

高崎社長:だったら、どうすればよいのでしょうか。

 

賛多弁護士:裁判所が、どのように考えているか、簡単にご説明しましょう。裁判例は一貫して「労働者保護の観点から、原則として『合意解約の申込み』と解釈する」という立場を取っています。

退職は労働者の生活基盤を失わせる重大な行為ですから、その意思表示は慎重に判断されるべきであり、会社が承認するまでは撤回が可能な合意解約の申込みと扱うことにしましょう、という考え方です。

したがって、「辞職」と認められるのは、会社の承認の有無にかかわらず、確定的に労働契約を終了させるという労働者の強い意思が、客観的に明らかな場合に限られます。

たとえば、感情的に「もう辞めてやる!」と発言したようなケースでは、確定的な辞職とは認められず、合意解約の申込みと判断される可能性が高いといえます。

 

2 現実的な実務対応

高崎社長:なるほど。では、トラブルを防ぐために、私たちは具体的に何を意識すべきでしょうか。

 

賛多弁護士:ポイントは大きく三つあります。

第一に、「合意解約」の申し入れであろうと「辞職」であろうと、退職の意思は必ず書面で確認することです。口頭での「辞めます」は真意が明らかではないだけではなく、「言った・言わない」の争いになりがちです。裁判例でも、「辞表…又はこれに類する書面を提出されていない事実は,…具体的な事情によっては,退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである」とされています。

第二に、その書面の趣旨を確認することです。それが「辞職」なのか、「合意解約」の申込みなのかが不明確な場合は、本人に確認し、そのやり取りを記録に残します。意思が不明確な場合は、撤回可能な合意解約の申込みとして扱うのが安全です。

そして第三に、最終的には退職合意書を締結することです。退職日、賃金や退職金、貸与品の返還、秘密保持義務、清算条項まで明記することで、退職に関する認識を完全に一致させることができます。

 

高崎社長:今日の話で、「辞めたい」という一言の裏に、これだけ大きな法的な違いがあることがよく分かりました。

 

賛多弁護士:重要なのは、その言葉を一方的に解釈せず、撤回不能な辞職なのか、撤回可能な合意解約の申込みなのかを慎重に見極めることです。そして、その意思を必ず書面で明確にし、最終的には退職合意書で確定させることが、紛争予防につながります。しかし、このような判断や手続きは容易ではありません。遠慮なく私に相談してくださいね。

 

高崎社長:退職は日常的な出来事だからこそ、入口を丁寧に扱う必要がある、ということですね。

 

賛多弁護士:まさにそのとおりです。それが円満な退職と、企業の安定経営につながります。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 塚越幹夫

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