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第113話 【講演録】日本よ、若者への投資を惜しむな!

中国経済の最新動向

 去る10月12日、筆者は科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で、「中国新興企業の台頭~なぜ日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したか」を題とする講演を行った。講演の中で、筆者は失敗を許さないという日本の社会風潮を喝破し、新興企業育成のために「若者への投資を惜しむな!」と提言した。本稿は主催側の整理した内容を加筆したものである。

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■ユニコーン企業中国59社、日本は1社

ご紹介いただきました中国ビジネス研究所の沈です。今日のテーマは中国新興企業の台頭。サブタイトルは少し刺激的なタイトルですが、なぜ日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したのか。問題提起の意識で話したい。

 先日、日本の京都大学の本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞した。これは非常にめでたいことだ。日本は近年、ノーベル賞をたくさんとっている。私が調べたところ、2000年からの18年間、21世紀に入ってから日本の自然科学分野の日本人ノーベル賞受賞者が16名。中国はたった1人だ。数では日本は中国を圧倒している。

ところが、ここが私の問題提起である。2017年が過ぎた時点で、世界のユニコーン企業の数はアメリカの調査機関CBインサイツによれば世界全体でみると220社である。中国では59社。日本はわずか1社だ。つまり、日本はユニコーン企業の数では完全に中国に負けている。

 日本は自然科学のノーベル賞は中国を圧倒しているのに、ユニコーン企業では完敗しているのはなぜかという点を皆さんと議論していきたい。

■中国出張見聞  無人スーパーと自動運転の体験

 本題に入る前に、私は7月下旬から8月下旬にかけて1か月程度中国に出張した。出張先の見聞を4つ述べたい。出張先の1つ目は、北京である。北京の皆さんのイメージはPM2.5.大気汚染の厳しい都市というイメージを持っているだろう。ところがこの1か月の間、大気汚染は少なく、青空が見える日が多い。つまり中国の大気汚染は改善されている。それでも皆さんは、夏の時期は、PM2.5はあまりないのではないかと思うかもしれない。それでは1月はどうかというと、1月でも北京のPM2.5は少なかった。つまり、私が滞在した2回とも大気汚染はかなり改善されていた。

 それは習近平主席の辣腕と密接な関係がある。共産党一党独裁なので、実行、決断、行動がものすごく早い。習近平主席の大号令で冬に暖房用の石炭を全部やめて、天然ガスに転換した。その結果、大気汚染が劇的に改善された。ただし、その措置は行き過ぎた点があった。例えば中国東北地域では、実際に暖房用の石炭ボイラーを全部やめて、天然ガスに切り替えたところ、天然ガスが足りなかったので凍死者が出た。ただし、結果的には北京の大気汚染が改善され、青空が見える日がかなり増えた。

 2つ目、私は、今回初めて北京から上海まで高速鉄道(日本の新幹線)を利用して、上海に出張に行った。近年、日本企業の依頼を受けて中国の現地調査で年間5~6回は中国に出張している。これまでは、北京から上海は飛行機で移動していた。ところが今回、初めて高速鉄道を利用した。時速は350キロ。北京から上海まで4時間半で到着する。飛行機とあまり変わらない。50年前、私の故郷は上海に近いので、北京の大学との移動に普通列車で27時間かかった。特急電車でも23時間。ところが、今はわずか4時間30分である。日本の新幹線とあまり変わらない揺れを感じない快適な旅だった。中国の新幹線はここまで進化していている。

 皆様ご存知のとおり、日本の川崎重工から、またドイツのシーメンスから技術を導入して、徹底的に中国化し製造して、今は世界で走っている高速鉄道の半分以上が、中国で走っている。しかも、スピードが時速350キロ。日本の東北新幹線は最高時速が320キロである。中国新幹線のスピードは日本を上回っている。日本は中国の先生だが、先生から技術を学び、今は先生を上回ったという状態になっている。

