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人事・労務

第49話 統計データと自社水準とを比較する際に注意すべきこと

賃金決定の定石

 自社の賃金水準が世間並みより高いのか低いのかについては、なかなか実感としては掴みにくいものかもしれません。

 社長としては、世間並み以上に賃上げしてきたつもりであっても、業績が思わしくないなどの理由で何年かにわたって昇給を抑制したり、中途採用者の給与水準を以前より低めに設定したりするなどしているうちに、いつしか県内の同規模同業種の企業に比べて給与水準が低くなってしまったという企業もあります。

 定期的に厚生労働省「賃金構造基本統計調査」や連合、経団連等の団体の統計、民間調査機関等の調査資料を参考にして、自社の給与水準を確認している会社はぜひ継続していただきたいものです。

 ただ気を付けたいのは、経営分析や財務分析に統計データを活用する際、数字のマジックやワナにはまることがあるということ。特に人事労務関係の統計は、そうした勘違いが起こりやすいものだと言えそうです、今回はデータ分析の注意点を取り上げましょう。

 

平均値について

 私たちは、「平均」と聞くとそれが標準だと思いがちです。しかし、例えばテストの平均点が50点という場合、次のような様々なパターンが考えられます。

 1.Aさん45点、Bさん50点、Cさん50点、Dさん55点
 2.Aさん20点、Bさん30点、Cさん50点、Dさん100点
 3.Aさん 0点、Bさん60点、Cさん70点、Dさん70点


 3番目のような分布状況であっても、50点が標準であり普通といえるでしょうか?

 賃金人事関係や労務管理の分野では、厚生労働省や東京都のような調査資料を除き、十分な調査数がそろわないことが多いものです。民間調査機関のアンケートで、回収率が低くサンプル数が少ないものだと、データのバラつきも自ずと大きくなります。前出の厚生労働省の統計でも、都道府県別、業種別、規模別と条件を絞り込んでいくと、年度による数値の偏りが大きく出ることがあるものです。そしてバラツキの大きさは、平均値への誤解を生みだしやすくします。

 また、平均値が必ずしも中央値や最頻値というわけではないことにも注意が必要です。

 世帯当たりの金融資産を例にお話しましょう。いま一世帯(2人以上世帯)あたりの金融資産の平均は1,758万円とのことですが、中央値は715万円にすぎません。仮に全数が999世帯だとすれば、中央値である500世帯目が持っている金融資産が715万円です。少数派のお金持ちが全体平均を釣り上げている状況が認められますから、平均値が標準的とはいえないでしょう。

 給与水準の統計についても同様のことがいえますので、統計を見る際は注意して確認するようにしてください。

 

達成率・増減率などパーセンテージで表されるもの

 成果目標を設定するときに、よく到達目標として前期比120%のように数値基準を設定します。また達成率など、数値目標の達成率を図る場合においてもパーセンテージで表します。

 達成度を判定するとき、1億円の目標に対し実績1億2千万円なら120%達成ですね。これが、1000万円の目標に対して1200万円を売り上げたときの達成率も120%です。

 到達目標の絶対値や絶対額、目標の難易度を加味して判断しないと、見た目の達成度だけでは真の貢献度は図れないことが分かります。



 同様のことは、昨今の賃上げ報道についても当てはまります。平均所定内賃金32万円の大会社が4.0%賃上げすると平均12,800円の上昇となります。一方で、平均所定内賃金が25万円の中小企業が同様に4.0%の賃上げをしたとすると平均10,000円上昇します。

 中小企業で平均10,000円の賃上げでしたら、かなりしっかりした水準ではあるのですが、賃金水準の低い中小企業が大企業並みの賃上げ率を続けていたとしても、このままでは水準自体の格差が縮まることはありません。

 企業業績が良好で、大企業との格差を縮めたいのであれば、大企業並みの賃上げ率で満足することなく、賃上げ額の水準そのものを意識しなければなりません。

 パーセンテージのマジックには注意が必要です。

 

データは比較できるもの同士で比較を

 所定労働時間に対して支払われる「所定内賃金」と、定額残業手当等を含めた「決まって支給される現金給与」は性格の異なるものですから、混同して比較することのないようにしなければいけません。

 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、「決まって支給する現金給与」と「所定内給与」を分けて表示していますので、定額残業手当を付けている会社であれば、「決まって支給する現金給与」同士、そして「所定内給与」同士で比較して、自社水準を確認するのが良いでしょう。

 また、新規学卒者への採用初任給は所定内賃金で比較されるべきものです。

 それにもかかわらず、固定残業代を含めた月額賃金を提示して、自社の採用初任給(手取り額)の高さをアピールしている会社を時々見受けます。統計上の定義や要件が違うもの同士を比較して賃金水準を高く見せようとすることは、本来は意味のないことです。

 かえって、所定外労働をカバーする定額残業手当をも含めて、所定内賃金と錯覚するような提示をしていたと判断されれば、会社の信頼低下につながるかもしれませんし、次年度以降の採用に悪い影響がでるかもしれません。

 世間相場との比較は、比較可能なデータ同士で行うようにしてください。

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