ニトリホールディングスの2022年2月期決算は13.2%増収、0.4%営業増益となり、営業利益は1,383億円となった。増収率が高いのは島忠を子会社としたためで、営業利益はかろうじて増益を達成するにとどまった。しかし、前期までで35期連続の増収、増益であり、同社によればウォルマートと並んで世界最長の連続の増収増益ということである。前期決算はギリギリの増益にとどまったが、コロナによって売上が大きく増えた2021年2月期決算の営業利益が28.1%増となった反動もある。しかも輸入企業の同社にとっては円安も大きなマイナスであったが、それでも増益を達成したことは改めて同社の底力を思い知らせるものとなった。
もはや同社を家具屋と思っている人も少ないと思われる。実際、今や家具のウエイトは30%台に過ぎない。カーテン、軽家電、バス用品、台所用品などの家庭周り商品は当然として、化粧品や婦人服まで手掛け、まさに昔で言えば百貨店のような存在となりつつある。さらに、前期には島忠も子会社化してホームセンター関連まで手中に収めている。
その同社が標榜しているのが「製造物流IT小売業」である。かつて、1987年に米GAPが自らを「製造小売業(SPA)」と宣言したことがあった。ちょうどその頃第1号店を開店したのがユニクロであり、同じころ社名をニトリとした同社と並んで日本でも製造小売業の時代が始まった。そしてまさにこの2社こそ日本の製造小売業の牽引車であったと言って過言ではなかろう。
その両者がこのところ言い始めたのは、ユニクロが「情報製造小売業」であり、ニトリが「製造物流IT小売業」である。ほぼ言っている内容は同じと考えて差し支えなかろう。このポイントはもちろん、「情報」であり「IT」である。もはや、今の時代はどんな業界であろうともITの力なしでは成り立たない時代となっている。
そして、その象徴的な出来事が、この4月1日にニトリが立ち上げた子会社「ニトリデジタルベース」である。最近のニトリの成長にとって欠かせないものはデジタル技術の進化である。製造は当然として、物流、販売、そして管理まで今やデジタル技術は不可欠である。最近でこそDX(デジタルトランスフォーメーション)化が流行語にもなっているが、すでにニトリは10年以上前から自社でシステムを開発する力をつけ、同社成長の骨格を成すものがまさにこのDXだったのである。
そして、今、満を持して、ニトリデジタルベースの立ち上げを行った。この設立の第一の目的は、ITエンジニアの採用強化である。今やITエンジニアは人材の奪い合いとなっており、好待遇なニトリの賃金体系でも採用がままならない状況のようである。これまでニトリでは同社の要求するシステム開発のレベルが高く、外部に依頼してもできないため、自前でエンジニアを雇い、自社のシステムを自社開発してきた。そのため、採用以前に、むしろ同社のエンジニアが引き抜かれる事態となっているようである。
そのため、別会社にして賃金体系を本体とは別建てとし、能力に見合った賃金を支給するものである。さらに、服装も自由で、Gパン、TシャツもOK、リモートワークもOKというように社風自体もニトリとは別組織とする意向である。そこからさらにニトリらしさを感じるのは、ニトリのシステムはまさに物流製造IT小売業の分野では最先端を自負しており、将来的にはシステムの外販まで行うことを視野に入れていることである。
そのため、将来的にはニトリデジタルベースの社員数も500名、1,000名規模を念頭に置いているとのことである。すでに人材募集も本格的に開始しており、「プロダクトマネージャー、「DXプロジェクトマネージャー」、「モバイルアプリエンジニア」など9職種で人材を募集している。
有賀の眼
同社は創業来、既存の流通の仕組みを壊し、より効率的な仕組みを構築し、そして住関連製品の価格破壊を行い、さらにその仕組みを周辺領域に展開して、幅広い分野において着実にその存在感を高めてきた。そして今、さらにそこから同社のビジネスモデルの根底にあるIT技術自体も商売に結び付けようとしている。また、一歩、既成概念を壊すことで、飛躍のきっかけを手に入れようとしているという点で、当面、同社のIT分野での勢力拡大から目を離せない状況になってきたと言えよう。
■有賀泰夫(ありがやすお)氏
1982年から約40年間にわたり、アナリスト業務に従事し、クレディ・リヨネ証券、UFJキャピタルマーケッツ証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券…等で活躍。主に食品、卸売業、バイオ、飲料、流通部門を得意とし市場構造やビジネスモデル、企業風土等に基づく分析と、キャッシュギャップを重視した銘柄分析、売上月次データから導き出す株価10倍銘柄発掘の手法に定評がある。日経アナリストランキングにて常にトップグループをキープする実力派としての活躍し、09年独立。小売業、IT企業にカバー分野を拡げ、機関投資家や個人資産家向けに、独自の分析情報を提供。著書に「日本の問屋は永遠なり」(大竹愼一氏との共著)、講話シリーズに9年に渡り的中率90%を誇る「株式市場の行方と有望企業」シリーズと株式投資の考え方とやり方をテーマ別に解説する「お金の授業 株式投資と企業分析」シリーズがある。