 現在、中国と日本は激しく第三国で競争している。中国はインドネシアから高速鉄道を受注し、日本はインド新幹線を落札している。いずれも、中国と日本が激しく競い合った結果である。私から見れば、この2つのプロジェクトは両国とも赤字である。競争しすぎた部分があったと、中国も日本も反省している。このままでは、日本のためにもならず、中国の利益にもならない。これからは第三国でインフラ建設の協力をしようと、今年の5月に李克強首相が日本を訪問した際、安倍首相と合意した事項である。その結果、日本と中国の間で1つの合意文書を締結した。つまり、第三国で日中協力でインフラ建設を実行するという合意文書だ。

 

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講演会の模様  (写真 CRCC編集部)

 

 今年の10月、安倍首相が首相に就任してから初めて、中国を公式訪問する。多分、第三国で「一帯一路」、いわゆる陸上と海上のシルクロードについて、中国と日本の二国間で何らかの合意案件が発表するのではないかと私は見ている。今後、日中合作の第1号案件として、タイの高速鉄道である可能性が極めて高い。

 3番目は、河北省の雄安新区への出張である。昨年7月に行き、今年の8月に再訪した。雄安新区といえば、北京から南西に100キロ程度離れたところにあり、昨年4月1日から習近平主席の決断により、正式に中国の経済特区として3番目に設立された。1番目は鄧小平氏の決断による香港に近い深圳経済特区である。2番目は江沢民時代の決断による上海の浦東開発区である。習近平主席は鄧小平氏、江沢民氏と肩を並べる改革者のイメージを中国国民に与えようとしている。自分の功績を歴史に残したいというのが、習近平主席の思惑である。

 今回の出張で私が体験したのは、無人スーパーである。京東という中国2番目のネット通販の会社である。実際は無人スーパーというより無人コンビニだが、京東というアプリをダウンロードすると、買い物から全てがスマホ一つで出来る。この無人スーパー、無人コンビニの第1号はアリババだ。これは杭州市のアリババ無人スーパー第1号店の写真である。写真を見ていただくと、高齢者が買い物せずに店内に座っている。今年の夏は暑かったので、自宅にいれば冷房を使用し電気料金がかかるので、電気料金を節約するために、無人スーパーに買い物せずに座って納涼している。ただし、視角を変えてみれば、おもしろい事実が発見できる。無人スーパーはスマホを所有し、アプリをダウンロードし、使用できないと入店できない。ということは、中国の高齢者までスマホが普及しているということがわかる。

今年9月、杭州市に中国初の無人レストランをアリババ(阿里巴巴)がオープンさせた。これから中国の飲食店、小売店の一大革命が起きる。既存の有人店舗が無人店舗に変わっていき、無人レストランも中国で飲食業界の革命を起こす可能性がかなり高い。この時代の流れを我々は注目していかなければならない。これが、小売業界、飲食業界の革命である。

 4番目、私が雄安新区を視察した時、中国版Googleと呼ばれる百度(バイドゥ)という会社が開発した自動運転車が雄安新区で走っている。この会社が日本にも進出している。私は、自動運転車は障害物があった時に止まるかどうかの実験を自ら5メートル前に立って実験したが、自動車は止まった。2度実験したが自動車は止まった。試験車は障害物に対して止まることは成功しているが、この車は安心だという結論には至らない。スピードは遅いのである。猛スピードの自動車であったら、確実に5メートルで障害物を察知して止まれるかというのはわからないので、これからくり返しテストをして、データを蓄積し、改善していくことになる。

 雄安新区は2035年に世界初の自動運転都市となるというプランがあり、ビジョンがはっきりしている。交通手段としては、鉄道は全部地下に建設し、地面は自動運転車と電気自動車である。私がタクシーで雄安新区に訪問した際、市民センターという10万㎡というエリアがあり、ガソリン車の進入を禁止している。電気自動車しか入れないのである。これは中国の凄いところである。今は何もないが、雄安新区は上海などの都市とは違うので、世界初の自動運転都市として出来る可能性は極めて高いのである。我々は雄安新区の進展を見守らなければならない。

