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経済・株式・資産

第55回 海外市場の拡大で第2成長期入り「アリアケジャパン」

深読み企業分析

アリアケジャパンは天然調味料メーカーのトップ企業である。天然調味料とは豚や鶏の骨を煮出して、エキスを抽出するものである。煮出す温度や時間によってさまざまな組成のエキスが得られるが、それらを組み合わせて求める味を作り出すものである。
 
一見すると誰でもできそうであるが、煮出した後の骨の処理を自動化するのが難しいため、かつて自動化は極めて困難なものであった。同社ではその自動化を40年ほど前に成し遂げたとことによって、日本でも別格の存在となっている。大半の大手外食産業、大手加工食品メーカー、大手中食などが同社原料を使用している。それゆえ、食品会社でありながら売上高営業利益率が20%を上回るほど高収益である。
 
しかもそのすごさゆえ高成長を遂げ、1986年から2003年までの17年間の年平均営業利益成長率は15.3%に達している。しかし、逆にそれほどまでのすごさゆえ2000年代初旬までには使うべきところの多くが使ってしまい、その後数年間停滞期を迎えることになる。
 
 
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それに対して同社では2000年前後から予測された成長鈍化に先手を打って、海外での展開に注力したが、海外の立ち上げに想定以上に時間を要したこともあって、リーマンショック時に業績は大きく落ち込むことになった。しかし、ここ数年国内の回復に加え、海外の本格寄与が始まり再びかつての勢いを取り戻し、過去最高益を大幅に更新している。今や経常利益は100億円を超え、大企業の仲間入りを果たした。
 
国内はかつて同様、圧倒的な競争力を背景に、着実に守備範囲を広げて成長している。海外に関しては特にアジアと米国で大きく事業を伸ばしてきた。アジアにおいては日本から進出した企業の採用を糸口に現地企業にも採用の輪が広がって急速に売上、利益を伸ばしている。
 
一方、このところ急拡大を始めたのが米国市場である。米国では最初から現地企業を相手にして市場を開拓してきた。米国における現在の売上の60%がオーガニックのチキンブイヨンであり、スーパーで販売される商品向けである。米国では健康志向が顕著であり、ABF(抗生物質を含まないエサで育てた)チキンから作ったブイヨンのニーズは極めて高い。同社によればそもそもメーカーがないということで、かなり独占的な色合いが濃いと思われる。
 
同社に対する理解度が低いと、競争相手のことが思い浮かぶことであろうが、むしろこの市場を同社が作ったということであろう。ではなぜそんな市場が作れるのか?それは同社がこの数十年間で高度化させた、全自動の生産設備によって圧倒的にローコストでブイヨンを生産できるためである。
 
おそらく、ABFのチキンの骨自体が通常のチキンの骨より入手が難しく高価であり、通常の生産方法で製造すると一般的なブイヨンよりかなり高くなってしまうのではないかと考えられる。しかし、同社のローコスト製造法であれば、多少の価格差はあったとしても、一般的なブイヨンと大差ない価格で販売できるものと考えられる。よって、飛ぶように売れるということになっているのである。これは我が国における同社の圧倒的な競争力と同社のコストゆえに生まれた市場が多いことを考えれば納得できよう。
 
その結果海外の利益貢献度が急速に高まり、2013年3月期の営業利益に占める海外の構成比はゼロであったが、2017年3月期には27%に達し、2018年3月上期には30%を超えてきた。今まさに海外展開をテコに、いよいよ同社は第2成長期に入ったということができよう。
 
有賀の眼
 
いわば同社のコア技術は、本コラムの冒頭で述べたように、自動化によってエキスを極めてローコストで抽出する技術ということである。もちろん、安く作った商品を安く売るだけでは今の同社はなかったものと思われる。
 
同社ではローコスト製造技術を極めることで、さらに上を目指し、ハイレベルな商品をリーゾナブルかつ圧倒的な競争力のある価格で提供するところまで高めたということである。それによって新たな市場を築き上げたのである。最初は単にローコスト製造技術に過ぎなかったかもしれないが、その強みを徹底的に磨くことによって、その強さを揺るぎないものにして、国内だけではなく、グローバルに通用するものに仕立てたということである。
 
同社を見ていると、常に強みを徹底して磨くことの凄味を実感させられるのである。

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