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人事・労務

第67話 部下の行動変革は、昇給・賞与時に“評価の中身”を伝える一言から始まる

賃金決定の定石

 4月の昇給は、これからの1年間の基本給が決まる重要な節目です。昇給額には過去1年間の勤務成績が反映され、評価がAなのかCなのかで、社員の受け止め方も、新しい1年に臨む姿勢も大きく変わります。賞与も同様で、評価対象期間である直近6カ月の働きぶりが支給額に反映されるため、社員にとっては「自分はどう評価されたのか」を強く意識し、次の半年への決意を固める貴重なタイミングになります。つまり、昇給と夏冬の賞与支給は、社員の行動変革を促すための、年に3回しかない恰好の機会なのです。


 しかし、この大切なタイミングが“明細を渡して終わり”になっている企業が少なくありません。特に近年は、定期昇給分を除くベア相当分が3%以上に達する環境が続き、評価が低くても1万円以上の昇給となるケースが増えています。定期昇給がゼロの社員であっても、「給料が1万円も上がった」と安心してしまう状況が起きています。本来であれば、評価が低い社員には改善を促し、次の期に向けて奮起させるべきところが、ベアの存在によって“評価の重み”が薄れてしまう危険があります。これは経営者にとって見過ごせないリスクです。


 だからこそ、昇給や賞与の場面を「処遇の通知」で終わらせず、「行動変革の起点」として活用することが、経営者の重要な役割になります。そして、その役割を担うのは直属上司である部課長です。社員が前向きに未来へ踏み出すためには、「自分は丸ごと見てもらえている」という安心感と、「これから何を期待されているか」という方向性の両方が必要です。これを伝えられるのは、日々の仕事ぶりを最も近くで見ている部課長しかいません。


 社員が本当に知りたいのは、昇給額や賞与額の数字そのものではありません。「自分はどう見られているのか」「どこを理解してもらえているのか」「何を期待されているのか」といった“自分に向けられたまなざし”です。ここを外すと、どれほど制度を工夫しても、社員の行動が大きく変わることはありません。逆に、部課長が日頃から丁寧に見守り、理解しようとしている姿勢が伝わっていれば、社員は「自分はちゃんと見てもらえている」と感じ、未来に向けて前向きに動き出すことができるのです。


 昇給や賞与の場面では、過去の働きぶりに対する評価と、そこから導かれる未来への期待を、ひとつのストーリーとして伝えることが重要です。「この一年でここが伸びた」「この取り組みが組織にとって価値があった」「来期はこの役割を期待している」。こうした言葉は、社員が自分の未来を描くための足がかりになります。処遇は過去の結果に基づきますが、上司からの言葉は未来の方向性を示すものだからです。


 これから夏季賞与の支給時期を迎えます。経営者として、このタイミングを部課長が活かせるようにすることは、組織の未来につながる最も着実な“次の一手”です。ベアが大きい今だからこそ、評価に応じた指導を徹底し、社員が誤った安心感に浸らないようにする必要があります。ぜひ「直属上司にどんな言葉を社員へ届けさせるか」を意識していただきたいのです。その一言が、社員の働き方を変え、組織の未来をも変えていく力になります。

第66話 成績評価制度の“ブレ”を防ぐにはどうしたらよいか ― 管理職が平均点に寄せてしまう理由と、その克服 ―前のページ

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