不動産業のM&Aが増えている
相変わらず、M&A市場が活況ですが、M&Aの仲介大手の役員いわく、最近は、不動産業のM&Aも増えているとのことです。
不動産業といっても、たくさんの人数を使って、分譲、仲介、管理、賃貸をやっているようないわゆる街の不動産屋のM&Aではありません。
株主も役員も1人、あるいは、親子のみというような、スモールカンパニーの不動産会社です。
こういう会社のM&Aというのは、つまりは、『不動産を現物ではなく、株式で売ること』です。
私は、もともと不動産を持つなら会社で持ちなさい、という考えを持っていますが、不動産のM&Aを考えた場合に、個人で持っているケースと会社で持っているケースでは、どういう違いが出るでしょうか?
不動産を個人で持つケースと会社で持つケースの違い
簡単に次のように考えてみます。
・会社の資産は、簿価が1億円の土地だけ
・会社の負債はゼロ
・自己資本は1億円
とします。
簿価1億円の土地ですが、市場価格では、2億円です。つまり、含み益が1億円ある、という状態です。
この状態で、土地を売る、とした場合に、売手としては、
(1)土地を売る
(2)会社をまるごと売る
という2つの選択肢があります。
(1)か(2)、売手にとっては、どちらが良いでしょうか?
まず(1)ですが、1億円の土地を2億円で売れば、会社には、売却益が1億円発生します。
となると、法人税で3,000万円支払う必要があります。結果的に、1億7,000万円が現金として残ります。
このあとですが、もぬけの殻となった、空っぽの会社をずっと置いておいても、仕方ありません。
別の商売を始めれば別ですが、ご高齢のオーナーであれば、
「このまま会社を残してもあれだしなぁ・・・清算しよう」となります。
するとどうなるかというと、会社に残っている現金を、株主に分配する、という流れになります。会社の持株比率に応じて、分配してゆくわけです。
この場合に、仮に、オーナー1人で100%の株式を持っているとした場合、1億7,000万円が表面上の収入です。
しかし、このお金は、税務上は株式の売却収入ではなく、『配当所得』となります。
配当所得の場合は、他の給与所得などと併せて、総合課税となります。
住民税と合わせると、実効税率としては、50%くらいです。
つまり、売却した金額の半分しか、手元に入ってこないのです。とてももったいないのです。
次に(2)会社を丸ごと売る、というケースです。1億円の土地を持っている会社を売る場合、会社の売買ということで、M&Aとなります。
のれん代は無視して、M&Aによる株価=自己資本(時価)とすると、会社の価値は、2億円と評価されます。
この株式をオーナーが売るわけですが、自分が持っている株式を他人に売る場合、譲渡所得となり、税金としては「20%」で済みます。
つまり、売却した金額の8割が、手元に入ってくるのです。
まとめると、
(1)の場合位は、8,500万円
(2)の場合は、1億6,000万円
手元に残ります。
割り切って計算していますが、全然違うことがお分かりいただけると思います。
(2)会社で保有していたほうが圧倒的に有利なのです。
オーナーのなかで、退職金等を使って、これから不動産を買うことを検討されている方は、ぜひ、専門家に相談して、出口戦略まで考えていただきたいのです。
知っているか、知らないかで、オーナーの手取りは全然変わってくるのです。