ここ数年、財務のことを語る雑誌や書籍に、「ROE」という言葉を見かけるようになりました。
「ROE」は、Retern on Equity の略です。「株主資本利益率」を表します。
計算式で言えば、
当期純利益額 ÷ 自己資本額 × 100 です。
この数字が大きいほど、自己資本額に対する当期純利益額が大きい、ということです。自己資本に投資をしている投資家にとれば、投資効率が良い、と評価できる指標です。一見、悪くない指標のように思えてしまいます。
しかし、この計算式には負債額が全く加味されません。借金である負債がどれだけ大きかろうが、この指標「ROE」の計算式には、無関係なのです。
当然です。資本に投資をしている投資家にすれば、その会社が大きな借金をしようが、当期純利益さえ大きければ、それだけ大きな配当を要求できるのです。
この低金利時代、多少の金利を払おうが、借金をしてでも大きなリターンを期待するほうがよい、という考えかたです。
むしろ、「もっと借金をしてレバレッジを効かせろ!もっと稼げ!もっと稼いで配当をもっと増やせ!」と、投資家は更なる借金を迫るのです。
で、投資家は配当を受け、株式を売り抜けるのです。
リターンを得たいだけの投資家にとっては、借金は配当を増やす手段なのです。
「ROE」は、投資家にとっての、マネーゲームの指標にすぎないのです。短期決戦の結果を読む、指標データなのです。
中小企業の経営を担う者の悩みである、借入返済や資金繰りをどうするか、ということとは無縁なのです。
つまり、「ROE」は、キャッシュフローとは無関係の指標なのです。
しかし、中小企業の経営の命は資金繰りであり、キャッシュフロー(現金を毎年いくら積み上げるか)なのです。
「ROE」に注目する書籍や雑誌を見た中小企業の経営者が、
「よし!わが社もROEの改善に注力しよう!」
などと考えると、誤った経営判断に陥ってしまうのです。
どれだけ「ROE」が向上しようとも、借金が過剰になれば、資金繰りは悪化します。ましてや、借金過剰のまま、売上激減の事態に陥れば、悲惨です。
「ROE」の改善など、何の役にも立ちません。たちまち経営危機に陥るのです。
中小企業の経営においては、「ROE」を使うべきではないのです。
なのに、書籍や雑誌で「ROE」をアピールするのは、ミスリードのもとです。
「借金を増やしてでも純利益を増やせ!」
といった類のことを平気で書く、書籍や雑誌に、だまされてはいけないのです。
中小企業の経営者が使うべきは、「ROE」ではなく、「ROA」なのです。
「ROA」は、Retern on Asset の略です。「総資産経常利益率」を表します。
計算式で言えば、
経常利益額 ÷ 総資産額 × 100 です。
この数字が大きいほど、総資産額に対する経常利益額が大きい、ということです。
「ROE」は自己資本に対する当期純利益額であるのに対して、
「ROA」は総資産に対する経常利益額です。総資産額は、総資本額と一致します。総資本には、自己資本も負債も含みます。要は、借金も含まれるのです。
不要な借入金が増えれば総資産額は膨らみ、「ROA」は悪化します。
いかに少ない総資産で、いかに経常利益を稼ぐのか、を考える経営指標が「ROA」なのです。「ROA」は企業の稼ぐ力を表す、世界共通の経営指標なのです。
「ROA」を向上させるには、経常利益額を増やすのか、貸借対照表の総資産を減らすのか、しかありません。
総資産を減らすには例えば、
余分な現預金を持たない、余分な売掛金・在庫を持たない、余分な土地・建物を持たない、ということに取り組む必要があります。
「余分な」とは、稼ぐことに役立たない、自前で持つ必要がない、という資産です。その目線で貸借対照表の資産を眺め、総資産を縮める手がかりを探るのです。
余分な資産を削れば、貸借対照表の右側にある、余分な借入金の負債が減り、余計な金利が減ります。
あるいは、損失を計上して剰余金が減るものの、税金での流出が減り、現預金がより多く残ります。つまり、総資産を縮めて「ROA」を向上させれば、キャッシュフローが良くなるのです。
一方、「ROE」を向上させるには、当期純利益額を増やすのか、自己資本額を減らすのか、です。簡単なのは、企業が自社株買いを行い、自己資本額を縮めることです。数年前、「ROE」が注目された後、増えた手法です。上場会社は自社株買いを進め、「ROE」を向上させたのです。しかし、自社株買いをしたところで、
キャッシュフローには何の関係もありません。「ROE」を気にする株主対策になるだけです。
オーナー会社である中小企業にとって、「ROE」は役に立たないのです。
中小企業は「ROE」ではなく「ROA」を考えなさい、と申し上げたいのです。
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