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ビジネス見聞録

第2回 今月のビジネスキーワード「自動運転」

ビジネス見聞録 経営ニュース

※本コラムは2020年4月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

 物流業界のドライバー不足、高齢ドライバーの増加によって多発する交通事故、公共交通が成り立たなくなった限界集落の増加…。車を巡って様々な問題が起こっています。こうした問題の救世主として注目を浴びているのが自動運転です。自動運転はどこまで進んでいるのか、技術ジャーナリストの鶴原吉郎さんにお話をお伺いしました。


●レベル1のクルマができること

――最近、自動運転の宣伝を見かける機会が増えてきましたが、実際、どのくらいのことができるようになったのでしょうか。

 自動運転を語るためには、まず、「自家用車」と「モビリティサービス」を分けて考える必要があります。「モビリティサービス」とは、移動に関するサービスのことで、既存のサービスでは、タクシーやバスをはじめとした公共交通に近いかもしれません。「ライドシェア」「カーシェアリング」なども「モビリティサービス」に含まれます。

 まずは、自家用車の自動運転から説明しましょう。自動運転は「レベル0」から「レベル5」まであります。「レベル0」は、まったく自動化されていない状態。要するに、これまで私たちが運転していたクルマですね。「レベル1」は自動ブレーキやACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール=車間距離制御装置)をはじめとしたADAS(Advanced Driver-Assistance Systems=先進運転支援システム)が搭載されている状態をいいます。
 
 ACCは、アクセルやブレーキを操作しなくても、高速道路を一定の速度で走り、もし、前に遅い車がいれば自動的にブレーキをかけたり、アクセルを緩めたりして、追突しないように調整する機能です。また、車線をはみ出しそうになると警告音やディスプレイへの表示、振動などで知らせてくれる車線逸脱警報装置や、白線内に戻るためのハンドル操作をサポートする車線維持支援装置がついているものもあります。
 
 このように人間を支援する様々な運転支援システムを装備しているのがレベル1です。

●自動運転のイメージに近い「レベル2」

――レベル1でも随分といろいろなことができるのですね。レベル2はどうでしょうか?

 レベル1は単独のシステムだったのに対して、「レベル2」は、そうした単独のシステムをいくつか組み合わせて、ひとつの塊として機能させます。たとえば、「高速道路の単一の車線を時速100キロで走る」と設定すれば、「レベル1」のACC、車線維持支援装置など、いくつものADASを組み合わせることで、人間がハンドルに手を添えているだけで走り続けることが可能です。
 
 近い将来、高速道路での車線変更や一般道路での走行も可能になるでしょう。「レベル2」は、私たちがイメージする自動運転にかなり近い段階まで含んでいます。ただし、全てをクルマに任せることはできません。ドライバーは、システムが正常に動作しているのか、このまま運転を任せて危ない状態にならないかといったことを常に監視する必要があります。

 万一、自動運転のシステムの作動中に事故が起これば、それはドライバーの責任になります。運転操作からは解放されても、安全運転の責任はある。このような状態が「レベル2」なのです。そうはいっても、操作から解放されれば、次第にドライバーは、運転に注意を払わなくなるでしょう。そこで、レベル1はもちろん、レベル2でも、大半のクルマは、ハンドルかた手を離すと、自動運転が解除される仕組みになっています。

●新しく登場した「レベル2+」とは?

――スカイラインのC Mでは矢沢永吉さんがハンドルから手を放していますが、これは「レベル3」なのでしょうか?

