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人間学・古典

第四話 「呼びつけできない部下を持て」

中国哲学に学ぶ 不況は会社守成の好機

※本コラムは2000年代に井原隆一氏が書き下ろした「不況は会社守成の好機」全41話のコラムを再連載するものです。


この言葉は孟子にあるものだが、要するに自分より秀れた部下を持ちなさい。ということである。
とかく部下に一目おいているようでは沽券にかかわる、威厳を損ねると考えがちにはなるが、これは逆で、こうある上司のほうが尊敬され威厳を感じさせるものである。

 私も銀行、メーカーに五十七年の現役を過ごしたが呼びつけされなかったのは銀行、メーカーで各一人のトップだけであった。この二人の上役から“君”づけで呼ばれたこともなければ、
呼びつけられたこともなかったのだが自然に頭が下がり、この上司のためならという気にもなってくる。つまり心服してしまうのである。

 アメリカの鋼鉄王といわれたカーネーギーの墓石には
“己より秀れた人の協力を得ることのできる天才がこの下に眠る”との文字が刻まれているとか。
 
 また中国の昔、楚の項羽に勝って天下を得た劉邦は
“百万の衆を連らね戦えば必ず勝ち戦するのはわが韓信に如かず”
。といって張良、簫何と共に、己より秀れている兵を称えている。

 こうした兵は現代でも例外はない。世界に誇るわが国の大企業のすべてと言えるほど創業は一人でしかなかった。その一人の能力にも自ら限界がある。より秀れた人材の協力を求めた
信条の成果といえるだろう。

 こうした成功者の共通点の一つは論語にある“下問を恥じず”つまり驕らないことについて目下の者に教えを請うのを恥としないということであった。そういえば前記の呼びつけしなかった
ふたりの上司からはよく相談を受けたが、やはり論語にある

“能を以て不能に問い、多きを以て寡きに問う”(才能があるのに、へりくだって才能のない者にまで聞く)
上から聞かれて、いい気になっていたのは自分であった自分を戒めねばなるまい。

※一部旧字を現代漢字に変更させていただいております。


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