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採用・法律

第34回 『自筆証書遺言書保管制度が始まる』

中小企業の新たな法律リスク

工作機械メーカーの3代目の石川社長が賛多弁護士のところにやってきました。
 
* * *
 
石川社長:遺言の新しい制度ができたと聞きました。 
 
賛多弁護士:本年(令和2年)7月10日施行の「自筆証書遺言書保管制度」のことですね。
 
石川社長:それはどのような制度ですか。
 
賛多弁護士:これまで遺言のうち多く使われるのは公正証書遺言でした。自筆で遺言を作成するのは、簡単にできてよいのですが、方式を間違って無効になってしまったり、作成しても紛失したりすることがあるのと、相続開始(遺言者が亡くなった)の後、家庭裁判所で検認という手続が必要であるというデメリットもあるため、それほど使われなかったのです。今回始まる遺言書保管制度は、自筆遺言を法務局(遺言書保管所)に持参して、保管を申請すると、法務局で保管してくれて、家庭裁判所の検認も必要なくなるので、自筆遺言の利用が増えるのではないかと言われています。
 
石川社長:私は賛多先生にお願いして7年前に公正証書遺言を作りましたが、自筆遺言はどういう場合に使うとよいのですか。
 
賛多弁護士:財産の多い人や、石川社長のように事業をしている人は、遺言も複雑になることが多いので弁護士に相談するのがよいと思いますが、一例ですが、離婚して再婚した場合などそれほど財産が多くない場合でも遺言をつくっておく方がよい場合があって、そういう人は比較的簡単にできる自筆遺言を作成するとよいのではないかと思います。
 
石川社長:なるほど。この前、従業員が、自分は長男だけれどお父さんの相続があったときに、弟と遺産を分ける話し合いをするのが大変だったと言っていましたが、そういう人のことですかね。
 
賛多弁護士:そうですね。財産が多くても少なくても、遺産分割は思ったより大変なことが多いのです。そういう意味では、財産があまりなくても遺言をつくっておくことのメリットはありますね。
 
石川社長:何か気をつけるべきポイントはありますか。
 
賛多弁護士:はい。自分で書くときは、あまり複雑にしようとせず、わかりやすいものにした方がいいですね。形式的な部分は法務局でも確認してもらえるので、その意味でもよい制度だと思います。
 
石川社長:なるほど。
 
賛多弁護士:ただし、念のためですが、事業をしていたり、借入が多かったりする場合の遺言は複雑なものが必要になると思いますので、そういう場合は弁護士や公証人などの専門家に相談する方がよいのではないかと思います。
 
石川社長:ありがとうございます。従業員に教えてあげようと思います。社員は家族ですからね。
 
* * *
 
令和2年7月10日から、法務局における自筆証書遺言書保管制度が始まります。決められた様式にしたがって、自筆の遺言を作成し、電話、インターネット、窓口で予約をした上で、住所地、本籍地又は所有する不動産所在地にある決められた法務局(遺言書保管所)に遺言を持参して保管を申請する制度です。
遺言書保管官と呼ばれる法務局の担当官が、遺言書の様式(形式面)を確認してくれるので信頼性が高まり、また法務局で保管をするので紛失の心配もありません。家庭裁判所による検認が必要ないという公正証書遺言と同様のメリットも享受できます。
比較的簡単にできる遺言の新制度である自筆証書遺言書保管制度の概要を解説しました。
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 竹内 亮

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