「薪ストーブ」や「自転車通勤」、「路面電車」と言えば、戦前・戦後の昔話かと思われていた。
しかし、今やそれらが周回遅れのファーストランナーとなりつつあるのだ。
東日本大震災による原発事故は人々のエネルギーに対する考え方を根本的に変えた。
可能な限り早く、ウランを燃料とする原子力にたよらない社会を作らねばならない。
また、地球温暖化によると思われる異常気象が猛威をふるっており、
原油価格の騰落にかかわらず、これ以上、地球環境を悪化させないためには、
石油に依存し続けるわけにはいかない。
各企業は、電気代の値上げによるコスト増の影響を最小限にするべく、
そして、またいつ襲って来るともわからないガソリン価格の上昇に備え、
現場で試行錯誤を繰り返しながら、知恵を絞って省エネに取り組んでいる。
さまざまな“脱・地下資源燃料”への取り組みが、「逆・産業革命」を巻き起こそうとしている。
そこから生まれつつある、≪なつかしい未来≫とも呼べる
21世紀型の新ビジネスモデルは、またとない商機だ。
◆「薪ストーブ」が大ヒット商品に?!
近年、北海道、東北を中心に、灯油ストーブが姿を消し、昔懐かしい「薪ストーブ」が大ヒット商品になっている。
きっかけは、2007~8年頃、円建ての原油価格が25年ぶりに最高値を更新したことだった。
現在、原油価格は、ユーロ危機の影響による世界的な需要減で低下してはいるものの、
中長期的に見れば、新興国の石油に対する需要は増えることはあっても減ることはない。
中国人の1割がクルマに乗るようになるだけで日本のガソリン需要を上回ってしまうのだ。
また、震災後、被災した東北3県の沿岸部ではライフラインが寸断され、
電気も都市ガスもしばらく使用できなかったことは記憶に新しい。
ガソリンスタンドには自動車が長蛇の列を作り、灯油を買うのにも一苦労だった。
そういったことが追い風となって、「薪ストーブ」の需要が増えているのだが、実は理由はそれだけではない。
薪が燃えるのを見ていると癒しになる、家族だんらんの機会が増えた、孫が訪ねてくれるようになった、
ストーブで料理をするのが楽しい・・・、などといったこともヒットを後押ししているのだ。
まさに≪なつかしい未来≫が新市場を創造しているのである。
◆吉祥寺の商工会議所会頭の移動手段は自転車!
自転車での通勤と言えば、昔の中国の朝の出勤風景を思い浮かべるが、
今や中国では自動車がステイタスとなって、自転車通勤は格好の悪いものとなっている。
一方、逆に日本では、環境への意識の高まり、健康志向も手伝って、
自転車通勤がオシャレなトレンドになっている。
最近、大都市の都心部では、自転車通勤のビジネスマンやOLがますます増えている。
(※歩行者や自動車との接触事故も増加しており、交通ルールの遵守が叫ばれているが)
様々な統計で「首都圏で一番住みたい街NO1」に選ばれている吉祥寺がある武蔵野市では、
商工会議所の会頭や市の幹部でさえ移動には自転車を使っている。
自転車で移動する人が増えるに連れ、
日本でも自動車と歩行者の道路とは別に自転車専用道路の整備が進んでいる。
自転車による移動は、ガソリン代の節約になるだけでなく、
メタボ対策にもなって健康にも良いし、地球環境にも良く、
渋滞の緩和にもなり、一石四鳥だ。
◆手押し台車、三輪車、リヤカー、人力車など産業革命以前の輸送手段が復活
近頃、街中で、運送会社のスタッフが、手押し台車、三輪車、リヤカー、人力車など、
動力を使わない輸送機器に荷物を載せて、人力で運ぶ姿をよく見かけるようになった。
運送会社や物流会社、物品を輸送しなければならない流通企業やメーカーの多くが、
コストの削減と環境負荷を減らすために、なるべく自動車に頼らない輸送、つまり「人力輸送」の比率を
高める努力をしているのだ。
従来は顧客の事業所や家の前までトラックやワゴンで乗り着けていたのを、あちらこちらにステーション(出張所)を作り、
そこにクルマを止めて、そこからは可能な限り人力で配達しているのである。
また、中小の同業者や、同じ方面や同じ地域内での配送のある企業同士が連携して、共同配送するなどしてコストを削減している。
産業革命以前の乗り物が装いも新たに高性能バージョンとなって、地球環境に優しい
「エコ・ヴィークル」「エコ・トランスポーテーション」として復活しているのだ。
◆街に入る前に自動車を降りる「パーク&ライド」が当たり前に
自動車による移動を極力減らして、都心部では徒歩や自転車で移動する、「パーク&ライド」も増えつつある。
「ベロタクシー」(人力三輪タクシー)の発祥の地でもあるドイツのベルリンには、
2008年の元旦から市内中心部を一周取り囲む「ウンベルト・ゾーン」(環境ゾーン)の標識が建った。
その広さたるや山手線の内側よりも広いのだが、このゾーン内には基準を満たしたエコカー以外は入れない。
自動車の環境負荷評価は認証制で4段階に分かれており、各レベルのシールを付けていないクルマは市内乗り入れ禁止だ。
ベンツやBMWでも最高ランクではないという厳しさである。さらに2010年以降、粉塵のフィルターをつけることが
全車に義務づけられた。
日本でも、京都や鎌倉といった古都をはじめ、「パーク&ライド」を積極的に推進する街も増えつつある。