■スマホは国民の生活スタイルを激変させた


 ここから、本題に入る。私は今年の4月に一冊の本を出版した。タイトルは「中国新興企業の正体」。この本を出版した後、2カ月経たない間に、「日本経済新聞」「週刊東洋経済」はじめ多くのマスコミに本の書評や著者インタビューが掲載された。私は今まで日本で合計十何冊も出版しているが、このように短期間で多くの書評、コメントを頂いたのは今回が初めてである。なぜ、私のこの本がマスコミに注目されたのだろうか。日本経済新聞の書評の言葉を引用すれば、「これまでの中国のイメージを覆した」ということである。

 日本の方々は中国といえば、国有企業が支配する中国経済。またはコピー製品大国でイノベーションはあまりない。技術革新はあまりない。そういうイメージがほとんどである。ところが、この本に収録された9つの中国の新興企業はいずれも国有企業ではなく、民間企業である。全てイノベーション企業である。実際に中国の技術力について、9つの企業の具体的な例として中国企業の技術力がいかに進化しているかが、裏付けられた。

 私がこの本を執筆した動機だが、昨年5月に時事通信社主催の香港トップセミナーで講演をした。講演終了後、香港の隣にある中国経済特区の深圳にいった。深圳で私は衝撃的な事実に出会ったのである。深圳の地下鉄駅の地下通路で一人のホームレスに出会った。このホームレスの前には、茶碗も置いてあるが、その隣に1枚のQRコードが印刷された紙が置いてあった。ホームレスとQRコードにどのようなつながりがあるのか。私はその時点ではピンとこなかった。その時に、一人の通行人がポケットからスマホを出し、地面に置いてあるQRコードを照合してホームレスに寄付をしたのだ。ホームレスの寄付まで、中国のスマホ決済が進行していたのは、私の想定外であった。

 さらに、その翌日、通信機器世界最大手のファーウェイ(華為)本社を訪問した。その後、広東省の広州市にいる大学副学長の友人に招待され、レストランに行った。友人以外に面識のない2名がいた。この2名は副学長の友人である。初対面の方なので、日本での習慣で名刺交換をしようとしたところ、相手から「あなたはスマホを持っていますか」と聞かれた。「持っている」と答えると、「スマホで名刺交換をしましょう」と言われ、私はスマホの名刺交換の経験がなかったので、「出来ない」と伝えると、彼が私のスマホを操作し名刺交換が、あっという間に出来たのである。スマホによる名刺交換は新しいビジネスの慣習となり、流行っている。スマホを見てみると、確かに相手の名刺である。相手の肩書き、勤務先、電話番号、Eメールアドレス、全部入っている。物凄く便利である。これも私にとって衝撃的な事実であった。

 その後、日本に一度戻って、また6月から7月に1か月間の出張で中国に滞在した。昨年の北京出張の目的は雄安新区の視察であったが、北京在住の娘がちょうど休日の土曜日だったので、私に同行した。高速鉄道で移動したが、娘はチケットの予約も支払いもスマホで行った。翌日、雄安新区の視察に出かけ、順調にスケジュールをこなし高速鉄道で戻ってくるときに、また娘はスマホの配車アプリでタクシーを予約した。北京駅で降りるとタクシーが待機していて、支払いもスマホ決済である。娘の自宅に到着すると、夕方、出前アプリで料理を注文したのである。料理は30分程度で届き、支払いはスマホの決済で済ませてあった。そんなに簡単にできるものなのかと初めて経験した。中国国民の生活はここまで便利になってきている。

 翌日、街に出て目に入った風景だが、北京の街を走っている自転車は個人所有の自転車はほとんど無くなっていた。全部シェア自転車である。今、街を走っているのはオレンジ色のモバイクか黄色いオフォ(ofo)という二大シェア自転車である。

