書店に行くことの楽しみの1つは、現代の世相が視覚的に確認できること。
今、並んでいる本には時代が明確に反映されているので、
それだけでも行く価値があます。
近年、よく見かけるようになったのが「言語化」に関する書籍。
SNSが世界的に広がったことや、リモートワークが増えた結果、
感情や感覚をきちんと言葉にすることが、今までにないほど不可欠に。
たとえ長い時間を一緒に過ごす同僚同士であったにせよ、
「言わなくても通じる、わかってもらえる」
ということを期待するのは、もはや通じないといってもよいでしょう。
仕事においても、「習うより慣れよ」以上に、
まずは理屈で伝えることが標準になりつつある今、ぜひ読んでいただきたいのが、
今回紹介する一冊、
『熟達論』(著:為末大)
です。
著者の為末大氏は、400メートルハードルの第一人者として、
シドニー、アテネ、北京の3大会に出場。
スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得を達成するなど、
輝かしい実績の持ち主。
現役を退いて以降も尚、存在感を増していて、”走る哲学者”と呼ばれるほど!
身体感覚や人間心理の言語化に長けていることでも知られ、
陸上以外の分野でも活躍しています。
本書は、そんな為末氏の真骨頂が存分に発揮された一冊。
人間の成長を「遊・型・観・心・空」の五段階で捉え、
基礎の習得から無我の境地に至るまでを独自の視点で解読。
スポーツに限らず、あらゆるビジネスにも通じる
“極意”と呼んでも過言でないほどの傑作に仕上がっています。
印象に残った箇所をいくつか挙げると、
・問題がわかれば解決方法を見つけることは可能だ。
だが、その問題を見つけ出すこと自体が難しい。
トラブルや、うまくいっていない結果はわかっても、
その原因がどこにあるのかを見つけることは相当に困難だ。
私たちを取り囲む環境の要素はすべて関係している。
現代ではどの領域も詳細に分け、整理されているが、
概念上切り離したとしても、結局すべては繋がっている。
・人はどうやって学んでいるのだろうか。
なぜうまくなるのだろうか。
どうやって問題に「気づいて」いるのか。
学習していく中でその人の内側で何が起きているのか。
何がその人の成長を阻害するのか。そしてどうやって切り抜けるのか。
外から働きかけることでその人の成長を促すことはできるのか。
・一見関係のないものから学んで、活かせる人は構造が見えている。
表面は違っても奥にある構造には共通点がある。
構造の共通点が見えれば、抽象化し言葉にすることができる。
それは一つ上の抽象段階で構造を捉えることができるからだ。
…といった具合に、ビジネスに役立つ視点や発想の宝庫!
読めば読むほど、目付けの鋭さ、言語化の巧みさに唸らされます。
さらに成長したい人にはもちろん、壁にぶつかって伸び悩んでいる人、
部下の指導に苦悩している経営者やリーダーにとって、
この上なく重宝する一冊になるはず。
すぐさま読んでいただきたいイチオシの書です。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『J.S.BACH – PLUCKED/UNPLUCKED』
(演奏:エドゥアール・フェルレ&ヴィオレーヌ・コシャール)
『J.S.BACH – PLUCKED/UNPLUCKED』(演奏:エドゥアール・フェルレ&ヴィオレーヌ・コシャール)/amazonへ
です。
フランスのジャズピアニスト、エドゥアール・フェルレによる、バッハの音楽集。
“ピアノの哲学者”の異名をとる、その卓越した演奏と求道的なアプローチは、
聴く者の心を揺さぶります。
合わせてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。