歴史的景観や文化財は、往時と同じスピードで、静かにゆったりと楽しむ方が情緒もある。
ヨーロッパを中心に、世界の国際的観光都市においては、もはや「パーク&ライド」は当たり前だ。
◆≪なつかしい未来≫の乗り物=路面電車
また、世界的に、都市部の移動手段として、路面電車(トラム)が続々と復活を遂げている。
20世紀末以降、地球環境問題がクローズアップされるにつれ、環境負荷を低減しようと、
化石燃料を使う自動車やバスより電気駆動の路面電車が見直されだしたのだ。
「LRT」(Light Rail Transit=軽量軌道交通)と呼ばれる、最新鋭の路面電車が各地で敷設されたり、
計画が続々と立ち上がっている。
ベルギーの首都ブリュッセルでは、総延長を131キロにも延ばしたが、今後も新設計画が進んでいる。
また、フランスのパリでも、かつて廃止した路線を復活した。イギリス・スコットランドのエディンバラでは、
高速で省エネ型の路面電車が新たに敷設された。
他にも、フランスのストラスブール、イギリスのエディンバラ、アメリカのサンディエゴなど欧米各国の市街地の足として復活、
拡充が相次いでいる。
一方、日本でも、全国各地で路面電車復活の機運が高まっている。
日本において、路面電車は、戦前の1932(昭和7)年が最盛期で、全国65都市、82事業者、総路線長1479kmに及んだ。
そして、戦後も都市の主要な交通手段として機能した。
しかし、高度成長期の1960年代に入ると、自動車によるモータリゼーションが急速に進展する中で、
路面電車は道路の渋滞の元凶だと見なされるようになった。
その後、1970年代末にかけて多くの都市で廃止され、市街地の大量輸送手段としては地下鉄やバスに取って替わられた。
しかし、21世紀に入って、日本でも路面電車の有用性が見直され、「LRT」の敷設が進みつつある。
2006年の4月、富山市が日本で初めて「LRT」を本格的に導入した。
全長7・6キロの旧JR富山港線を利用した、富山ライトレール運営の「ポートラム」は、一日平均4453人が利用している。
2012年6月29日には累計利用者数が当初見込みより約2年も早く1000万人を突破した。
現在、東京都中央区の銀座⇔晴海の他、横浜市、宇都宮市、静岡市、京都市、福岡市など日本中で計画が進んでいる。
「LRT」のメリットとしては次の5つがあると私は分析している。
①CO2排出量はバスの3分の1、自動車の6分の1で交通環境負荷が軽減
②高さが20~30cmの低床式のバリアフリーな車両と停留所であるため高齢者・幼児・ベビーカーの母子も安全に乗降可能
③地下鉄の10分の1という建設コストの低廉化
④都市内の自動車移動からの転換による交通円滑化
⑤道路空間の再構築やトランジットモールの導入による中心市街地の活性化および地域の魅力向上
路面電車は古くて新しい、まさに≪なつかしい未来≫の乗り物だ。
◆“21世紀型の帆船”=「ハイブリッド貨物船」
海上輸送においては、“21世紀型の帆船”とも呼べる「ハイブリッド貨物船」も登場している。
主にドイツをはじめヨーロッパで利用が進みつつある。
これは、エンジン動力に加えて、空に浮かべた、たこ型の大きな帆に風を受けて進む。速い上に燃料を節約できる。
温故知新の21世紀型帆船だ。
ヨーロッパ各国は、環境を旗印に、脱石油の新たな大航海時代に船出しているのである。
◆日本のものづくりの真骨頂「からくりロボット」
日本のお家芸、ものづくりも負けてはいない。
各地の工場では、有料のエネルギーを要するエンジンやモーターをなるべく使わず、重力やぜんまいで動かす
「無動力マシン」が増えている。
例えば、工場のスタッフがみんなでアイデアを絞って、ある程度の重さになると重力によってパタンと
ししおどしのように動いたり、カラカラと滑車が回る仕組みが開発されているのだ。
そういった工夫は日本の真骨頂でもある。これらのマシンは日本古来のからくり人形の現代版とも言えるが、
そういった「からくりロボット」の開発に全国の工場が競って力を入れ出しているのだ。
◆電子商取引ならぬ「新・原始商取引」
また、電子商取引ならぬ、新たな「原始商取引」が脚光を浴びつつある。
ご用聞き的発想による「地域密着ビジネス」が復活してきているのだ。
例えば、町工場でも「板金ならおまかせ」などと近隣の家にポスティングを積極的に行い、仕事を増やしたりしている。
採用も仕事によっては、新聞や雑誌に広告を出すより、会社周辺の掲示板やfacebookなどのSNSで募集した方が
効率が良い場合もある。
その土地で産出した作物をその土地で消費する「地産地消」のように、地域の業者が地域の顧客に対してサービスする
「地業地客」、地元の人を地元で雇用する「地才地用」といった古くて新しい取り組みが始まっている。
◆温故知新、不易流行の視点から商機をつかもう!
広がりつつある“脱・地下資源燃料”への取り組みは、産業革命をリバースする「逆・産業革命」なのだとも言える。
しかし、そこから生まれつつある、≪なつかしい未来≫は、元のままではない。
らせん階段をグルッと一周回ったように、同じ位置にいても一段上がっているのだ。
新ビジネスモデルは≪なつかしい未来≫から生まれる。
温故知新、不易流行の視点から商機をつかもう!