 また、朝食や野菜の屋台でもQRコードがついたスマホ決済である。ここまでスマホ決済が進展している。シェア自転車は30分ごとで1元。日本円に換算すれば17円である。スーパーの前でもマンションの前でも、ホテルの前でもどこでも駐輪できる。非常に便利である。市民生活にとっては、欠かせない存在になっている。この一連の出来事は私にとって大きな衝撃であった。この中国で起きている事実を日本の読者に伝えたいというのが私の執筆の動機となったのである。

■学生や国有企業リストラ組も創業者に


 私の本の中で、どのような企業が紹介されているのか。まず一つ目は配車アプリで世界最大手のディディチューシン(滴滴出行)である。配車アプリの最大手と言えば、皆さんはアメリカのウーバー(Uber)ではないかと思っているかもしれないが、実際はそうではない。ディディチューシンの登録ドライバー数は1700万人である。ウーバーよりはるかに超えている。利用客数は4億5000万人。昨年2017年1年間で、利用回数は74億回。中国の人口は14億人なので、一人当たり5回利用している。設立わずか5年間で評価額が500億ドルである。特徴としては、政府と協力をして白タクの合法化である。日本は白タクの合法化はされていないが、中国が先行した形になっている。

 2番目はシェア自転車モバイク(摩拝単車)である。これは皆様ご存知のとおり、昨年12月は北海道札幌、福岡市この2か所に進出した。設立わずか2年で投入台数は700万台を突破している。さらに世界8か国180都市に進出したのだ。このスピード、スケールの大きさは日本では想像もつかないであろう。

 3番目は、ドローン世界最大手のDJI。この会社は大学生が創った会社である。今、商業用無人飛行機の世界シェアの8割を独占している。アメリカの企業、フランスの企業、全部負けている。

 4番目は、日本では見かけないネット出前サイト「ウーラマ(餓了麼)」。ウーラマはどういう意味かというと、日本でいう「お腹空いた?」という意味である。この会社は上海交通大学の大学生が創った会社だ。創業者の張さんは、大学の寮に住んでいた時、仲間5人と「シリコンバレーの海賊」というテレビドラマを鑑賞した。内容は、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツや、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズの生涯を描いたドラマであった。これに、張さんをはじめとした5人のクラスメートが感動し、「俺たちも事業を起こそう」と熱く議論をした。様々検討した結果、結論が出ないまま深夜になり、お腹が空いて飲食店に電話を入れたところ、電話に出なかったか、出前のサービスを断られたため、お腹が空いたまま朝を迎えることになった。この経験から出前サービスを自分たちがやろうということになり、この会社を発足させた。まさに社名も「ウーラマ」である。中国人はよく、挨拶した時にも使う。「ウーラマ」お腹空いていないか。食事に行こうというニュアンスの言葉である。

 発足した当時、学生の5人は起業するお金がない。経験がない。人脈もない。何もなかったが会社を創った。彼らが持っていたのは、若さと勇気と無謀さの3つだけである。発足資金の12万元はスリーFから出資してもらった。1つはFamily(家族)。2つ目はFriend(友達)。3つ目はFool(馬鹿者とも言うが、いい意味で熱狂的)。そのうちの一人が奨学金を持ち出して出資金として投資した。この会社は発足10年で世界最大級の出前サイトになった。従業員数が1万5000人である。国内2000都市に進出している。利用者数は2億5000万人。さらに、このサイトに登録された飲食店は130万社である。

 出前サイトは日本にもあるが、中国のような130万社が一つのサイトに登録する出前サイトはない。しかも注文をして30分以内に届け、30分で届かないと配送員に対して罰金をつける。この会社1社だけで300万人の配送員を雇っているので、雇用にも貢献している。話が若干戻るが、前に紹介した配車アブリ会社滴滴出行のドライバー1700万人のうち400万人は国有企業からリストラされた従業員たちである。こういう会社が中国の雇用に大変貢献している。

