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第18話 2019年は「値段が高いもの」が売れる

北村森の「今月のヒット商品」

2019年が幕を開けました。今年は消費増税が控えていることから、「値段が手頃で、まあそこそこ満足出来るような格安商品が売れるのか」と考えている方も少なくないと思いますが、私の見立て、実は正反対なんです。
 
その理由は後からお伝えするとして、例えばこんな商品、おそらく2019年には注目を集めると思いますよ。
 
mori18_1.jpg
 
上の画像は、海外で販売されている商品群です。これって何か。「乳児用液体ミルク」なんです。
 
赤ちゃんに飲ませるミルクといえば、粉ミルクを想像しますよね。お湯を沸かして、粉を正確に計って、溶かしたら哺乳瓶の外から流水をかけて適温まで冷やして……。時間にして最低でも5分、いや手慣れたママでも7分ほどかかってしまうのではないでしょうか。
 
それに対して液体ミルクは、文字どおり「液体」です。普段は常温で保存することができ、赤ちゃんに飲ませるタイミングで容器から哺乳瓶に移せば、そのままで大丈夫です。かかる時間はわずか5秒ほどで済んでいます。
 
育児に携わった方であれば簡単に想像していただけると思うのですが、外出時に赤ちゃんに授乳するのって本当に手間です。さらに言うと、疲れ果てている深夜の時間帯もそう。
 
でも、乳児用液体ミルクって、ほとんどの方が見たことも使ったこともないでしょう。というのは、厚生労働省が国内での製造販売をこれまで認めてこなかったからなんです。
 
それが昨年、省令改定により、製造販売への道が拓けました。その狙いは2つあるようです。1つは災害時に役立ててもらえるようにすること。水はもちろん、お湯を沸かす手立てもない状況でも赤ちゃんは待ったなしですから。もう1つは父親の育児参加であるといわれています。子育てのなかでも授乳に関しては父親の参加率が低いとされており、使い方がごくごく簡単な乳児用液体ミルクの登場によって、その課題を解消したいという話なわけです。これでもう「粉ミルクの調合や、適切な温度がちっともわからないから」というパパの言い訳は通じなくなる、という話ですね。
 
mori18_2.jpg
 
で、国内で真っ先に手を挙げた企業が、江崎グリコでした。同社は今春にも乳児用液体ミルクの発売にこぎつけたいとしています。
 
私、とてもいいことだと思いますよ。時間や手間を軽減してくれる商品というのは、ある一定の消費者にとっては切実に求めたくなるものですから。これで、深夜の授乳の大変さから少しでも解き放たれる部分があるのなら、ありがたいことじゃないですか。
 
ここまでお伝えしてきたら、読者の方のなかには、気になる部分が生まれているかもしれませんね。そうです。肝心の値段はどうなの?という話。
 
江崎グリコは発売時の価格を現時点で発表していませんが、海外での販売価格を見てみると、おおよそのところで、粉ミルクの2〜3倍というところです。
 
おそらく、江崎グリコによる国内第1号商品も、同じ水準、つまり、粉ミルクの2倍以上という値段をつけてくるのではないか、と私は予想しています。
 
そんな値の張る商品、消費増税となりそうな今年以降、本当に売れるのか。
 
私は売れると思っています。その理由は……。
 
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消費増税によって家計の負担が増すと、人はどうなるか。ただ単純に「とにかく安いものだけを狙って購入する」という話ではないのですね。前回の増税時、2014年もまさにそうでした。低価格路線の商品(ファストフード、ファストファッション、低価格居酒屋など)を扱う大手企業の一部は、むしろ売り上げ、利益を落としていました。不思議でしょう。
 
そして意外や売れたのは、1台2万円台半ばもする高級トースター、あるいは1本3000円以上もする高級トマトジュースだったりしました。いったい、なぜ?
 
人は財布の中身が厳しくなったら、「高いものを避ける」とは限らず、むしろ「どうでもいいものを避ける」傾向にあります。言い換えれば、「少ないお金を、いかに生きたお金として活用するか」に、意識が向かうと言っていい。お金の使い方が、より丁寧になるのですね。
 
先に触れた乳児用液体ミルクは、育児で苦心する親御さんにとっては、たとえ粉ミルクよりはるかに高くても、購入して使うことを通して「お金を生かした」と実感できる商品のひとつと思います。
 
さらに言えば、そのように「生き金を使った」と消費者に感じさせる商品こそが、増税時代に立ち向かえるだけの強い商品であると、私は確信しています。
 
「値段が高くても売れる」というのは、ここ数年、地方発ヒット商品における共通のキーワードですが、それは増税時代にもますます当てはまるものとなりそうです。
 

第17話 「カードケータイ」が示す、ニッチ商品開発のカギ前のページ

第19話 道を切り拓くマーケティング術次のページ

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