評価制度の運用上の納得性を高めるには、必要な5つの決めごと(基本原則)があります。これは、責任等級制賃金・人事制度の下で、仕事力を正しく評価するうえで必ずや押さえておいてほしい評価の基礎をなす部分です。評価制度の運用面では、その会社に特有の個性が出るものですが、そのような違いがあってもこの「基本原則」さえ押さえていけば、社員の納得感を得ることができるのです。ではその基本原則とはどんなことでしょうか?
1.評価の対象は 仕事の成績〔成果・プロセス〕に限定する
評価の対象は、確認できる仕事力です。積極性や協調性、責任感など、漠然とした保有能力を直接の評価対象としてはいけません。あくまでも、業務上に発揮された能力、すなわち「仕事の成績(成果・プロセス)」を評価対象とすることが大切です。
よく 仕事の成績というと業績指標としての「成果」だけに注目が集まりがちですが、評価実務における「成果」とは社員が仕事を通して会社に提供するすべての価値を指し、日々の仕事への取り組み全体を評価対象としなければなりません。それは収益責任を担う管理職であっても同じです。職場マネジメントの品質が問われ、業績目標の達成過程(プロセス)や人材育成への取り組みも評価されるからこそ、来期の組織力向上に繋げることができるのです。
2.評価する対象社員は同じ等級の社員同士に限定して相対評価する
職制上の責任の重さが同じ、同一等級の社員同士に限定して相対評価を実施します。もし、その等級に期待される責任という視点を持たずに評価をすれば、上位等級者ほど良い成績を上げやすくなり、公平な評価とはなり得ません。評価は、責任レベルの同じ者同士で競わせるのが基本です。
3.評価対象期間を過去6ヶ月間に限定する
非常に高額な商取引を成功させた場合や、反対に多額の売掛債権が不良債権化した場合など、一度でも印象に残る大きな出来事が生じると、そのことがいつまでもその社員の評価結果に影響を与えることがあります。ひとたび「優秀社員」「ダメ社員」とレッテルを貼ってしまうと、部下の評価は固定化してしまいます。
「発揮能力は常に変動するもの」ですから、それを踏まえて、6ヶ月間ごとにまったく新たな気持ちで評価することが必要です。評価者の中には比較的最近起こった出来事に影響され、直近の心証が大きく影響する人がいるかもしれませんが、評価者(=管理職)の責務として、会社から預かっている部下の現状(仕事の成績、実力)を見きわめ、経営者に報告するという重大な責任を負っていることを忘れてはいけません。
評価は6ヶ月間の現場における日々の指導育成の総括(日々の評価の棚卸し)でもあります。評価者となる管理職の方は、日頃からそのつもりで部下指導に臨んでいただきたいと思います。
4.評価者は 直属の上司ただ一人に限定する
評価者の仕事は、部下の仕事の成績に関して、予め定められた評価要素や着眼点に照らして、自らの責任と判断に基づいて評点を付けることです。この作業ができるのは部下本人に直接の指示・命令を与え、その遂行課程を確認し、結果について報告を受けるべき立場にある者、すなわち直属上司ただ一人に限定されます。つまり、被評価者をいちばん近くでいつも見ている直属上司だけが、最も客観的で正しい評価を下すことができるということです。
他の課の課長や同僚なども含めて評価を行なう360度評価や多面評価は、本来、個々の社員の職務適性や基礎能力を判定する場合にのみに限定されるやり方です。仕事の成績(プロセスと成果)に関しては、被評価者に対する指示命令権限を持っている直属上司にしか、その仕事ぶりの善し悪しを判断することができないのは言うまでもありません。
なお、評価者誤差を解消するためには、評価者の上長を二次評価者として評価権限を与えるのではなく、あくまでも調整者として評価システムに参加させることになります。
5.評価調整は、部下の順位と相対的な点数のバランスに限定する
評価者が持っている甘辛・集中分散といった評価誤差や評価者特有のクセは、いくら評価者訓練のような機会を設けても完全に是正できることはありません。
しかし、その評価グループ内に限って言えば、評価者が付けた点数の序列と相対的な点数間隔は、信頼性が高いものと考えられます。数値で表された点数の大きさは、部門・部署を超えてまで重要な意味を持ちえませんが、直属上司がつけた順位と相対的な点数のバランスは、調整作業終了後に評語(SABCD)決定を終えるまで、十分に尊重されなければなりません。
能力・適性に対する到達度評価を目的とする人事考課では、二次評価や三次評価によって評価の客観性を高めることとなり、上位の評価者にはより強い評価権限が与えられます。これに対し、成績評価制度では評価者(課長)の上長(部長)は調整作業に徹し、評価グループ内の順位や相対的な点数バランスを勝手に変えることはできないものとされています。このルールがあればこそ、評価の納得性を保つことができるのです。
以上の5つの限定事項を守って評価実務を進めていくことが、納得性ある評価実現に向けての近道です。直属上司が評価をつけたら、間接上司が調整者として部門間格差と評価誤差を調整し、等級ごとにまとめて順位を決めます。同じ等級内でも成績は正規分布を描きますから、これを一定の比率で区切り、人事担当責任者においてSABCDの評語案を決定するという流れになります。