 5番目、民泊最大手トウ―ジャ(途家)である。日本では民泊法が成立したばかりなので、民泊企業はこれからだが、トウ―ジャは発足6年で、国内だけで345都市。世界70国で1037都市に進出している。

 6番目、これは皆さんご存知だと思うが通信機器世界最大手ファーウェイである。ネットワーク通信機器の会社である。スウェーデンのエリクソンが今まで世界最大手であった。スマホの出荷台数では、今年の第2四半期でアップルを上回り世界第2位になった。この会社の凄さを紹介したい。昨年、日本法人のファーウェイ・ジャパンの社長に、私が代表を務めている中国ビジネスフォーラムで講演をしていただいた。日本の初任給は平均で大卒20万円である。ファーウェイ・ジャパンの初任給は大卒で40万円である。日本の平均初任給の2倍である。修士課程だと43万円。ものすごく高給の理由は、この会社の業績がものすごく良いからである。現在の社員数は18万人だが、発足した時はわずか5人しかいなかった。しかも社長の任さんを含め、国有企業からリストラされた人たちである。

 ところがこの会社は30年を経て、いま世界の通信機器最大手になった。この会社は日本では見られない企業ガバナンスがあるのだ。3点だけ紹介する。まず1点目、華為基本法がある。これは会社の憲法である。つまり社長から従業員まで、全てファーウェイ基本法に基づいて行動しなければならない。例えば、ファーウェイ基本法の中では、研究開発費には毎年売り上げの10%以上投資しなければならないなど、細かいことまで決められている。2つ目は輪番CEO(最高経営責任者)制度。この会社は6か月ごとの輪番でCEOを務める。今は任さんが会長だが、創業者がイザというときには、他の方がすぐに受け継いでいくことができるというメリットがある。3番目は、上場しない。社員持ち株制度である。18万人のグローバル社員のうち、8万人が中国社員である。この8万人に全部の株を持たせること。従業員のモチベーションを高めることに繋がっている。そういう企業ガバナンスは、ほかの企業には見られないものである。今、アメリカが一番恐れる中国企業と言われている。

 7番目は、ネット通販世界最大手のアリババである。アリババは皆さんご存知でしょうが、何をやっているかというと、主な業務分野は次の4つである。物凄く利益を上げている分野である。1つ目はネット通販である。取引金額は世界最大規模であり、アマゾンをはるかに上回っている。毎年11月11日の独身者の日のセールの一日の取引金額は、日本の大手デパート三越伊勢丹ホールディングスの年間売り上げの1.4倍である。そういう規模である。2つ目は、ネット金融。3つ目は物流。4番目はクラウドコンピューティングまたはビッグデータ。この4つの分野が、アリババの財務に貢献している。

 アリババは中国で4つの革命を起こしている。1つ目は消費革命である。これまでの中国国民は店頭商売が一般的である。日本人とあまり変わらない。ところがアリババはネット通販を起こして、多くの若者、中国の国民たちはネット通販での買い物を楽しみにしている。これは消費革命。

 2番目は技術革命。独身者の日だが、昨年1日の取引件数は12億件以上である。これはほとんどスマホ決済あるいはネット決済である。これは技術のインフラ整備をしないとできない。例えば、1秒間で25万件の取引が成立した。最初の数年間は独身者の日には銀行のネット取引を全部麻痺させた。どの銀行も対応できない。ところがアリババは技術のインフラを整備して、完全にカバーできている。

 3番目は金融革命。これまでは買い物はキャッシュだったが、アリババはアリペイを開発し、キャッシュレスという社会に進展している。

4番目は物流革命。独身者の日の一日13億件近い取引が成立し、品物をできるだけ早くお客様のところに届かなければならない。なので、アリババ系の物流会社も設立してカバーできるようになった。今、中国で技術進展をしている会社の代表格はファーウェイとアリババである。この2大会社が中国を代表する技術会社あるいは民間企業である。アリババの創業者、ジャック・マーは中国の経営者の中で世界に最も尊敬される経営者である。昨年1年間でジャック・マーと単独で会談した世界各国の政府首脳たちが多くいる。

