■岩崎邦彦(いわさきくにひこ)氏
静岡県立大学教授/「小が大を超えるマーケティングの法則」著者
上智大学卒業後、国民金融公庫を経て東京都庁に転じ、労働経済局にて中小企業の経営支援、地域振興に携わる。静岡県立大学教授となった今も一貫して中小企業が活用できるマーケティングの実践手法を研究し、経営支援で東奔西走の日々を送る。主な著書に「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」、「小さな企業を強くするブランドづくりの教科書」(日本経済新聞出版社)他多数。
今、ビジネスの様々な分野で「モノからコトへ」という言葉をよく聞くようになりました。しかし、経営者に「あなたの分野で、具体的に“モノからコトへ”とは何ですか?」と質問すると、言葉に詰まってしまう人が多くいます。今回は、誰にも身近な「食」を題材に、このことを考えてみましょう。
ここで質問です。以下の記念日が、それぞれ、何月何日か、わかりますか?
「お米の日」「トマトの日」「マグロの日」。
おそらく、ほとんどの人が知らないのではないでしょうか。ちなみに、この原稿を書いている6月4日は「蒸しパンの日」です。日本は、食べるモノの記念日であふれています。
あなたは、お米の日に、普段よりお米を食べたくなるでしょうか。トマトの日に、トマトを食べたくなるでしょうか。実際に消費者に聞いてみると、ほとんどの人が「いいえ」と答えます。
では、次の日は知っていますか?
「母の日」「バレンタインデー」「土用の丑の日」
ほとんどの人が知っているだけでなく、何かしらの行動をおこした経験のある人も多いはずです。
もし、「母の日」が「カーネーションの日」だったとしたら、今のように普及したでしょうか。「バレンタインデー」なく「チョコレートの日」だったら、「土用の丑の日」でなく「ウナギの日」だったらどうでしょうか。おそらく、普及しなかったはずです。
「母の日= 母への感謝の気持ち」、「バレンタインデー= 愛情」、「土用の丑の日= 暑い時期を乗り切る活力」。いずれも、「モノ」ではなく「コト」を訴求したから、ここまで普及したのです。
全国のブログを集めて、「農産物」「食物」と「食事」という単語が出現するブログのエントリー数を比較してみました。
「食事」のブログのエントリー数は、「農産物」と「食物」を合わせた数の8倍以上です。人々の関心が「たべるモノ」(農産物、食物)にあるというよりも、「たべるコト」(食事)にあることが明らかでしょう。消費者を引きつけるのは、「モノ」でなく、「コト」なのです。
参考文献:岩崎邦彦「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」/日本経済新聞出版社