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経済・株式・資産

第93回「食べ放題業態を高収益化した逆転の発想」物語コーポレーション

深読み企業分析

■有賀泰夫(ありがやすお)氏
1982年から約40年間にわたり、アナリスト業務に従事し、クレディ・リヨネ証券、UFJキャピタルマーケッツ証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券…等で活躍。主に食品、卸売業、バイオ、飲料、流通部門を得意とし市場構造やビジネスモデル、企業風土等に基づく分析と、キャッシュギャップを重視した銘柄分析、売上月次データから導き出す株価10倍銘柄発掘の手法に定評がある。日経アナリストランキングにて常にトップグループをキープする実力派としての活躍し、09年独立。小売業、IT企業にカバー分野を拡げ、機関投資家や個人資産家向けに、独自の分析情報を提供。著書に「日本の問屋は永遠なり」(大竹愼一氏との共著)、講話シリーズに8年に渡り的中率90%を誇る「株式市場の行方と有望企業」シリーズと株式投資の考え方とやり方をテーマ別に解説する「お金の授業 株式投資と企業分析」シリーズがある。



物語コーポレーションは好不調の波の大きな外食産業にあって、この十数年間、コンスタントに高成長を遂げてきた会社である。図に同社のこの15期間の売上高及び経常利益の推移を示す。直近はコロナの影響を受けているため、2006年6月期から2019年6月期までの年平均成長率を計算すると、売上高で16.6%、経常利益で21.0%と極めて高い成長を遂げてきたことがわかる。
 
しかも、このコロナ下においても、2020年6月期は大幅に業績が悪化したものの、2021年6月期決算はV字回復し、利益面でも2019年6月期の過去最高益に肉薄する水準まで戻る見込みとなっている。
 
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同社が外食産業でありながら、好不調の波が小さく、コンスタントに成長できている要因の一つは、複数業態の運営を行っていることである。全社売上の52%を占めるのは主要業態である焼肉だが、第2位の業態のしゃぶしゃぶと寿司の食べ放題のゆず庵が18%、第3位の業態であるラーメンが15%と主要3業態で85%を占める。

もちろん、多業態で運営していることだけで経営が安定するわけではない。個々の業態ごとに常にブラッシュアップを行いながら、収益性の向上策を導入し続けていることが、より大きな要因となっている。特に過去において様々な企業が挑戦したが、なかなか高収益を達成することができなかった食べ放題業態の高収益化に成功したことが最大のポイントであろう。
 
主要業態では焼肉きんぐとゆず庵が食べ放題店であるが、ここでは焼肉きんぐを中心に食べ放題業態の収益化のコツを見ることにしよう。
 
焼肉食べ放題の業態は、特に牛肉自由化が進んだ1990年代からしばしば注目される業態となっている。ただし、過去の焼肉食べ放題のパターンから言えば、安い肉を使って、コスト抑制のため手間をかけずにバイキング方式とし、店づくりもシンプルにするというものであった。新規店舗の出現当初は、話題性につられて様々な年齢層、嗜好の人が訪れる繁盛店となることもあった。しかし、時間が経過すると、やがて一般的な人ではなく、食べる量に自信のある若者や学生中心の顧客層となってくる。その結果、いくら客が増えても儲からない店となってしまう。
 
それに対して同社の取った戦略は、まずは安い肉ではなく、高級というわけではないが、通常の価格で出すような上等な肉を用いたことである。当然、それだけで単純に儲かるほど甘くはない。そこで、まずは品数を豊富にして、様々な食品を食べられるようにしたことがある。
 
牛肉だけではなく、鶏肉、豚肉、魚介類、サラダ、その他副菜(フライドポテトやから揚げ、たこ焼きなど)、デザート、そしてご飯ものなども注文できる。中間の価格帯である2,980円(税抜き)のコースで品目数は100品目となっている。顧客からすれば、牛肉が目的ではあるが、それ以外に選択肢があれば飽きがこないのでお得感を感じられるものである。一方、会社側からすれば、牛肉が最も高価であり、いかに牛肉以外の食材でお腹を満たしてもらうかが狙いであるので、まずはこれによって顧客に損を感じさせずにローコスト化を図れたわけである。
 