 なぜこのように多くの首脳が会談を行うのか。まず一つは雇用問題の解決。アリババのネット通販による中国の間接雇用。合計で3千万人の間接雇用が創出された。2番目は対中輸出。アリババというプラットフォームを通じて、中国向けに自国製品を輸出しようとする。3番目は金融インフラ整備。アリババの経験を参考にして金融インフラ整備をする。なので、最も世界で尊敬されている経営者はジャック・マーである。

 8番目の会社は中国版のグーグルと言われている世界2番目の検索エンジン、バイドゥ。この会社はいま2つの分野に集約されている。一つは先ほど説明をした自動運転車。もう一つはAI。
 9番目は、中国版フェイスブックのテンセント(騰訊)。アジアの株式市場に上場している最大の時価総額を持っている会社である。


■9大新興企業に勝てる日本企業なし


 このように中国の9大新興企業を紹介したが、どういう特徴があるのか。1つ目はいずれもニューエコノミー分野である。既存の製造業、既存のサービス業ではない。中国の経済を牽引しているのは新しい分野の企業である。2番目、いずれも国有企業ではない。民間企業である。3番目、特徴としては、かゆいところに手を届かせるベンチャー企業。これらの企業が成功した共通点は、庶民を味方にする。若者を味方にする。これが成功の方程式と言われている。

 例えば、ディディーチューシンだが、通勤地獄の解消。これまでは、タクシーがなかなか拾えない。2時間待っても拾えない。北京、上海どこに行っても拾えなく困っていたが、配車アプリによって通勤地獄を解消しようとする。また、シェア自転車モバイクは最後の1キロを解消する。サラリーマンは自宅から電車に乗って会社に通勤するが、中国の場合は自宅から電車までが1キロ。電車降りてから勤務先までが1キロ。この最後の1キロが大きな問題であった。タクシーはなかなか拾えない。この解決方法としてシェア自転車の会社を立ち上げ問題を解決した。ウーラマは深夜の空腹を解決する。テンセントは中国版のSNSを開設する。

 4番目の特徴は9つの企業は上場企業であれば、いずれも巨人企業である。上場企業の世界企業時価総額ランキング(2018年1月31日時点)でテンセントは5位。アリババは8位である。世界のトヨタは43位だ。時価総額がその時点でトヨタの2.7倍、アリババはトヨタの2.5倍である。未上場企業であれば、ユニコーン企業である。

 5番目は創業者の年齢が若い。9つの中国新興企業創業者の年齢の一覧だが、20代が4名。30代前半が3名。40代前半が2名である。ということは、20代、30代前半というのは創業にとっては一番ふさわしい年齢である。若い時に創業すれば、成功の確率が高い。若者は好奇心が旺盛。チャレンジ精神が旺盛である。年齢が高くなると新しい事業を起こす気力がなくなる。中国の新興企業の創業者の年齢は若いことがわかる。

 6番目はいつまでも諦めない。これらの新興企業は創業過程から見れば、失敗、挫折だらけである。例えば、アリババの創業者であるジャック・マーは、彼の人生は失敗だらけである。中高時代は問題児。高校を卒業して、大学入試は3回もダメだった。数学試験の1回目は100点満点中、わずか1点だけであった。2年目の挑戦の時には数学が27点。3年目の挑戦で数学は合格したが、総合点数は合格ラインまであと5点足りない。ラッキーなのは、ある大学で欠員が出たので、彼は辛うじて入学できた。アリババは技術会社としては中国で不動の地位を築いた。彼は、技術は全くの素人だ。英語教師出身である。だから苦労した。大学浪人中のアルバイトでも、面接は3回もダメだった。特にホテルの面接は、顔が醜いという理由で落とされた。理不尽な理屈であるが、ジャック・マーは諦めずに、会社を設立し中国最初のホームページを作った。ところがこのホームページは国有企業に乗っ取られた。創業しても、ベンチャーファンドからお金を出資してもらえない。失敗の連続である。

