menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

新技術・商品

第19話 道を切り拓くマーケティング術

北村森の「今月のヒット商品」

2018年、ヒットしそうな商品は数々ありますが、私、全国各地のウイスキー蒸溜所が続々出してくるであろう新作にも注目しています。
 
このところのジャパニーズウイスキー人気を追い風に、今、日本国内のウイスキー蒸溜所の数は20を超えたといわれています。10年ちょっと前には「ウイスキー冬の時代」と表現され、国内のウイスキー市場が冷え切っていたことを思うと、驚くべき、そして嬉しくなってくる状況ですね。
 
ただ、ウイスキーって、3年間の熟成が基本とされています。ということは、ここ1〜2年で新規に立ち上がったいくつもの蒸溜所には、まだ「売りもの」がないという段階にあります。
 
ウイスキーは嗜好品です。そして熟成にかける時間こそがひとつの命です。そのことをわかっている愛好家からすれば、仮に「最低3年」という時間を節約して“促成栽培的”な商品を見切り発車で販売されても食指は動かない、そう思うでしょう。ところがちょっと違うんですね。
 
mori19_1.jpg
 
上の画像は、鹿児島県の新しいウイスキー蒸溜所である「嘉之助蒸溜所」の商品です。仕込んだのは2018年の2月といい、わずか8カ月寝かせただけのものです。でも、ウイスキーファンは購入します。
 
なぜ? これ「ニューボーン」と称した商品なんです。「3年熟成には満たないですけれど、この段階での出来映えをみてください、今後の3年熟成ものがどれほどの仕上がりになりそうか、期待できる中身ではないですか」と、ウイスキー愛好家やプロのバーテンダーなどに訴えかけるための1本、ということです。
 
つまり、「3年熟成ものこそが本番とわかっているうえで、あえて出している」というわけ。
 
 
mori19_2.jpg
 
 
こちらは、北海道の「厚岸蒸溜所」の「ニューボーン」です。ここも新しい蒸溜所であり、3年熟成ものは、来年2020年には登場するとみられていますが、すでに「ニューボーン」を定期的に限定販売しています。
 
その味わいは思いのほか深くて、これがニューボーン?と言いたくなるほど、いい感じで熟成が進んでいることがうかがえます。
 
「ニューボーン」の限定販売を定期的に続けることによって、厚岸蒸溜所の評価はすでに高まっており、来年に向けて、愛好家からの期待もさらに盛り上がっている様子です。
 
 
mori19_3.jpg
 
こうして、新たしいウイスキー蒸溜所が、3年熟成を待たずしてあえて「ニューボーン」を繰り出すという手法。これ、実は、ほかならぬ日本のウイスキー蒸溜所が編み出したマーケティング手法なんです。
 
いったいどこが、その元祖? 日本のクラフトウイスキーの雄ともいうべき存在であるベンチャーウイスキーです。「イチローズモルト」というブランド名で知られていますね。
 
このベンチャーウイスキーは、まさにウイスキー逆風の時代で会った2004年に設立、その4年後の2008年にウイスキーづくりにようやく着手します。
 
創業社長は考えました。この厳しい状況下でウイスキーを作り始めたことで、ウイスキーファンの間で話題を呼ぶことはできた。しかしながら、ここから3年熟成を迎えるまでにはまだまだ時間がかかる。でも、自分の流儀に反して、3年熟成に満たない短期熟成ものを「ウイスキー」として飄々と発売するのは絶対に避けたい……。
 
そこで社長は決断したんです。消費者にわが蒸溜所のことを忘れ去られてしまわないように、「今、この段階で、ここまでおいしい状態になっていますよ、あと少しで3年熟成ものを出せますけれど、今後の熟成ぶりにぜひ期待してくださいね」というメッセージを送りたい。
 
そのために「ニューボーン」という呼称を考案し、それをラベルに大きく謳うことで、3年以上の熟成ものとは区別して売り出そう、と。
 
その狙いは見事にはまりました。愛好家たちはベンチャーウイスキーの存在を忘れることなく、しかも「ニューボーン」の味わいを通して、この蒸溜所にさらなる期待を寄せるに至ったのです。そして、2011年に、第一号の3年熟成ものを出したところ、即材に完売。
 
マーケティングとは、道を切り拓くための手段なのだなあ、と改めて感じ入ることのできるエピソードと思います。
 

第18話 2019年は「値段が高いもの」が売れる前のページ

第20話 日本にはきっと「愛南」がいくつもある次のページ

関連セミナー・商品

  1. 2023年《大ヒット商品の作り方》

    音声・映像

    2023年《大ヒット商品の作り方》

  2. 2022年《超トレンド予測》

    音声・映像

    2022年《超トレンド予測》

  3. 2020年《超!トレンド予測》

    音声・映像

    2020年《超!トレンド予測》

関連記事

  1. 第39話 なぜ売れたか、そこが大事かも

  2. 第60回 使い方を決めるのは消費者

  3. 第38話 日本のものづくりのお家芸は…

最新の経営コラム

  1. 楠木建が商売の原理原則を学んだ「全身商売人」ユニクロ柳井正氏

  2. 第10講 WILLとMUSTをCANに変える:配属に不満がある社員とどう関わるか

  3. 第147回『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. マネジメント

    交渉力を備えよ(7) 対決をかわし筋論で押す
  2. 新技術・商品

    第21話 スタバの新店舗に行ってみた
  3. マネジメント

    危機への対処術(29) 危機の時代の勇気ある議会人(斎藤隆夫 下)
  4. マネジメント

    第150回 『40歳の老人と、80歳の若者』
  5. 後継者

    第78回 21世紀は非営利の時代━有償ボランティア
keyboard_arrow_up