 少しややこしいのですが、最近は「レベル3」ではなく、「レベル2+」を目指すという考え方が主流になってきました。まずは、「レベル2+」について説明しましょう。
 
 現在の「レベル2」のクルマは、走行するときに白線だけを見ているので、自分が追い越し車線にいるのか、走行車線を走っているのか区別がつきません。また、白線をみているだけなので、急カーブに気付くのが遅れて急ハンドルを切ることもあるし、料金所に気づかないので減速しません。だから、こうした場所では手動運転に切り替える必要があります。
 
 それに対して最新型のスカイラインに搭載されている「レベル2+」のシステムは、あらかじめ正確な地図を組み込んでいるので、料金所や合流地点を認識できるし、案内標識などの道路構造物と自車両との位置関係から、「走行車線にいるのか追い越し車線にいるのか」も分かります。さらに速度制限などの標識も認識しています。
 
 だから、走行車線を走っていれば、合流地点が近づいてきたときには注意を促すし、料金所が近づいてきたのにスピードを緩めなければ、クルマが強制的に速度を緩めます。このように、単純に単一の走行車線を走るだけという従来の「レベル2」のシステムよりも、もう少し高度な機能を実現できるようになったものをレベル2+と言っているのです。
 
 もちろん人間がシステムの動作状況を監視しなければいけないという点は「レベル2」と変わりません。新型スカイラインの運転中にハンドルから手を放せる理由は、ドライバーの様子をチェックするためのカメラなどがついているからです。ドライバーがよそ見をしたり、目をつむったりすれば、システムがすかさず注意します。将来、どれだけ高度な機能がついても、常に運転の責任がドライバーにある限り「レベル3」にはなりません。

●世界初のレベル3を狙うホンダ

――どうして「レベル3」ではなく「レベル2+」の開発にシフトしたのでしょうか。

 一言でいえば「レベル3」は非現実的だと分かってきたからです。「レベル3」は、一定の条件下では運転をすべて機械に任せられます。その間、ドライバーは運転のことを忘れて他のことをしていても構いません。しかし、条件が変わったり、機械が判断できない事態に陥れば、人間が運転する手動に切り替える必要があります。
 
 仮に、自動運転中にドライバーが眠っていたり、コーヒーを飲んだりしているときに、急に道路状況が変わって、人間が運転を交代しなければならなくなっても、うまく対応するのは難しいでしょう。そこで、国土交通省では、レベル3の自動運転中にやっていいことを、クルマに装備されているディスプレイや、スマートフォンでできることに限定しています。

 それでも、とっさの判断が求められるような局面で、いきなり運転を替わることには、かなりの危険が伴います。だから、「レベル3」は非現実的だと言われるようになり、多くのメーカーはずっと人間が自動運転を監視する「レベル2+」の開発に方向転換したのです。
 
 こうした中で、ホンダは今年の夏を目途に高級セダンの『レジェンド』に「レベル3」の機能を搭載すると発表しました。ホンダが想定している条件は、「高速道路の単一車線を走行中に渋滞している時」。詳細は発表されていませんが、概ね時速60キロ以下のスピードに落ちたぐらいの時だろうと言われています。
 
 渋滞が解消されれば、自動運転から手動運転に切り替えますが、ノロノロ運転から、スピードを上げていく操作なので、比較的危険は少ないと考えられます。だから、そこから着手していこうというわけです。 渋滞中は完全に自動運転になるので、事故が起これば自動車会社の責任です。だから、万一システムが壊れても、安全を確保できるように、バックアップするシステムを用意したり、センサーの数を増やしたりといった安全対策が必要です。

 このように様々なコストがかかるので、クルマの価格は100万円くらい高くなると言われています。「渋滞中にスマホを見たりするために、わざわざ100万円を支払う人がどれだけいるのだろうか?」といった議論もあります。このように、得られるベネフィットに対して上昇するコストが大きいことも、「レベル3」の普及がかなり限定されるだろうと予想される理由の一つです。

●モビリティサービスは「レベル4」も

――アメリカはもちろん、日本でも無人運転のバスやタクシーの実証実験などが行われています。自家用車ではレベル3も達成できないのに、どうしてモビリティサービスでは完全自動運転が可能なのでしょうか?