 ところが失敗の連続のところに、日本企業のソフトバンクの孫正義が手を伸ばした。2000万ドル投資したのだ。この2000万ドルを投資し、アリババの株式28%。今はどのくらい価値があるかというと、孫正義の投資は今年1月時点で、アリババの時価総額は5200億ドル。これの28%を計算すれば1000億ドル以上の価値である。孫正義の投資としては、最大の成功案件である。

 7つ目の特徴だが、この9大企業に勝てる日本企業が現時点で一つも存在しない。アメリカと比べた場合、日本でベストセラーになっているGAFAという本だが、GAFAというのは、Google、Amazon、Facebook、Appleの4つの会社の頭文字である。中国ではバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの英文表記の頭文字をとって私が名付けたのがBATH。現時点でアメリカのGAFAには、確かに勝てない。多分、GAFAをしのぐには将来的に上回る可能性もあるが相当時間がかかる。アメリカには勝てないが日本と比べると、中国の9大新興分野に勝てる日本企業は一つも存在していない。非常に残念な結果だ。

■なぜ日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したか?

 なぜ、こういう新興分野では日本企業が弱いのか。特にユニコーン企業の数で日本は中国に完敗したか。昨年の年末時点で中国のユニコーン企業は世界全体では220社ある。アメリカは1位で109社。中国は2番目で59社。日本はメルカリという会社1社だけである。逆に言うと中国のユニコーン企業は日本の59倍。最新データでは世界全体で240社。アメリカは116社。中国は71社。日本はわずか2社である。今年になって、日本はまだ中国に比べれば、中国は日本の35倍に相当する。

ユニコーン企業の定義、条件を見ていきたい。4つの条件がある。①未上場企業。②創立から10年未満。③テクノロジー企業。④評価額10億米ドル以上。まず、キーポイントとしてテクノロジーがある。文部科学省のデータで「世界に注目される論文数の国別割合」(2013~15年)がある。これは、中国が2位。日本は9位である。10年前に日本は4位。中国は6位であった。ところが、今、日本は中国に逆転されたのだ。また、アメリカが選ぶ共同研究の相手国として自然科学の8項目で、中国を1位と選ぶ分野が6分野ある。残りの2分野は2位と3位である。日本は5位から13位までだ。日本はアメリカの共同研究の相手国にされなかったということである。

アメリカのデータでみると、今年MIT(マサチューセッツ工科大学)が選んだ「ブレークスルーテクノロジー10」つまり突破性のある技術10項目である。その中で、アリババは4分野で選ばれている。他の研究機関では中国科学院、清華大学、テンセント、バイドゥという名前が並べられている。残念ながら日本の研究機関、大学、企業は入っていない。MITが選んだ「世界で最もスマートな企業トップ10」(2017年度版)。そのうち2つは中国企業である。日本企業はゼロである。昨年はトヨタが2016年版では17位。ところが今年は50位以内に日本企業の姿は完全に消えた。中国の技術の躍進は先ほどの文部科学省のデータ、またはMITのデータによって裏付けられている。
米中貿易摩擦は技術分野の覇権争奪
なぜ今、アメリカと中国の間に、貿易戦争が勃発しているのか。その背景としては覇権争いである。本質は技術分野の米中覇権の争奪であると私は見ている。アメリカの発表だが、対中経済制裁の重点対象品目10項目。これは、中国が発表した国家戦略「中国製造2025」に規定される10大重点産業と完全に一致している。ということは、アメリカは中国の技術分野を狙い撃ちしているのだ。なぜ、アメリカは中国の技術分野を標的としているのか。脅威だからである。

