コロナ禍のよる業績悪化の状況を切り抜けるべく、多額のコロナ融資を受けて生き延びている、という企業が増えました。
そんななか銀行は、企業の自己資本比率を強化させようと、融資先に出資話しを持ち掛けています。しかし、うまい話しにはウラがあります。銀行にとってコロナ禍は、大きなチャンスなのです。
今年の5月12日、金融庁から改めて、銀行に通達が出されました。
緊急事態宣言の延長を踏まえて、事業者の資金繰りを支援せよ、というものです。
要は、コロナ禍の直撃を受けている業界の会社から、融資の要請があれば、安易にお断りするな、というものです。
そしてその通達の中には、“資本性劣後ローンを活用せよ”とあります。
上場大手の外食チェーンや旅行会社などが、“資本性劣後ローンにて資金調達”という記事をよく見かけますが、中小企業にもその手を差し伸べなさい、というものです。
資本性劣後ローンとは、銀行が融資するものの、資本金とみなし、返済もしばらく据え置きします、というものです。とはいえ要は、借金なのです。
活用せよ、との通達を金融庁から受ければ動き出すのが銀行です。
「銀行から出資の話しが来ているんです。」
という経営者の声を聞くようになりました。
「えっ?銀行がおたくの株を買うのですか?」
と思いきや、よくよく聞くと、資本性劣後ローンなのです。
銀行は融資先に対して
「自己資本を増強しませんか?」といった言葉で持ち掛けます。
多くの経営者はそう言われると単純に、出資をしてくれる、と勘違いしてしまうようなのです。
で、資料を見せてもらうと、
「出資と言っても、結局これは借入金ですよ。」
というケースがほとんどなのです。
しかも、その金利が5%~8%と、今どきで言えば超高金利がザラなのです。
あたかも出資配当金かのような金利設定なのです。
とはいえ銀行も、本当に倒産しかけている会社には、そのような話しを持ち掛けません。金融庁の通達通りには動くものの、極力、回収不能のリスクは抱えたくないのです。なので、資本増強など必要のない、財務がある程度安定している中小企業に、声をかけているのです。
資本性劣後ローンの特徴は、大きく次の3点です。
1)償還時に一括返済で毎月の返済がない
2)銀行評価で自己資本とみなされ、金融機関の評価に影響しない
3)破綻時の弁済順位が一番低い
お気づきの方もおられると思います。一括返済という点から、銀行引き受けの社債と似ているのです。私たちが
「銀行引き受けの社債だけはやめなさい!」
と常々申し上げている、あの社債です。
当然、手数料が高く、金利も高いのです。例えば商工中金の公表例を見ると、
10年後の償還で2.6%、
20年後の償還で2.95%、
いずれも最初の4年は0.5%、となっています。
市中銀行は公表していませんが、ほぼこの内容に準じるか、さらに高い金利なのです。銀行にすれば、長く貸して、その期間ずっと、高い金利を受け取れるのです。このカネ余りのご時世には、おいしすぎる話しです。しかも、資本増強など必要のない会社にまで劣後ローンを持ち掛け、倒産リスクの低い会社と契約し、甘い汁を吸おうとしているのです。
つまり、資本性劣後ローンといえど、銀行引き受けの社債とほぼ同じなのです。銀行が得するだけなのです。だから、安易に受け入れないでほしいのです。
銀行からの借金で資本性劣後ローンを発行するくらいなら、社内で少人数私募債を発行し、経営者自身が引き受ける形で、資本増強をしてほしいのです。
少人数私募債も、資本性劣後ローンのひとつとなる社債です。銀行評価では自己資本として評価されるのです。償還時の一括返済で構わないし、繰り返すことも可能です。
この少人数私募債を社内で発行し、経営者や身内の者が手元資金を投じて引き受ければよいのです。官公庁への届出など一切必要なく社内だけで手続きを完了できます。銀行から借りるよりもずっと健全です。銀行にしかメリットのない提案を受け入れるなら、まずは社内でできる方策を、考えてほしいのです。