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中国史に学ぶ(15) 「信賞必罰」が効果をもたらす秘決

指導者たる者かくあるべし

 中国の戦国時代に書かれた『韓非子』には、君子(指導者)が実践すべき七つの行動原理(七術)の二つとして、信賞と必罰を挙げている。

 「何を今さら」「当たり前だろう」と思われるかもしれないが、なかなか守り難いから、著者の思想家・韓非はあえて強調している。まずは必罰である。

 〈法を犯した者は必ず罰して、威光を示すこと〉

 「愛情が多すぎると、法は成り立たず、威光を働かせないと、下の者が上の者を侵す。刑罰を厳しくしなければ、禁令は行きわたらない」として、わかりやすい例を挙げて解説している。

 〈麗水という川には砂金がでる。私的な採金は法で禁じられ、捕まれば磔(はりつけ)にされるが、金を採る者はあとを絶たず、処刑された死体で川がせき止められるほどになった。これはうまくすれば捕まらず、一攫千金も夢ではないからだ。たとえば、「お前に天下をやる。そのかわり命はもらう」と言われたとする。必ず殺されるとわかっていれば、天下をもらおうと名乗り出るものはいない〉

 必罰の威光が行き届いているかどうかが、大事だ。見逃しの例外と抜け道をつくってはならない。

 続いて「信賞」である。

 〈功労者には必ず賞をあたえ、全能力を発揮させること。賞が薄く、かつあてにならないならば、臣下は働こうとしない、賞が厚く、かつ確実に行われるならば、臣下は死をもいとわない〉

 その例としてこういう。

 〈魏の武候の武将に、孫子と並び称される兵法家の呉起(ごき)がいた。呉起は、西河地方の守りを任されて、国境近くにある敵の砦を取り除こうと考えた。地元の農民を動員するために、北門の外に一本のかじ棒を置いて、こんな布告を出した。

 「この棒を南門まで運んだ者には、上等の土地と屋敷をとらせる」。布告を信じかねてだれも動かない。やっと運ぶものが現れたので、約束通りの土地と屋敷を与えた。

 呉起は続いて、東門の外に赤豆一石を置いてまた布告を出す。

 「豆を西門まで運んだ者には、前回と同じほうびをとらせる」。すると農民たちは先を争って運んだ。

 そこでいよいよ肝心の布告を出した。「明日、砦を攻めるが、一番乗りしたものには、上等の土地・屋敷のほかに大夫の地位をあたえよう」。臆病な農民たちも、先を争って砦に殺到し、たちまちこれを占領した〉

 労が必ず報いられると信じられれば、動かぬ社員などいないのである。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献

『中国の思想1 韓非子』西野広祥・市川宏訳 徳間書店
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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