「中国製造2025」には三段階がある。第1段階、第2段階、第3段階とあるが、特に第3段階を見てほしい。建国100周年に当たる2049年まで世界製造業強国の先頭を走り、主要分野ではイノベーション能力と国際競争力の優位性を確立し、世界をリードする技術と産業システムを成し遂げる。つまり、技術分野の世界覇権を手に入れるということである。中国が世界制覇するということをアメリカは絶対に容認できない。それを阻止するために、GDPの米中逆転を阻止するために、アメリカのトランプ政権は先手を打っているのである。この米中貿易戦争は当分続くと思われる。我々の想像より、時間が長引いていく可能性が極めて高い。その背景には米中技術分野の覇権争奪がある。
日本よ、若者への投資を惜しむな!
 最後になるが、ユニコーン企業の数を日本と中国で比較した場合、どこが違うのか。私がまとめたところ、相当な違いが見えてきた。まず一つは研究・開発投資である。2015年の研究・開発投資は、1位はアメリカ51.2兆円だが、2位は中国の41.9兆円で1位のアメリカと投資金額にあまり大差がない。ところが3位の日本は18.9兆円で、中国は日本の2.5倍に相当する。

 2番目は技術。これは先ほども説明したが、中国は技術分野で躍進している。日本は自然科学分野でノーベル賞受賞者が世界で2番目だが、技術分野ではそんなに躍進していない実態が裏付けられている。中国は躍進しているが、日本は進歩しているがスピードが遅い。技術分野でも日本は中国に抜かれるという恐れが出てきている。

 3番目は政府規制の相違。中国は共産党一党支配の国で規制が厳しいとうイメージが一般的だと思うが、必ずしもそうではない。特にグレーゾーン分野のIT、スマホを使用するような新しい分野に政府はあまり手を出す余裕がなかった。あるいは中国政府がまだ把握できていない、そういう分野である。例えばネット金融。スマホ決済は政府さえわからない。政府の方針はまずは試しにやってみよう。問題があれば後で規制する。これが中国の方針である。政府の規制が届く前に、民間企業が相次いで参入し、成功したのだ。

 日本の方針は、逆である。まず規制をする。例えば、民泊事業を例にすると、民泊法という法整備をして民間企業の参入を許可する。ところが、これが遅い。民泊も遅いし、白タクもまだ合法化されていない。これが日中の政府規制の違いである。

次に若者のベンチャー意欲。中国は1日に新しくできる企業の数は、18,000社である。そのうち9割が5年以内に消えている。でも1割が残る。1割が残るということは1,800社が残っていく。その中からベンチャー企業が出てくるし、ユニコーン企業が出てくる。なので、中国の若者の創業意欲はものすごく旺盛である。しかし、日本は2006年の「ホリエモン事件」以降、若者の創業意欲が急速に衰えている。また、大学生の内向き傾向が強くなっている。

 次に、ベンチャー投資の格差。中国では、これらの新興企業の成功はベンチャー投資と切っても切れない関係である。中国でのベンチャー企業の条件は先ほども説明したとおり、「九死一生」である。成功の条件は、①個人のベンチャー意欲、②社会的なベンチャー風土、③ベンチャーファンドの支援、④政府の奨励・支援策、である。

2015年の各国のベンチャー投資額だが、中国は489億ドル。日本は7億ドルしかない。日本はあまり若者に投資していない実態が浮き彫りになった。若者がダメなのではない。ダメなのは我々大人である。今、日本の最大の問題点は正にここである。若者への投資は、お金だけではない。社会全体としての若者のための環境作りだ。失敗を許さないような日本全体の社会風土がある。私も昔、日本の一般的な大手企業の中で、失敗を許さない風土を経験した。

冒頭の問題提起だが、なぜ、日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したのか。様々な原因がある。中国と比較した場合に多くの問題点が浮上してくる。これらの問題点を一つ一つ、チェックをしながら改善していく必要がある。特に私が最後に強調したいことは、若者への投資を惜しまずにしてほしい。これは日本の将来に関わる問題である。社会全体の環境づくりが必要である。

時間になりましたので、私の講演はこの辺で終わらせていただく。長時間ご清聴どうもありがとうございました。 (了)

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