
前回、「指示の意図を汲み取る力をどう育てるか」についてお話しました。今回は、「定着率を高める入社後フォローの仕組み」についてお話します。
「定着率」は、多くの企業にとって共通する重要課題です。共に働く仲間が減ってしまうということは、月末の数字にも直結します。厚生労働省の「雇用動向調査」によると、日本の全体の定着率は過去10年間を見ると約85%です。ところが新卒者の入社3年後の定着率は、大卒で約66%、高卒で約62%です。新人のどなたもが、その会社で長く戦力になろうと入社しているにもかかわらずです。
会社の担当者によると、入社一ヶ月未満の退職もあるということです。退職理由については、今後の対策のヒントにもなるので、丁寧な聴き取りが必要です。時代の流れというのか、最近の傾向として「退職代行サービス」を利用した退職も増えてきています。
今回のテーマで、皆さんに私が一番お伝えしたい事は、「相手に『強く』関心を持つ」です。私たちは残念ながらお互いの心を見ることができません。だからこそ、見えない心が何を感じているのか、『強い』思いの関心が必要です。強い関心を源に据えるとコミュニケーションをしようとする『熱量』も変わります。ただその熱量は『維持』されて初めて効果が出ます。維持をするためのきっかけはどんなことでもかまいません。
ちなみに私の個人的な体験を申しあげます。数年前、突然ある女性の訃報に接しました。お元気にご活躍されていたので、大変ショックでした。ふと世界人口の現在数をパソコンで検索してみると、世界人口はすでに80億人を優に超えていました。画面は現在の世界人口、今日の出生数、今日の死亡数の一の位の数字が、刻々と変わっていきます。
私はその瞬間、瞬間に変わる数字を見ながら、この方々との交流は起こり得ないと理解しました。相手も私もお互いを全く知らずに命を閉じていく現実を深く考えさせられました。では私に出来ることは何?閃いたのは、『運よく出会えた人とは、強い関心を持ってコミュニケーションを取っていく』でした。あの時の気持ちは嬉しいことに今も変わらず維持できています。
では、仕組みについて3点お話します。
1新人の「居場所づくり」を意識する。
―安心して相談できる関係の構築―
人と人とのコミュニケーションにおいてまず大事なのは、「聞く力」です。ただ今回のテーマの定着率という角度から申し上げると、「その先の質問力」がさらに大切です。新人の心からの声を聴かせてもらうには、一言でも多くの発言をしてもらうことです。質問にはクローズドクエッションとオープンクエッションがあります。前者は「はい・いいえ」で答えられる質問、後者は5W1Hを意識した質問です。これを毎日5分でも良いので新人さんへ質問し続けてください。この仕組みが続くと、新人さん達は毎日無意識に自分の気持ちを言葉にする訓練ができます。
質問を受ける人をAさんとします。対応者が聞く内容のバランスは、最初は仕事とプライベート1対1の比率で良いでしょう。続ける中でAさんはまだプライベートな領域が弱いと感じたら、「学生と社会人の違い」などのオープンクエッションを加えます。対応者を1週間で交代というルールにすると、Aさんは3ヶ月で合計12人の先輩とやりとりができます。
まさにこれが、1の二行目に書いた「―安心して相談できる関係の構築―」の準備を伏線としています。二桁の先輩とのやり取りの経験には大きな意味を込めています。Aさんにもし何か相談したいことが起こったとします。その場合「この事は○○さんに相談してみたい」とAさんが自ら相談者を選んで話せるよう窓口を事前に広げているのです。
※質問の仕方の具体例
・プライベート編オープンクエッション
「○○さん、おはようございます。顔色が元気そうでよかった。実は昨日の夕方少し疲れた表情に見えたので、ずっと気になっていました。何か元気になれる秘訣があるみたいね。よければ教えてもらえますか?」←前日の夕方の自分が見守られていたことに気づきます。また先輩から教えてと言われたので、自分流ですがと答えたくなるでしょう。
・仕事編オープンクエッション
「おはよう。○○さんは、上司から名前を呼ばれたときの返事のハイが上手です。たった二音のハイなのに言葉の後に『お任せください』という気持ちまで聞こえるようでした。ハイを言うとき一番気をつけているのは、どんな事ですか?」←先輩が細かいところまで本気で聞いて、本気で褒めてくれるのがとても嬉しく感じて、自分の中の意識の変化を伝られた。
2一日の終わりに、今日できるようになったことを書いて提出。かつ本人が笑顔で読む。
―小さな成長を喜び合う風土づくりー
書くという行為は、言葉を心に刻む効果があります。声に出して読むことは鼓膜が内容を聞き取るため「私は会社で成長をしている」という実感が持てます。定着率向上の土台にも繋がります。同時に口をしつかり開けた笑顔の実践にもなります。
3定期的な面談は、部署内・部署外ダブルの担当者で臨む。
―会社全体がチームで動いていることの理解―
新人さん達の学生時代は、気の合う同士の交流が中心だったと思います。会社の一員として会社を動かすには社員全員が「一丸になる」ことです。入社初期の段階から他部署の人との会話のルートも開いておくと、他部署にも多くの人財がいることの気づきに自然と繋がります。つまり「人は人につく」のです。
ここで重要なのはAさん担当のお二人が、Aさんについて細やかな情報交換をすることです。万一Aさんが助走の長いタイプの方でしたら、根気よく助走の期間を待つことを互いに了解しあいましょう。
※面談の担当者は担当する新人の良い言動を、事前に本気で、感じたままを三点ほど探しておいてください。面談の最初にそのどれかから入るとAさんの心が開きやすくなります。
伝える時はもちろん本気で伝えてください。あなたの熱量であなたの本気は伝わります。また、社内の人の名前出すときは、例えば「隣の課の○○さんは、誰に対してもとても親切で(「+」の具体例を入れる)私は先週もお世話になりました」のように良いところから話して下さい。「第三者の話はその方の長所から始める」の意味は、「人の良いところから観られると、コミュニケーションを良い地点からスタートさせられる」を新人に学んでいただける可能性もあります。
■振り返りとして前述の三点、
1新人の居場所作りを意識する
2一日の終わりに、今日出来るようになったことを書いて提出、かつ読んでもらう
3定期的な面談は、部署内・部署外ダブルの担当者で臨む
を私は「定着率を高める入社後フォローの仕組み」のスタートと考えます。効果が見えるようになるにはある程度時間を要します。最低3~6ヶ月かかる想定を頭に入れてから、あなたは『えいっ!』と自分に掛け声をかけて新人さんとの二人三脚を頑張ってください。『意志あるところに道あり』です。あなたの頑張りを心から期待しております。






























