ある日、賛多弁護士の事務所に、インテリア雑貨店を営む高橋社長が訪れた。
高橋社長:お久しぶりです。実は、会社のことで折り入って相談があるんです。私どもの営む「インテリア高橋」の店舗スタッフとして雇ったある従業員が、仕事で大きなミスを連発するようになってしまい、お客様からも多数クレームが入っている状態です。営業部門の強化を求めて雇っただけにとても残念なのですが、なんとかこの従業員を解雇することはできるでしょうか?
賛多弁護士:なるほど。心中お察しします。ただ、ご存じかもしれませんが、日本の裁判所では、解雇の有効性について極めて慎重に判断されるというのが実情です。具体的に本件で解雇が有効となり得るかは後で検討するとして、本日はまず「解雇権濫用法理」についての一般的な話をさせていただきます。
高橋社長:(なんか、難しそうな話が始まったな・・・。)
賛多弁護士:高橋社長、そもそも、なぜ使用者は従業員を解雇できるのでしょうか?法律に根拠はあるでしょうか?
高橋社長:なぜって、当たり前のことじゃないんですか?法律はよく分からないです。
賛多弁護士:実は、このように民法で規定されているのです。
民法627条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
もっとも、使用者からの雇用についてはこの通りというわけにはいかず、例えば、予告期間が30日に延長されていたり(労働基準法20条)、解雇理由についても解雇権濫用法理が明文化されており(労働契約法16条)、民法の原則を制限する形で修正されています。
高橋社長:(この話、長くなるのかな・・・。)
賛多弁護士:解雇権濫用法理の条文は以下のような文言になっています。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
このように、有効な解雇とは、①客観的合理性と、②社会的相当性という2つの要件が課されていることが分かります。
まず、①客観的合理性とは、一般に、以下のうちいずれかの理由がある場合と整理されています。
ア 労働者の労働能力の欠如(病気による就労不能、勤務成績不良など)
イ 労働者の規律違反行為(遅刻・早退や上司の指示に従わないなど)
ウ 経営上の必要性(会社の業績不良による整理解雇(リストラ)など)
また、上記客観的合理性があったとしても、②社会的相当性がなくてはなりません。具体的には、本人の情状(反省の態度、過去の勤務態度・処分歴、年齢・家族構成等)、他の労働者の処分との均衡、使用者側の対応・落ち度等が考慮された上で、当該労働者を他の手段ではなく解雇という方法で対処することが社会通念上相当といえることが必要となります。
高橋社長:今回のうちの従業員は、ミスを連発する=勤務成績不良として、上記アの理由がある場合といえそうですね。
賛多弁護士:該当するとしたら、それですね。この点、勤務成績不良による解雇については、判例上、一定の判断枠組みが確立しています。裁判所が見るべきポイントとして、ここでは㋐職務内容、㋑重大性、㋒最終手段性の主に3点であると整理させていただきます。
賛多弁護士:まず、㋐職務内容については、例えば専門性の高い職務についての能力発揮を期待されて中途採用された社員(人事本部長という職位を特定して中途採用された者など)が能力を発揮できなかったという場合、解雇が有効との方向に傾くでしょう。
逆に、職務内容を特に限定しないで採用された従業員の場合、他の職務を提供することが容易であるという理由で解雇が無効との方向に傾くことになります。
高橋社長:そうなると、今回は単に店舗スタッフとして採用しただけだから、専門性が高い職務が特定されていたとはいえなそうですね。
賛多弁護士:次に、㋑重大性とは、成績不良がどれほど深刻か、という話で、単に相対評価で平均的な程度に達していないというだけでは足らず、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないといえる必要があります。
高橋社長:うーん。解雇できる自信がだんだんなくなってきました・・・。
賛多弁護士:最後に、㋒最終手段性とは、指導や教育による是正を十分に行ったか、また、配転等による能力活用の余地を十分に検討したかが問題とされ、それらの措置を尽くしていなかった場合、解雇は無効との方向に傾きます。
高橋社長:先生、勤務成績不良者の解雇がこんなにハードルが高いということは知りませんでした。会社に帰って、まずは従業員のミスをしっかりと分析し、我々使用者の側でできる指導・教育がないかを腰を据えて検討していきたいと思います。
賛多弁護士:従業員とよく対話し、御社がさらに成長していくことを期待しています。
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解雇が無効と裁判所で判断されると、企業にとっては、バックペイや慰謝料等の甚大な金銭債務が生じる可能性があります。これらを避けるために、解雇には特に慎重になるべきであり、「絶対に解雇できる」との確信をお持ちでも、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
特に、本件のような勤務成績不良者については、当該従業員の資質だけが原因ではなく、使用者側が、適性のある職務に就かせていなかったり、十分な指導を怠っていたりということがよくあります。もし資質に問題があると感じる従業員がいたとしても、改善のために使用者として何ができるかをまず考えることが、企業を成長させる第一歩となり、同時に最善のリスクマネジメントといえるでしょう。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 南雲大地





