また、それまでの食べ放題は、人件費の抑制のためにバイキング方式が主流であったが、同社ではテーブルオーダー方式とした。その代わりに現在では一般的になっているが、注文はタブレットによって顧客が行うことで、オーダーのための時間をカットした。そして、注文から配膳までの時間を極力短くすることで、顧客が不満を感じないようにしている。一般的に食べ放題店は時間制限を設けており、その場合、顧客不満足の代表がオーダーから配膳までの時間ロスである。
 
さらに、バイキング方式では顧客はどうしても一品ごとに多くとりがちで、結果的には食べ残しが増えてしまう。しかし、テーブルオーダーとして、しかも1人前の量が実はかなり少ない。しかし、食べ放題であるので、食べたい人は注文数量を増やせばいいので、不満を感じることはない。しかも、最後にもうひと踏ん張りして食べたいときに少量を頼めるということは、頼む方の心理的負担も少なく、加えて食べ残しは確実に減る。
 
料金体系にも工夫がある。料金は食べ放題のコースが、2,680円、2,980円、3,980円とある。そして、幼稚園児以下は無料、小学生は半額、60歳以上が500円引きとなっている。この辺りもかなり工夫されており、幼稚園児、小学生、父母、祖父母というような大ファミリーでの来店を考えると、子供料金と老人料金が低く一見お得そうに見える。しかも焼き肉は子供が大喜びである。このようなファミリー層を顧客にしたことが最大の勝因であろう。60歳以上でも自分だけで食べ放題に入る場合には、それなりに量を食べる覚悟で行くものである。そもそも60最大で食べ放題店に行こうという顧客自体が少ないだろう。しかし、子供たちの満足感のために連れて行く場合は、結果的に本人はそれほど無理をして食べることはないものである。
 
このようにして、焼肉きんぐを焼肉業界の圧倒的トップブランドとしたわけであるが、それ以降も、毎期毎期の業態ブラッシュアップの手を抜くことはない。直近の新メニューとしては中心価格帯である2,980円以上のコースで注文できる新4大名物をこの3月から投入している。
 
新4大名物としては、牛一頭から500gしか取れない希少部位を使用した「きんぐカルビ」他、壺漬け一本ハラミ、花咲上ロース、炙りすき焼カルビの4品がある。また、2021年2月からは配膳・運搬ロボットを導入し、コロナ下でより一層の安心感を届けている。3月末において焼肉きんぐでは242店舗に307台、ゆず庵では68店舗に136台の導入が進んでいる。ただし、これは単に人件費削減ということではない。
 
同社では焼肉をとことんおいしく食べてもらうための工夫として、焼肉ポリスとして、顧客に肉のおいしい焼き方を伝授するサービス係を置いている。そこで、ロボット導入で浮いた人手は焼肉ポリスに当てている。
 
以上のような様々な施策を通じて、食べ放題を成長する、収益性の高い業態として変貌させることに成功したのである。
 
 
有賀の眼
 
このように見てくると、同社の工夫は単に外食の専門業としての料理の工夫や流行の見極めを超越し、人間心理や社会構成などまで含めて幅広い観点から儲かる業態を作り上げていることがわかり、つくづく感心させられるところである。
 
そして、このような経営を可能としているのが、まさに同社の創業来の企業風土、文化であると考えられる。しばしば、有能な創業者やその跡を継いだ優秀な経営者のアイディアで高成長している企業を見かけることは多い。しかし、同社では特定の誰かが考えるのではなく、企業風土や文化が、考える風土や文化に結び付いていると考えられる。これこそが、属人に依存しない同社の強さではないかと思われる。
 
同社の長期経営ビジョンを見ると「すべての従業員が経営理念を体現し、一人一人の明言が飛び交い、リーダーが育つ」、「ダイバーシティ&インクルージョンの推進により新たな価値を創造している」などがある。今年4月には新たに将来の幹部候補生である新卒社員が168名入社した。このうち、外国籍が7か国、25人にも及んでいる。いかに、多様で新しい価値観を取り入れる会社かはこの一事でも十分理解できる。
 
しかも、1年ほど前、さらに驚くべき人事があった。それは、新社長に就任した加藤氏は弱冠34歳であるということである。もちろん、上場企業でも同族系で30代で社長を引き継ぐことは少しも珍しくない。しかし、2009年にプロパーで入社した社員を社長にする会社にはついぞ巡り合ったことはない。こんなところにも同社の異質を心底感じるところである。

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