前回「視覚がカットされる電話応対の仕方」についてお話しました。今回は、「4月入社した社員へのフォローのポイント」についてお話します。
4月入社された方々は「一日も早く先輩と同じように一人前として働けるようになりたい」を当面の目標として、頑張り続けてきた日々と思います。そして今はかなり先輩たちと同じように動けるようになってきたのではないでしょうか?ただ人の性として、時に気持ちが緩んでしまう場合もあります。これは現場チエックやフォローアップの研修の中でも実際に目にしてきています。
突然ですが、皆さんは「エビングハウスの忘却曲線」という言葉をお聞きになったことがあおりでしょうか?すでにご存じの方もいらっしゃるでしょうが、それぞれの会社で新人に向けて指導をなさる立場の方に内容を紹介します。
記憶に関する実験的研究の先駆者のエビングハウスは、1850年生まれのドイツ人の心理学者です。
●エビングハウスの忘却局線
エビングハウスは1879年から実験者に覚えてもらうアルファベットのかたまりを「無意味綴り」(意味を持たない文字などの並び)にして、実証実験を行いました。その結果、100%覚えたことが20分後には、すでに42%も忘れてしまうことがわかりました!この図から残念ながら人は覚えたことをこの速度で忘れていくということが、一瞬で読み取れます。一時間後に56%、一日後には74%を忘れるとは、、、忘却曲線を初めて見た時の驚きを、私は今でもはっきり思いだせます。実験結果の数字が説得力を持って目に飛び込んできました。思わず愕然としました。
●エビングハウスの忘却曲線と記憶の節約率
でも、気を取り直して次の図をしばらく眺めました。嬉しいことに、「タイミングを計って復習をすると、長期的な記憶の定着率を得られる」ことがわかりました。カナダのウォータールー大学の研究結果によると研修後、左記の3回のタイミングで
① 24時間以内に10分の復習
② 一週間後に5分の復習
③ 1ヶ月後に2-4分の復習
をすることによって、長期的な記憶にすることが可能ということです。
指導者は、新人さんに指導したことでその指導を完結してしまうのではなく、①・②・③のタイミングを逃さず新人さんに復習をしてもらいます。そして新たな記憶に基づいて指導者のあなたにアウトプットしてもらいます。ここでアウトプットを見届けるのがポイントです。
なぜなら、人はしっかり理解したことでないと他者に言葉で伝えられないからです。人に伝える表現ができれば、それは彼が彼女が、そのことを理解出来た証になります。復習時間は短いのですが、24時間以内・一週間後・一ヶ月後の間隔を正しく行えるよう気をつけてください。研究結果のこれらのタイミングというこのひと手間をかけることで、新人さんは長期的な記憶を獲得することができます。
「お辞儀」の例で話します。
お辞儀には、会釈・敬礼・最敬礼の3種類があります。
□□□□【ポイント1】
美しく立つ。頭を天から引っぱられている・足裏は下から引っ張られていると強くイメージする→背筋が伸びて綺麗な立ち方になる。顔の表情は自分の大好きな○○をイメージする→表情がやさしくなり口角もやや上がる。目線は相手の目に柔らかく合わせる。
□□□□【ポイント2】
お辞儀で身体を折る箇所は「腰」だけです。新人さんは頭も下げる傾向がありますが、所作としての美しさを示せるのは「腰」のみ折るのが重要です。中には頭も下げる方が見受けられますが、それはNGです。
□□□□【ポイント3】
身体を折る角度は目安として会釈15度、敬礼30-35度、最敬礼45度です。新人さんは会釈が深すぎて敬礼が浅すぎるように感じます。最敬礼はテーブルの前にたったとき自分の額がテーブルにつく位をイメージすると横から見たとき45度に見えます。自分で45度位と思って身体を折った角度は横からチエックすると敬礼にかなり近い角度です。時に理解した思いと自らの動きには、ギャップが出ることもあります。その事実は覚えておきましょう。
□□□□【ポイント4】
「腰を折る角度と使う言葉」は、「会釈」→「失礼します」・「敬礼」→「おはようございます」、「いらっしゃいませ」・「最敬礼」→「ありがとうございます」、「お疲れ様でした」などが代表的です。(目を合わせて笑顔で言います)
□□□□【ポイント5】
「語先後礼」。言葉が先でお辞儀が後という意味です。お客様に向き合って会釈・敬礼・最敬礼の挨拶言葉を笑顔で言ってから、言葉に合った角度のお辞儀をすることです。実際は【ポイント1】からすみやかに続きます。
□□□□【ポイント6】
身体を折る時と戻す時の速度は、異なります。
お辞儀をする意味はお客様に対して、自分の大事な部位である頭を低くすることで相手を敬っていることを伝えるのです。ですから身体を折る時が「素早く」、戻す時が「ゆっくり」です。理にかなっていますね。
□□□□【ポイント7】
所作は「静」と「動」で美しさが演出できます。「静」は所作の中で動作を止めている時間、もしくは動作を止めてその姿勢を際立てると理解していただくと良いでしょう。その場に相応しい挨拶言葉を笑顔で言った後、その言葉に呼応した角度のお辞儀を素早くするまでは皆さん上手になさいますが、「すばやく身体を折った後」と「ゆっくり身体を戻し始める」の間に『一拍動きを止める』ことが入ると、相手に対して自分の頭を下げて敬っている姿勢を見ていただけます。この『一拍動きを止める』を忘れずに入れてください。
私は新人研修で「ここは大切なポイントです」と申し上げますが、フォローアップ研修で伺うと、半分以上の方が「一拍動きを止める」を忘れていらっしゃいます。私はお辞儀の項目で一番大事なのはこの【ポイント7】と考えております。その後、頭を低くしている姿勢から立ち姿に戻る時「ゆっくり」戻ります。「語先」の時の「笑顔と相手の目を見る」は「ゆっくり」戻りながら準備をします。
「その場に合った挨拶言葉とお辞儀をする」の所要時間は、5秒にも満たないでしょうが、実はその過程でポイント1~ポイント7までが行われているのです。どのポイントも外さずにきちんと出来た時、その方のお辞儀は美しいお辞儀となります。
【ポイント〇】の上の4つの四角は、
・一つ目「指導者が指導をした項目にレ点」
・二つ目「24時間以内の復習とアウトプット(新人さん→指導者)」のチエックとレ点
・三つ目「一週間後の復習とアウトプット(新人さん→指導者)」のチエックとレ点
・四つ目「一ヶ月後の復習とアウトプット
(新人さん→指導者)」のチエックとレ点 のようにお使いください。
各々の会社様で指導する項目やポイントに多少の違いがおありと思います。ご指導なさる方にはお手数をお掛けいたしますが、例として挙げた「お辞儀」のように【ポイント1】~【ポイント〇】までのような書き方で一項目の資料をお作りいただくとよいのではないでしょうか。
例えば資料を項目ごと(笑顔とわかっていただける笑顔の作り方・社格を上げる身だしなみ・挨拶に「+α」を添える・電話応対の仕方など)でファイルしておくと、項目ごとの所要時間はそれほどかかりませんので、仕事の隙間時間に複数項目の指導が可能と考えます。
以上の方法を取り入れていただくと、指導を受ける側の学び・指導をなさる側の学びの関係が細やかになるため、両者の関係はwin-winと言えます。