株式会社ティーケーピーの原点は、再開発のため取り壊しを待つだけのビルの一室を「もったいない」と感じて、低価格で借り受けて、創業者の河野氏が一人で貸会議室を始めたことに始まる。低価格で借りたことと、貸会議室の募集を当時はほとんど誰もやっていなかったネットで行ったことで、次々と予約が入ったため、そのビジネスに大きな成長性を感じたものであった。
このようにして創業した同社は、2005 年の創立以来、未活用のスペースの「再生」と「シェアリング」を軸にして価値創造を行ってきた企業である。まさに貸し会議室に対していち早くネットでの集客、予約を採用したことで、急成長をとげ、わずか10年強で貸し会議室業としてはほぼ並ぶ企業のない圧倒的なシェアを誇るようになった。
コロナ前の2019年2月期までの4期間でも売上高は142億円が355億円に、営業利益は9億円が43億円と急成長を遂げている。年平均成長率では、売上が25.9%、営業利益が48.7%と極めて高成長であった。さらに、2020年2月期には53.0%増収、営業利益は63億円、47.5%増益となっている。
もっとも、同社では2019年にレンタルオフィス・コワーキングスペースで世界展開するリージャスの日本ビジネスと台湾ビジネスを買収しており、それもあって売上高は急拡大している。ただし、のれん償却も考慮すると営業利益への貢献はほぼなく、営業利益の伸びは本体ベースの伸びであった。
しかし、その後、コロナ下において、貸し会議室の需要も一時急減した。この時期、社外取締役に就いていたリージャスグループを統括する IWG の CEO マーク・ディクソン氏が、ローバルなビジネス展開の視点から2021 年のワクチンに関する日本の対応の遅さを指摘したことで、職域接種に関して同社の河野社長は自らの案を首相、大臣など関係筋に働きかけ、貸会議室の活用だけでなく、ワクチン接種センターのオペレーションを計画した。そんなこともあって、何とかコロナの時期をやり過ごした。
同社ではビルの非稼働スペースを見つけては貸し会議室にしたわけであるが、これはビルだけに限らないし、単に空きスペースだけとも限らない。同社ではその一環として、ホテルや結婚式場などの未稼働時間の活用などにも目を付けた。
大都会のホテルであれば、平日はサラリーマン、休日は観光客で埋まるが、郊外では休日は観光客で埋まるものの、平日は空きが多い。そこで、休日は観光客を対象に集客して、平日は企業の研修に貸し出すというものである。このようにすれば無駄がなくなると考えたのである。同社の会議室で研修を行う企業に働きかけて、10回に1回は泊りがけで、さほど遠くない郊外で泊りがけの研修を働きかけるのである。そのような目的で、同社ではアパホテルのフランチャイズホテルを運営している。
また、結婚式場も土日は埋まっているが、平日はがらがらである。そこで、平日にはちょっと豪華な場所での研修を働きかけることで、空き時間が埋まるわけであり、収益性が急速に高まることになる。ホテルのホールなども同様に使える。
同社はこのようにして効率性を高めることで、世の中の空間の無駄を埋めることでビジネスを成立させている。
なお、同社では2019年に買収したリージャスに関しては、間にコロナが挟まったこともあり、リージャス社の新規出店に係る CAPEX(資本的支出)が、貸会議室事業と比較すると大きなものとなっていて、やや足かせとなったことから、早くも2022年には売却を決断している。
コロナ下に大きく落ち込んだ業績も現時点では急速に戻っている。しかし、同社はコロナ下こそ、むしろ投資のチャンスと考えた節もあり、積極的な投資を行ってきたことで、ここから先大きな飛躍を遂げる局面に入ってきたように感じる。
有賀の眼
同社が次々と打つ手はとにかく大胆で早い。これは同社創業者の河野氏の考えによるところが大きく、まさに、考えてから行動するのではなく、「走りながら考える」ということが体に染みついているのだろうと思う。
また、もう一点、非常に感心する点は、損切の早さである。これはおそらく「走りながら考える」こととセットなのであろうと思う。
これは同氏の回想にもあるが、学生時代はバイトをしながら、証券会社の店頭で株に打ち込んでいた時に身に着けたものだということ。この時に損切の大切さを学んだと述べている。もっとも、バイトで稼いだ月20-30万を株につぎ込んで、ほとんど株では負けてしまったということであるが。
まあ、その意味では株で儲からなかったからこそ、今のTKPがあるのかもしれないと思うと、ちょっと皮肉な感じもするのではあるが。