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マネジメント

第8話「一意専心の経営」

楠木建の「経営知になる考え方」

「専業」の強さ

 これからの方向性を考えたとき、「専業」が一つのキーワードになると考えている。強い企業には専業度が高いという傾向があるように思う。

 専業にこだわっている企業といえば、たとえばエアコンのダイキン工業。もののついでにエアコンを作っているような電機メーカーではもはや太刀打ちできない。日本電産もモーター事業への専業特化で成功し、成長を続けている。100万円以上もする高級オーディオを作るアキュフェーズはごく小さな会社だが、アンプを中心としたハイエンド・オーディオ製品(スピーカーはやらない)に特化して、いまでは世界のトップ・ブランドになった。

 「投資」と「事業」との間には大きな違いがある。投資活動は「こうなるだろう」という世界だ。生き馬の目を射抜くように機会をとらえ、未来を予測する。しかも、売却を前提としない投資はない。投資という仕事には終わりがある。一方の事業経営は「こうしよう」という意志にかかっている。未来は予測するものではなく、自ら創るものだ。

 

海外でよく使われる「ポートフォリオ経営」のメリット

 物騒なたとえだが、投資が空軍による空爆だとしたら、事業は陸軍による地上戦だ。当初は空軍による物量勝負の電撃作戦が必要になるにしても、それだけでは戦争にカタはつかない。戦争に勝利し平定するためには、陸軍が長期にわたって粘り強い地上戦を展開することが欠かせない。商売を左右するのはいまも昔も粘り強さだ。

 世界で活躍するバリバリの金融マンの知人に、日本人にウォールストリートなど世界の金融の中心で活躍する人材が少ないのはなぜだと思うか、と聞いたことがある。すると「ポートフォリオの概念が日本人にはないから」との答え。彼によると、ポートフォリオ経営の本質は過去を忘れる力。過去をなかったことにして、事態が変わればスパッと気持ちを入れ替えて、あたらしくポートフォリオを組みなおすという変わり身の早さが求められる。

 たとえばリーマンショックが起きると、事業の人は「これまではなんだったのか」と考え込んでしまう。ウォールストリートやシティの人々はすぐに損切りして、きれいさっぱりとなかったことにし、「ハイ、次!」とばかりにさっさとポートフォリオを組み替える。事業経営はそうはいかない。過去から未来まで連綿とつながっていて、それが事業の駆動力になっている。

 任天堂は一意専心の代表選手だ。ある時期からどんどんゲーム機が高度化して、半導体の勝負になった。「半導体の勝負になるとソニーには勝てないだろう。では何が面白いのか、何が自分たちの原点なのか」と考えたときに、生まれたのが「Wii」だった。花札の頃からエンターテインメントとは何か、何が人を夢中にさせるのか、といった道を追求してきた任天堂ならではの答えだったのだろう。一時期は苦しい状態が続いた任天堂だが、「面白い」とはどういうことかを突き詰めてきた底力が再び花を開きつつある。

 

中小企業は専業をテコに「一意専心の経営」に舵を切れ

 一意専心の経営は中小企業にこそ求められる。横に幅広いポーフォリオを抱え、システマティックに事業評価をしてポートフォリオを最適化するソフトバンクグループのような「投資の会社」と異なり、これだと決めた領域に長期的にコミットし、商売をどんどん深堀していく。一意専心が従業員のアイデンティティになり、求心力にもなる。これは中小企業の経営スタイルそのものだ。

 規模からすれば大企業であるはずのスズキ。前社長の鈴木修さんは『俺は、中小企業のおやじ』(日本経済新聞出版社刊)というタイトルの本を書いている。このタイトルに、多くの日本人は肯定的なニュアンスを感じ、「いいな、その心意気」と思うだろう。実際の規模の大小にかかわらず、専業をテコに競争力を高めている中小企業的な経営のほうが力を発揮できるのではないだろうか。

 もちろん専業経営には、リスク分散ができないとか、変化への対応に時間がかかるとか、問題点は多々ある。だが、戦略のそもそもの定義は「他社と違ったことをする」である。「一意専心の中小企業」という経営スタイルは競合他社との違いとなり得るし、競争優位の源泉となる。

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