 確かに不思議に見えるかもしれません。アメリカ・アリゾナ州のフェニックスという街では、すでに有料の無人タクシーが走っていますからね。スマートフォンのアプリで呼び出し、行き先を入力すれば、無人タクシーが迎えに来て、目的地にまで運んでくれます。

 完全自動運転に見えますが、実は「レベル4」なのです。「ある限定された条件下では、運転のことを忘れていい」というのは「レベル3」と同じです。違いは、途中で人間と運転を代わらないこと。ずっと機械が責任をもって運転するので無人でも構わないわけです。
 
 モビリティサービスで早期に「レベル4」を達成しているのは、「限定された条件」から外れるような運転をしないからです。たとえば「走るのはこのエリアだけ」「走るスピードは時速は60キロ以下」「夜は視認性が悪いので昼間の時間帯しか走らない」といった具合です。また、自動運転には正確なデジタル地図が必要ですが、狭いエリアに限定すれば、工事情報、事故情報など、リアルタイムの情報を反映した正確な地図づくりも可能です。
 
 これまで私たちが馴染んできた電車やバスをはじめとした公共交通は、運行時間や運行エリアなどが決められているので、自動運転のモビリティサービスに様々な運行条件がついていても、さほど気にならないでしょう。「レベル4」とモビリティ・サービスは相性がいいのです。それに対して自家用車に「レベル4」の機能を搭載するのは難しい。「好きな場所に行かれない」「好きな時間に運転できない」といった制限がかかったクルマを購入する人など、まずいないからです。

●「レベル5」までの道のり

――これから自動運転は、どのように発展していくのでしょうか。

 10年くらい前までは、「レベル1」から「レベル5」まで階段を上るように技術が進んでいくと考えられていました。「2019年にはレベル5のクルマを出す」と宣言していた自動車メーカーもありましたが、未だに登場していません。自動運転の開発スピードは、当初の予測よりも遅れていますが、現実路線の開発姿勢になったともいえるでしょう。

 実際に開発をすることで、前述したような「レベル3のリスク」「コストとべネフィット」「デジタル地図の重要性」をはじめ、様々な問題が明らかになってきたからです。
 
 しかし、こうした困難を抱えつつも、自動運転は今後も進展していくと考えられます。その理由は、自動車が現在の世の中の変化に対応できていないからです。インターネットやスマートフォンをはじめ情報化の進展によって私たちのライフスタイルは一変しました。今やほとんど全てのものがネットで買えるようになったし、個人間の売買も盛んです。音楽、ゲーム、映画などソフト類は所有しなくても、いつでも、どこでも楽しめるようになりました。
 
 それに対して「クルマ」は、ほとんど変わりません。駐車している場所に行かなければ利用できないし、目的地に到着したら駐車場を探さなければならない。運転時は免許証の携帯が必要だし、酒を飲んだら運転できない。「いつでも、どこでも」とはかけ離れた状況です。クルマは時代遅れなのかもしれません。
 
 それでは、クルマはどのような存在になればいいのでしょうか。その答えを探るひとつの試みはトヨタが来年着手する様々なモノやサービスがつながる「コネクティッド・シティ」の建設だといえるでしょう。道路については「完全自動運転の車両専用の道路」「歩行者と低速の車両走行用の道」「歩行者専門の道」の三種類を設けて将来の都市交通の在り方などを探ります。

 これからのクルマは単独で存在するのではなく、都市の一つの機能としと位置づけられるような時代がやってくるかもしれません。(聞き手 カデナクリエイト/竹内三保子)

鶴原 吉郎氏(つるはら よしろう)
技術ジャーナリスト。1985年慶應義塾大学理工学部卒業、同年、日経マグロウヒル社(現日経BP)入社。2004年『日経Automotive Technology』編集長。2014年に独立してクルマの技術・産業に関するコンテンツ編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立。『EVと自動運転(岩波書店)』『自動運転で伸びる業界消える業界(マイナビ出版)』など著書多数。

※本コラムは2020年4月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

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