★「検索して探す」から、「AIに相談する」へ。買い物の入口が変わる
もちろんAIは、今持っているものを使いこなす相談相手になるだけではなく、新しい商品やブランドと出会う「買い物の入口」にもなり始めています。
日本ダイレクトマーケティング学会の調査では、生成AIを買い物に使うようになった人の34.2%が、検索エンジンで検索する回数が減ったと感じていると回答しています。
ウェブサイトを見る時間が減ったと感じる人は28.6%、何を買うか迷う時間が減ったと感じる人も27.0%いました。
出典:日本ダイレクトマーケティング学会「『生成AIが消費者行動に与える影響』に関する調査」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000186634.html
変わったのは、「検索する場所」だけではありません。AIなら、「軽くて丈夫で、2万円以内。3泊の旅行にちょうどいいスーツケースは?」のように、自分の事情まで含めて相談できます。これまで自分で検索結果や口コミを見比べながら行っていた「探す・比べる・絞る」という作業の一部を、AIに任せ始めているのです。
その変化は、実際の購入にもつながっています。
生成AIを使った検索を日常的に行う人を対象にした別の調査では、AIとの対話をきっかけに商品を購入した経験がある人が54.1%にのぼりました。
出典:PLAN-Bマーケティングパートナーズ 生成AIを使った検索を、週に数回程度以上行う10~60代の男女500人を対象とした2026年調査 https://www.plan-b.co.jp/news/ai_purchase_report_202606/
AIは、「何を買うか」「どこへ行くか」を考え始める最初の相談相手になり、最初の候補を探し、絞り込むところまで入り始めているのです。
企業にとって重要なのは、生活者が必ずしも自社の商品名を知ったうえでAIに相談するとは限らないことです。「この商品について教えて」ではなく、「こんな悩みを解決したい」「こんな条件に合うものが欲しい」と相談し、その回答の中から初めて商品や店を知ることが増えていくでしょう。
これまでは、検索されたときに見つけてもらうことが重要でした。これからは、生活者がAIに相談したときに、自社の商品やサービスが選択肢に入るためにはどうすればよいか、という新しい課題も加わりそうです。
こうした購買行動の変化を受け、国内電通グループ4社は2026年9月、新しい購買行動モデル「AIJES(アイジェス)」(商標出願中)を提唱しました。
AIJESは、「蓄積」「問答」「判断」「参加」「評価」の5つで構成されます。
商品やサービスの情報が人にもAIにも「蓄積」され、生活者はAIとの「問答」を通じて情報を集め、AIから得た情報だけでなく、それ以外の情報や自分自身の直感も含めて、最後は人が「判断」する。そのうえで、購入・利用という「参加」が生まれ、体験したことを「評価」する。その評価がまたAIに蓄積され、次の選択や購買行動につながっていくというモデルです。
出典:国内電通グループ、AI時代の新購買行動モデル「AIJES」を提唱(2026.9.10)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2026/0910-011097.html
AIが単なる「検索の代わり」ではなく、買う前から購入後まで関わる存在になっていることを表しています。
※AIJESは、AISAS®に取って代わるものではありません。購買行動は一つの型だけで説明できるものではなく、AIの浸透度や商品・サービスによって、AISAS®とAIJESが併存していくことが想定されています。
★終わりに:売れる商品を創るためのポイント
今回の事例から、売れる商品やサービスを生み出すためのポイントを考えてみたいと思います。
AIによって、これまで時間や手間がかかっていたことが簡単になると、その分だけ新しくできること、やりたくなることも増えていきます。そこに、次の需要が生まれる可能性があります。
たとえば、文章の下書きが自分でできるようになれば、「書いてもらう」必要は減るかもしれません。その一方で、「この内容で本当に伝わるのか」「もっとよく仕上げたい」と、最後の仕上げを人に頼む需要が生まれます。
英語学習でも、会話の練習をAIでできるようになりましたが、自分に合った学習計画をつくってもらったり、途中で軌道修正してもらったりする英語コーチングは伸びています。
大切なのは、「AIで何がいらなくなるか」だけを見るのではなく、AIによってできることが増えた人が、その次に何を求めるようになるのかを見ることです。
自社の商品やサービスについても、「お客さまがAIを使うことで、自分でできるようになったことは何か」「その先で、もっとよくしたいこと、新しくやってみたいことは何か」と考えてみてください。そして、そこに自社が提供できるものがないかを探してみる。すべてを最初から引き受けるのではなく、最後の確認だけを請け負う、途中の相談だけを受け付ける、といった新しいサービスのつくり方も考えられます。
AIによって、これまで売れていた商品やサービスが選ばれなくなることはあるでしょう。ただ、AIが役に立つからこそ、それまでできなかったことができるようになり、「もっとこうしたい」という次の需要も生まれていきます。
こうした変化は、AIを特別なものではなく、日常の中で自然に使う若い世代ほど、早く表れていく可能性があります。
「AIに何を奪われるか」だけではなく、AIを使えるようになった顧客が、その次に何を求めるのか。
そこに、AI時代の新しいヒットを生み出すヒントがあるのではないでしょうか。
新しい時代のターゲットのインサイト(人を動かす隠れたホンネ)を抽出し、それに応えられる商品をつくれると、ヒットを生み出せます。ぜひ、この最新のインサイトを活かしてみてください!

阿佐見綾香(あさみあやか)
株式会社電通 第4マーケティング局マーケティング・コンサルタント
埼玉県さいたま市浦和出身。早稲田大学卒業後、2009年、株式会社電通に入社。以来、数多くの企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発、リサーチ、企画プランニングに従事。担当した業種は化粧品・アパレル・家庭用品・食品・飲料・自動車・家電など。大手企業だけでなく、ベンチャー・中小企業も担当するなど、幅広い業種・規模の企業を手掛ける。現在はブランドコンサルティング部で企業・事業のブランド戦略に携わる傍ら、DENTSU DESIRE DESIGNで生活者インサイトを研究。著書に、累計3.2万部越えのベストセラーとなった『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術』(PHP研究所)、共著に、累計2.1万部となった『センスの良い考えには、「型」がある 感覚を言語化するインサイト思考』(サンマーク出版) がある。
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