去る12月17日、中国政府は2023年経済データを発表し、GDP成長率が5.2%だった。この数字は政府目標の5%を上回り、主要国の中でもインドに次ぐ高い成長率を誇る。
本来ならば、市場はそれを歓迎し、株価が上昇する筈だ。ところが市場の反応は逆だった。統計発表1週間後の23日に、上海株価指数は発表前日の16日に比べ4.3%も下落した。市場は政府発表の5.2%成長を疑うためだ。
それでは市場はなぜ5.2%成長を疑問視するか?一言で言えば、政府発表の数字は中国経済の実態及び国民の実感と大きくかけ離れているからだ。
時価総額885兆円を失った中国株
図1に示すように、2023年中国のGDP成長率は5.2%、インドに次ぐ高さで世界主要国の中で際立つ。
出所)IMF「世界経済見通し」(2023年10月)。中国の数字は実績。筆者が作成。
経済好調に伴い株価が上昇するのは市場の常識だ。しかし、中国では高い成長率にもかかわらず、上海株価指数は大幅に下落している。
去年、日米欧では米ナスダック(43.42%)と日経平均(28.24%)をはじめ、主要国の株価は揃って大きく上昇していた。ブラジル(22.28%)、インド(18.74%)、ロシア(11.63%)、南アフリカ(5.29%)などBRICS新興国も大幅に上昇。主要国の中で、中国だけが▼3.7%と下落し、最悪のパフォーマンスを示す。ちなみに中国香港ハンセン指数は▼13.82%も下落した(図2を参照)。
出所)Global Market Reportにより筆者が作成。
今年に入ってからも、中国本土と香港の株価指数は下落に歯止めがかからない状態となっている。ブルームバーグによれば、中国本土と香港の株式市場は前回のピーク時から中国GDPの3分の1に相当する計6兆ドル(約885兆円)相当の時価総額を失い、問題の深刻さが露呈している。
政府発表の高いGDP成長率と下落が続く株価指数の乖離は、実は1つの厳しい現実を反映している。つまり、中国経済の実態は政府発表より相当悪い。この深刻な事実はGDP成長率以外のデータに裏付けられている。
デフレに突入する中国経済
中国経済は今、事実上デフレに突入している。国家統計局の発表によれば、2023年消費者物価指数(CPI)が前年比で0.2%となっているが、うち、10月▼0.2%%、11月▼0.5%、12月▼0.3%、3ヵ月連続でマイナスに転落した(図3を参照)。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
一方、生産者物価指数(PPI)も12カ月連続でマイナスとなり、通年工業製品出荷価格が3%も下落している。消費サイドから見ても生産サイドから見ても、中国は深刻なデフレ状態に陥っていることは明らかだ。
インフレに比べれば、デフレのほうが経済に与える打撃は遥かに大きい。デフレによって、多くの企業が倒産し、多くの人々が仕事を失い、多くの中間層人口が貧困層に転落してしまうからだ。かつて、日本経済がバブル崩壊後、長期にわたりデフレに喘ぎ、人々はデフレの怖さが良くわかる。今、中国は日本が嘗て経験したデフレの怖さを体験し始めている。
国民の実感を伴わないGDP成長率
国民の実感も政府発表の5.2%成長と大きく乖離している。これは企業利益の減少と失業者の増加を見れば一目瞭然となる。
政府当局の発表によれば、昨年1~11月中国工業企業利益は増加ではなく、▼4.4%の減少となっている(図4を参照)。うち、国有企業▼6.2%、外資系企業▼8.7%と減益している。業績の悪化に米中対立の激化を加え、三菱自動車など一部の外資系企業が余儀なく中国撤退を選んだ。国内企業の多くは賃下げしたりリストラしたり生き残る方策を講じ、倒産に追い込まれる企業も数少なくない。結果的には、中国雇用環境の大幅な悪化につながっている。
図5に示すように、2023年都市部の登録失業率が5.2%に上り、農村部からの出稼ぎ労働者「農民工」の失業率を加算すれば、真実の失業率は二桁になると見られる。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
特に若者たちの失業率が格段に高い。昨年6月時点で、16~24歳人口の21.3%が失業中なので、5人に1人が仕事を失う計算だ。あまりにも衝撃的な数字なので、当局は7月以降、16~24歳人口の失業率の発表を中断した。その後、政府は統計方法を変更し、在学中のアルバイト学生の失業を計算に入れずに12月16~24歳人口の失業率が14.9%と発表を再開したが、若者たちの雇用環境が改善したとは思わない。
要するに、政府発表のGDP成長率は高いが、中国経済の実態も国民の実感も伴わない。だから市場は政府発表に不信感を抱き、景気動向に敏感な株価はネガティブな反応を示しているのだ。今年、中国政府は抜本的な景気対策を打ち出さない限り、経済減速の継続が避けられず、株価の上昇も望まない。