3月11日に、東日本大震災は10年の節目となります。
この3・11を前に、私は改めて東北のいまを知りたいと、私は思いました。こういうコロナ禍の
状況なので取材活動にも制約がありますが、先日、1カ所の取材先を訪れることができました。
それは、昨年12月に岩手の陸前高田にオープンした「CAMOCY(カモシー)」という新しい商業施設。
地元の手によって、地元の人のために作られた施設だといいます。今回はここで聞いてきた話を
みなさんと共有しましょう。
今回取材した「CAMOCY」は、津波に襲われるなかで流されず倒れなかった
「奇跡の一本松」からほど近いところに開業しています。
「CAMOCY」という名は、「醸し」からきているのですね。震災に遭うまで、この地区には
醤油や味噌などの醸造業が根付いていたからだそうです。社屋などが津波で流されてしまい、
各事業者は存続の危機に瀕しましたが、それでも復活を期して力を尽くしてきました。
「CAMOCY」は、この地区に、再び醸造業の匂いを、というのが目的のひとつだそう。
この「CAMOCY」は、地元の事業者たちが出資し合ったまちづくり会社が、
開業準備から運営までを担っています。建物は、蔵をイメージした木造平屋。
その面積は700㎡強と、そんなに大きな商業施設ではないのですが、発酵をテーマにした
テナントが隣り合うように並び、それぞれが魅力を湛えているのが印象的でした。
醤油や味噌を用いた和食を提供する食堂、発酵をテーマに据えた惣菜店、オーガニックカカオを
練り上げたチョコレート店(この施設内で製造しています)、クラフトビールの店(これもまた
醸造設備を店内にしつらえており、3月にビール第一号が完成予定)、すでに地元の客が列をなし
ているベーカリー、かなり充実している陣容。ぐるりと回遊するだけでも十二分に楽しめます。
驚いたのは、地元民がたくさんここを訪れていたこと。すでに陸前高田の新名所と
なっている印象を抱きました。
この「CAMOCY」が誕生する発端なのですが……。実は東日本大震災の前に
すでにあったと聞きます。震災からの復興だけが契機という話ではないのですね。
どういうことなのか。
2008年のリーマンショックのころに、地元の企業経営者が集まって、こんな話を交わしたそう。
「俺たち中小企業こそが諸悪の根源なんじゃないか」。かなりきつい表現とも思えますが、その意味は?
「地元の人たちが『ここで働きたい』と思えるような仕事をつくってこなかった俺たちの責任」
という話だそうです。そして、経営者仲間で2つのことを申し合わせたといいます。
「この陸前高田で1社もつぶすな」「1人も解雇するな」。
2008年以降、そうした思いを共有する地元経営者は徐々に増え、事業者の間でも連携も
実際に生まれ、新しい仕事づくりも目に見えて生まれていきました。
ところが……。3・11の津波ですべてが流されてしまいました。
ただし、経営者たちの熱意は、津波に飲み込まれたわけではなかった。
経営者たちは、2008年以来の合言葉を、震災の直後から、さらに大事にしました。
文字通り「1社もつぶすな」「1人も解雇するな」と口々に発したのです。
そして、地元の高校に対して、「求人数無制限」と伝えた地元企業経営者も相次いで現れました。
今回の商業施設には、やはり陸前高田に新しいビジネスを作り上げて、仕事したい人を受け入れる
という側面もあるのですね。
「CAMOCY」の開業までをリードしてきた地元経営者はこうも話します。
「震災での被害が大きかった陸前高田は、『かわいそうな街』というイメージで捉えられがち。
それを変えたかった。『俺たちの街は活力がある』というふうに」
ちなみにですが……。この「CAMOCY」、取り扱っている商品の値段は結構高いんです。
チョコレートなど、ひとつが1000円以上。また、チョコレートに限らずオーガニックのものばかりで
食品も惣菜も単価が立派なものが多い。
「でも、それを地元の人が普通に繰り返し買っていくんです」と店舗づくりを
リードしてきた経営者は教えてくれました。
富裕層がたくさんいる大都市圏ならいざ知らず、ごく小さな街で高単価なものを中心に取り揃えるなんて
マーケティングの常道に反する、という声も外部からは漏れ聞こえてきたらしい。
ところが、フタを開けてみたら、ちゃんと地元客がついてきている。
「いいものを欲しい人は、どこにでもいるんです。今までそういう店がこの小さな町に
存在していなかっただけ」とのこと。
この「CAMOCY」は、震災復興の象徴でもあり、地域の中小企業のなすべき道の指針でもあり、
また、地域における商業施設のありようを教えてくれる存在でもあると感じました。